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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第四話品目別規則の不思議

原産地規則は、内容的には2章建てになっており、規則章と手続章とに分かれます。規則章は、本体規定と別表とから構成される場合が多く、原産品資格を与える基準として産品の生産が一ヶ国で完結する「完全生産品の定義」は協定本体に、産品の生産に外国から輸入した材料を使用した場合に適用される「品目別規則」は別表・附属書に置かれます。その品目別規則の一番初めに出てくるのがHS第1類(生きた動物)です。

我が国のEPA原産地規則においては、第1類(生きた動物)の原産性判断基準として、アセアン諸国とのEPAに採用されている「Change of Chapter(HS品目表の類変更)」ルールと日インドEPAで採用されている「完全生産品であること」と規定するルールの2種類が存在します。前者は米国が締結している特恵原産地規則に多く見られ、後者はEUが締結している同規則によく見られます。生きた動物は、常識的には母体から直接誕生するか、母体から一旦卵として生まれ、後に孵化する場合を想定するので、完全生産品の「締約国(の領域)において生まれ、かつ、成育されたもの」という定義にピタリとはまります。たとえ、輸入された精液(HS第05.11項)で人工授精の結果生まれた動物であっても、完全生産品の定義で原産品として認められます。したがって、品目別規則にわざわざ規定しなくても実務に支障をきたすことはないかもしれません。しかしながら、HS類変更ルールとなりますと、そもそも生きた動物がHSの他の類の物品から変更することはありえないのではないかとの議論があり、この規則はナンセンスであるとの批判を被ることもあります。

さて、ここで原産地オタク達の面白い論争が始まります。HS類変更ルールの存在には正当な意味があるとの立場からは、例えば、サラブレッドを輸入する場合には、外国原産の蹄鉄を付けてしまったらもはや完全生産品ではなくなり、品目別規則で原産性を付与する必要があり、HS類変更が最適であると主張します。すなわち、「生きた動物」以外のものは何でも輸入して、当該動物に取り付けたとしても、器具等を取り付けた動物は原産品と認められることになります。もし品目別規則において「完全生産品であること」としてしまったら、このような場合に原産性を付与することができなくなると言うのでしょう。

一方、その議論への反論としては、そもそもHS第1類が対象としているモノは「生きた動物」なのであって、そこに設定された品目別規則の趣旨は「生きた動物が完全生産品であること」を求める一種の加工工程基準である。したがって、蹄鉄は通常の商品に置き換えれば「附属品」と同じであって、本体規定の適用により加工工程基準の適用においては「附属品」を考慮する必要はないと言うのかもしれません。さらに、反撃を加えるべく、巡回サーカスの構成動物として入国したロバ(第95.08項)が負傷してしまって、もはやサーカスでは使えないことになり、他国に売却された場合、輸入されたロバ(第95.08項)が他国へ輸出される際にHS類の変更が生じている(第95類の巡回サーカス用動物から第1類の普通の生きたロバへの変更)ので負傷した国の原産となってしまうではないか。そうであるならば、不合理ではないかと主張するかもしれません。

オタク達の限りないオタク論争を収束させるためにはどうしたらいいでしょうか。少なくとも、「サーカスのロバ」仮説に再反論して引き分けとしましょう。さて、第1類の生きた動物に対して適用されるルールをあえて精緻化するならば、「HS類の変更。ただし、第95.08項からの変更を除く。」とすればよいのかもしれません。若しくは、NAFTAマーキング・ルールのように「製品の用途変更による分類変更は、品目別規則を満たしたとはみなさない」との規定を入れるかです。このような場合、原産地規則の考え方では、当初の原産地をそのまま維持することになり、動物が負傷した国の原産品とはなりません。

しかしながら、「そこまでやるか」という常識論があります。洋の東西を問わず、第1類の品目別規定において、そこまで徹底した配慮を施した規定は見たことがありません※1。原産地規則の交渉者達は、実際の貿易にほとんど影響を及ぼさないような事例について敢えてすべてを拾い上げることをせず、常識の範囲に任せるという手法を採っているのかもしれません。

2017年2月1日 掲載
  • ※1唯一の例外は、徹底的に議論した結果として採用されたWTO非特恵調和規則案における「Ottawa language」による規定です。詳しくお知りになりたい方は、本ウェブサイトに同時連載されている「検証 WTO非特恵原産地規則調和作業」の第3編第2章第1節(調和規則の構造)をご覧ください(本年後半に掲載予定)。
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