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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第六話原産地決定 - 鶏が先か、卵が先か?

今回は、原産地用語でいう「完全生産品」についてのお話です。完全生産品とは、一つの国(又は地域)で、何も輸入原材料を使用せずに、粗原料から一貫して最終製品までを生産した場合の物品です。さて、鶏は卵を産み、卵が孵化すると雛になり、雛が成鳥になると卵を産むというライフサイクルを繰り返します。ここで、原産地規則を適用すると興味深い結果になります。 先ずは、よく使われるアジア諸国とのEPA特恵原産地規則における完全生産品の定義のうち、本事例に適用されうる定義を見てみましょう。

  • @ 生きている動物であって、当該締約国において生まれ、かつ、成育されたもの
  • A 当該締約国において狩猟、わなかけ、漁ろう、採集又は捕獲により得られる動物
  • B 当該締約国において生きている動物から得られる産品

それでは、これらの定義を卵に当てはめてみると、卵は上記Bの「生きている動物(鶏)から得られたもの」として、産み落とされた国の原産になります。ここでは「生きている動物」について何らの限定がないので、隣国の鶏が国境を越えて自国の領域で卵を産めば、その卵は(原産地規則上は)自国の原産になります(もっとも、卵は誰のものかという所有権の問題は別です。)。また、大量生産をするため、隣国から鶏を輸入し、産卵させたとしても、結果は同じです。このように、原産地規則においては、鶏は製品を製造する機械と同じように取り扱われます。

次に、雛の原産地はどこになるでしょうか。雛は生きている動物であって、卵が孵化したものです。アジア諸国とのEPA特恵原産地規則における完全生産品の定義は、WTO非特恵原産地規則案をそのまま提案し、合意されています。WTO非特恵原産地規則案では、卵からの孵化は生まれたものとみなされ、我が国もその解釈を支持しています。その考えに従えば、雛の原産地は上記@の「生きている動物であって、当該国において生まれ、かつ、成育されたもの」として、卵から孵化し、雛として生きている国となります。したがって、孵化用の卵を隣国から仕入れたとしても、孵化器で孵化させれば雛に対して原産性が付与されることになります。

では、雛が育って鶏になった場合はどうでしょうか。その鶏が卵から孵化し、雛の状態から一貫して一つの国で成育されれば、完全生産品である雛がそのまま同じ国で成育される訳ですから、原産地はその国(孵化し、成育した国)になります。それでは、雛を隣国から仕入れて、自国で肥育して成鳥に育てた場合はどうでしょうか。我が国では肥育を完全生産品として認めていないため、完全生産品にはなりません。では、肥育は「実質的変更」になるのでしょうか。品目別規則においても我が国のEPA原産地規則においては原産品となりません。

最後に、残されたAの定義に説明に移ります。この定義は、領海、河川、湖沼での魚釣りの場合には説明に苦労しませんが、鳥、特に野鳥となると、説明にも慎重にならざるをえません。まず、勝手な想像をしてみましょう。大陸の国境際に住んでいる農家の鶏が柵を越えて隣国に行ってしまって、隣国の何者かによって捕獲されたとします。その何者かがその鶏を輸出しようとしたらどうでしょう。定義の「捕獲により得られる動物」に該当しそうですが、これは「捕獲」ではなく「窃盗」であるから原産地は肥育者である農家の所在する国であるとの反論があるかもしれません。この定義は本来、所属が確定している家禽を対象としたものではなく、狩猟の対象となる動物についてヨーロッパのジビエのような場合を想定していただければ理解しやすいと思います。狩猟の結果として「物品」は、生死を問わないことになっています。

原産地規則の議論からは外れてしまいますが、野生動物は条約、法律で保護されていることが多いので、その場合には、そもそも「捕獲」、「飼育」が禁じられていることに留意しなければなりません。我が国のような島国では、渡り鳥に対してこれらの狩猟に係る完全生産品定義を適用する機会がありそうですが、我が国では自然との共存共栄を文化として日常生活を送っておりますので、いくら原産地オタクとはいえ、あまり無粋なことは言わず、野鳥は静かに見守っていきたいものですね。

2017年4月3日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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