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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第十話『セット』の原産地規則

特恵、非特恵を問わず、原産地規則には「セット」に適用される個別規定を置く場合があります。一方、そのような規定がない規則もあります。なぜ「セット」に個別規定が必要なのでしょうか。その質問に答えるためには、まず「セット」とは何であるかを明らかにしなければなりません。読者の皆さんは、「セット」というと何を思い浮かべるでしょうか。「トラベルセット」、「純銀ナイフ・フォークセット」、「たこ焼きセット」、今の季節には「お中元セット」、オヤジ諸氏には「2時間飲み放題セット」。いくらでも出てきますが、原産地規則はモノを対象とし、モノはHS品目表によって分類されますので、HSの「セット」の定義を理解しなければなりません。HS品目表は、「関税率表の解釈に関する通則」と第1類から第97類までの品目表とで構成され、品目表における物品の所属は、通則1から通則6までの原則により決定することになっています。

このような前提でお話しを進めると、輸出入される産品には大きく分けて3種類のセットの概念が存在するように思います。

一つ目は、HS品目表の品名に「セット」又は「キット」の記述があるもので、通則1(「・・・物品の所属は、項の規定・・・に従い、」)が適用されます。例えば、以下のものが該当します。

@第82.06項
手道具又は手工具のセット(第82.02項から第82.05項までの二以上の項の製品を小売用のセットにしたものを除く。)

A第8214.20号
マニキュア用又はペディキュア用のセット及び用具(つめやすりを含む。)

B第96.05項
トラベルセット

二つ目は、HS通則の3(b)において「小売り用セットにした物品」として分類されるもので、個々の物品が共に使用する目的で最終使用者に販売されるセットのみを含みます。この場合、当該物品(セット)に重要な特性を与えている材料又は構成要素からなるものとして、その所属を決定します。例えば、以下のものが該当します。

第19.02項
パスタセット(生スパゲッティの包み(第19.02項)、すりおろしチーズの袋(第04.06項)及びトマトソースの小さな缶(第21.03項)を紙箱に収めたもの)

この例は、スパゲッティ料理を調製する際に共に使用する目的で種々の食料品を組み合わせたもので、共に包装され、買い手が消費するもので、重要な特性を与えている材料である生スパゲッティの包み(第19.02項)として分類されることになります。

なお、通則3(b)の「小売用のセットにした物品」として分類されるには、次の3条件を全て満たさなければなりません。

  • @ 異なる項に属するとみられる二以上の異なった物品から成るもの
  • A ある特定の必要性を満たすため又はある特定の活動を行うため、共に包装された産品又は製品から成り、かつ
  • B 再包装しないで、最終使用者に直接販売するのに適した状態(例えば、箱若しくはケースの中に又は厚紙の上)に包装されている物品

さらに、極めて稀ですが、セットの構成要素の中で「重要な特性」を与えている物品を特定できない場合には、通則3(c)を適用して「所属を決定するに当たって等しく考慮に値する項のうち数字上の配列において最後となる項」に属することになります。ちなみに、TPPのセット規定は、通則3(c)のセットに対してのみ適用されます。

三つめが、その他の商業上のセットと呼称されるもの。これには、例えば、ウィスキー(第22.08項)と赤ワイン(第22.04項)のボトルを板紙製の箱に詰めたものが含まれますが、HS品目表ではこれらはセットとして単一の項又は号に分類されず、第22.03項のワインと第22.06項のウィスキーの二つのモノとして分類されます。したがって、原産地規則の「セット規定」は適用されません。この例では、「小売り用セット」に分類されるための3条件のうち@とBは満たしているようですが、「愉快に酔っぱらうため」という理由では、Aの「特定の必要性を満たすため又はある特定の活動を行うため」という条件を満たさないようです。

さて、ここまでの説明で、HSで何が「小売り用セット」として分類されるかについてご理解いただけたと思います。次に、実際にEPA原産地規則におけるセット規定を見てみましょう。現時点においては、セット規定が置かれているのはラテン・アメリカ諸国との二国間協定及び同諸国を加盟国に含むTPPに限られます(日メキシコ協定第29条、日チリ協定第35条、日ペルー協定第47条及びTPP協定第3.17条。参考参照)。さらには、通則3を適用した「小売用のセットとしての物品」に限るもの(日チリ及びTPP)と、通則3及び通則1(セットとして明示的に記述される産品)の双方を対象とするものに分かれます。両者の違いは、通則1を適用した産品(セットとして明示的に記述される産品)をセット規定の下に置くか否かによりますが、以下に、要点をまとめてみましょう。

セット規定に通則1を含む場合: 例えば、日メキシコ協定及び日ペルー協定において、第82.06項の「手道具又は手工具のセット」の原産性判断を行う場合、当該セットを構成する産品がすべて原産品でなければならず、そのうちの一つでも非原産品が含まれる場合には当該非原産が「セットの総額の10%以下」でなければならず、非常に厳格なルールとなっています(事実上、ほぼ付加価値90%ルール)。

セット規定に通則1を含まない場合: 例えば、TPP協定において第82.06項の「手道具又は手工具のセット」の原産性判断を行う場合、品目別規則としての

  • @ 類(HS2桁)変更ルール、又は
  • A 付加価値ルール:35%(積上げ方式)、45%(控除方式)、55%(重点価額方式)

のどちらかを満たす必要があります。

セットを構成する手道具・手工具は第82.02項から第82.05項までに分類されるため、関税分類変更基準(上記@:類の変更)を満たすためには、完成品又はそれらの卑金属製の部分品(物品と同じ項に属する。)は非原産品であってはなりません。したがって、域内において、粗原料から卑金属製の部分品を製造し、さらに手道具・手工具に仕上げなければならず、これは、上記「セット規定に通則1を含む場合」よりも一層厳格なルールとなります。

一方、付加価値基準(上記A:付加価値ルール)を選択すれば、上記の「セット規定に通則1を含む場合(事実上のほぼ付加価値90%ルール)」に比較して閾値(35%〜55%)が低いため、より満たし易くなっていることが分かります。

最後に、応用問題を一つ。セット規定を置かない日マレーシア協定において第82.06項の「手道具又は手工具のセット」の原産性判断を行う際に、品目別規則の「号変更ルール又は付加価値40%ルール」を満たしたとしても、同協定31条「原産資格を与えることとならない作業」(f)の「物品を単にセットにする作業」に該当して、原産性を否定されることがあるのでしょうか。すなわち、非原産の手道具・手工具を一切使用することはできないのでしょうか。

重要なポイントとして、同協定第31条は、関税分類変更基準又は加工工程基準に対してのみ適用されます。したがって、付加価値基準が適用され、これを満たす場合には、当該産品は(他の必要な要件を満たす限り)常に原産品と認められます。また、加工工程基準を満たしながら、「物品を単にセットにする作業」に該当することは事実上ありないと考えられます。そうすると、問題となるのは関税分類変更基準を適用する場合です。前述のとおり、セットを構成する手道具・手工具は第82.02項から第82.05項までに分類されるので、セットを構成する手道具・手工具がすべて非原産であった場合であっても「号変更」を満たすことになりますが、これでは「原産資格を与えることとならない作業」(f)に該当してしまいます。そこで、実務上の取扱いでは、セットを構成する手工具・手道具のうち、一つでも原産品が存在すれば「物品を単にセットにする作業」には該当せず、当該セットは原産品として取り扱われます。

さて、冒頭の「なぜ『セット』に個別規定が必要なのか」という疑問への回答です。筆者が思うに、ラテン・アメリカ諸国では、セットを構成する個々の産品を収集し、箱詰めにしただけで形式的に品目別規則を満たしたとしても、これを原産品として認めることに抵抗があったために、原産地規則にセット規定を設けたのでしょう。すなわち、セットとなる製品分野に原産地規則を厳格にして守るべき国内産業が存在するということが推察されます。一方、我が国を含む多くの国では、セット規定を不要とする代わりに、「原産資格を与えることとならない作業」に「単にセットにする作業」を導入することでバランスを取ろうとしたのでしょう。

「セット」規定条文比較表

日メキシコ協定第29条(セット、キット又は複合的な産品)《平成17年4月発効》

  • 1. ・・・通則3の・・・セット・・・及び品目表にセット・・・として明示的に記述される産品は、当該セット・・・に含まれるすべての産品が・・・原産地規則に定める要件を満たす場合には、原産品とする。
  • 2. 1の規定にかかわらず、セット・・・に含まれるすべての非原産材料の価額の総額が当該セット・・・の取引価額の10%以下であり、かつ、当該セット・・・が他のすべての関連する要件を満たす場合には、当該セット・・・は、原産品とする。
  • 3. この条の規定は、・・・品目別原産地規則に優先する。

日チリ協定第35条(セット、キット又は複合的な産品)《平成19年9月発効》

  • 1. ・・・通則3の・・・セット・・・は、当該セット・・・に含まれるすべての産品が・・・原産地規則に定める要件を満たす場合には、輸出締約国の原産品とする。
  • 2. 1の規定は、・・・品目別原産地規則に優先する。

日ペルー協定第47条(セット)《平成24年3月発効》

  • 1. ・・・通則3の・・・セット・・・及びHSにセットとして明示的に記述される産品は、当該セットに含まれる全ての産品がこの章の規定に従って原産品とされる場合には、締約国の原産品とする。
  • 2. 1の規定にかかわらず、セットに含まれる全ての非原産材料の価額の総額が当該セットのFOB価額・・・の10%以下であり、かつ、当該セットが・・・他のすべての関連する要件を満たす場合には、当該セットは原産品とする。
  • 3. この条の規定は、・・・品目別規則に優先する。

TPP協定第3.17条(産品のセット)≪平成28年2月署名≫

  • 1. 各締約国は、・・・通則3(a)又は(b)の・・・セットについて、当該セットの原産品としての資格は、・・・品目別原産地規則に従って決定されることを定める。
  • 2. 各締約国は、通則3(c)の・・・セットについて、当該セットを構成する各産品が原産品であり、かつ、当該セット及び各産品が・・・他の関連する要件を満たすときに限り、当該セットを原産品とすることを定める。
  • 3. 2の規定にかかわらず、通則3(c)の・・・セットについて、当該セットに含まれる全ての非原産品の価額が当該セットの価額の10%を超えない場合には、当該セットを原産品とする。
  • 4. 3の規定の適用上、セットに含まれる非原産品の価額及び当該セットの価額は、非原産材料の価額及び産品の価額と同じ方法で算定する。
2017年8月1日 掲載
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