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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第十一話『コーヒー』の原産地

WTO非特恵原産地規則の調和作業において、難交渉が続いた農産品の中でもワインとコーヒーは交渉がデッドロックに乗り上げた象徴的な品目でした(第8話「ワインの原産国」参照)。そこで、今回は「コーヒーの原産地」を取り上げてみましょう。コーヒー豆はそのままでは消費に適さず、精製、焙煎等を経て小売用のコーヒー豆又は挽いた粉として小売販売されます。当時は、特にコロンビアに代表されたコーヒー豆の生産国が官民挙げての自国ブランド売込みに力を入れていた時で、コーヒー豆の生産国は、流通過程において加工されたとしてもコーヒー豆の原産国が最後まで維持されるべきであると主張しました。消費国で行う主な加工には、焙煎とカフェイン除去加工があります。欧州・米国に代表されるコーヒー加工・消費国は、加工国こそが原産国であるべきとして、技術論及び政策論で「どこまで行っても平行線」を辿りました。

それでは、1990年代後半に展開された原産地の「実質的変更」に係る熱い技術的論争の一端を以下に紹介します。文章の裏に潜む、「熱い思い」を感じ取っていただければと思います。(出典:WCO文書OR41.447, OR41.504, OR41.745、OC42.146の要旨を筆者が仮訳したもの。なお、本稿は、WTO非特恵原産地規則調和作業における議論を紹介するもので、現在の我が国の規則を解説したものではありませんので、ご留意下さい。)。

【コーヒー生産国の立場】

『コーヒーは果実であって、その果実から感覚を刺激するアロマ、酸味、にがみ、こくを持った飲料を得ることができる。これらの感覚刺激特性(organoleptic characteristics)は、以下の組合せによって決定される。@アラビカ(染色体数44)、ロブスタ(染色体数22)といったコーヒーの種、Aコーヒーの木が栽培される土地の緯度、経度、土壌、B日照時間及び降雨といった栽培時の気候条件、Cコーヒーの実の収穫方法及びDコーヒーの実を乾燥した緑色の豆に加工(精製)する方法。このうち、コーヒーの種が最も重要で、決まった数の染色体を有し、上述の諸条件との相互作用によって特定の化学組成を生み出し、最終的な味を左右し、感覚刺激特性を与えることになる。また、コーヒーの栽培地における収穫及び精製加工は味と香りの品質を決定づける。不良品が出ればそれまでで、カフェイン除去又は焙煎加工によって味と香りを取り戻すことはできない。例えば、コーヒー豆の発酵が過度に長引いた場合には、望まない香りを生じさせることになる。したがって、感覚刺激特性は上記の要因によって決定され、カフェインの除去又は焙煎によって変更されることはない。』

『カフェインの除去とは、水、有機溶媒又はガスを加えることによって行われるが、これはコーヒーが持つ113もの要素のうちの一つを部分的に取り除くに過ぎず、コーヒーの味の特質を変更させるものではない。』

【コーヒー消費国の立場 - カフェインの除去】

『カフェインの除去は、諸種の溶剤を使用する工業工程であり、カフェイン含有を嗜好しない顧客の要望に応えた全く新しい、商業的に別商品を産み出す実質的変更である。カフェインの除去は焙煎の前に行われ、コーヒー豆のカフェイン含有量の96%〜98%を除去する。この工程によってコーヒー豆の物理的、科学的構造が破壊される。使用する溶剤によって方法も異なるが、溶剤には塩化メチレン、酢酸メチル、水及び液化炭酸ガスがある。カフェインを除去した後のコーヒー豆は、未だ生(緑色)であり、コーヒーを淹れるには焙煎工程を経なければならない。また、溶剤の使用効果として、単にカフェインの除去のみにとどまらず、その他のコーヒーの物質も溶剤に溶け出すため、カフェイン抜きのコーヒーの味はそうでないコーヒーの味とは異なる。結論として、カフェインの除去はコーヒー豆の化学構造を変化させ、最後の実質的変更が行われた新たな物品であると言える。』

【コーヒー豆の焙煎をめぐる技術論の対立】

コーヒー豆の生産国 コーヒー豆の加工・消費国
焙煎は、以下の理由から実質的変更とは認められない。

@コーヒーの焙煎は、1554年から行われている単純な加工であって、200℃から300℃の乾燥した熱を加えることで水分を飛ばし、飲料にする準備を促進する。この過程は単純で、正確な加熱温度、加熱時間を求めるものではないため、家庭のレンジ又はオーブンでも行うことができる。
緑色コーヒー豆は、焙煎によって以下のように実質的に変更される。

@コーヒーの焙煎は実質的変更であり、焙煎しないコーヒーの消費はありえない。焙煎は、200℃から260℃の高温で専用施設において行われ、複雑な反応の連鎖が生じる。その結果、焙煎されたコーヒー豆は化学的組成が緑色豆とは際立って異なる。濃厚な焙煎による最大24%及び軽い焙煎による約15%の重量減は、焙煎による蒸発作用に起因する。水分は焙煎豆の重量の約2%にまで減少する。焙煎していない豆の水分含有は、豆の12%〜14%である。
A焙煎工程においては、何らの新たな物質が加えられず、新たな産品が生み出される訳ではない。コーヒーの最終的な香り、アロマ、にがみ及び酸味を生み出し、コーヒーをコーヒーたらしめる複雑な生化学反応は、コーヒーの木が栽培される地で生じる。 A体積の膨張はガス成分(主に二酸化炭素)とその他の自然芳香成分(コーヒー)の組成及び拡張による。これには、殻の50%〜80%の膨張も含まれる。そのため、豆を挽く際に砕けやすくなる。焙煎により化学的な変化が生じ、最終的な商品のアロマ及び香りの品質を左右する。焙煎後、アロマは継続的に放たれる。
B焙煎の結果は、ゲノム発現(遺伝子及び環境)に依拠する精製豆(グリーン・コーヒー)に内在する特徴の現れに過ぎない。すなわち、飲料から得られる感覚刺激特性は、精製豆に既に存在している特性に完全に依拠している。したがって、焙煎が精製コーヒー豆になかった感覚刺激特性を作り出すことはありえない。 B焙煎していないコーヒー豆は緑色又は黄色(古豆)で、堅く、生の味(新豆)がする。水分は12%〜14%で、色及び繊維質の変化は明るいシナモン色から非常に暗い色まで様々で、ロースターの技術に依拠する。焙煎の過程で豆は緑色から明るいシナモン色、更にはダークロースト色へと変わるが、色は顧客の嗜好にもよれば、基準にもよる。
C焙煎は、コーヒーの基本的な有機成分の化学的構成を変更しない。例えば、アラビカ種の精製豆のカフェインの成分は1.2%であるのに対し、焙煎後のものは1.3%。同様に、トリゴネリン成分は焙煎の前後で1%と変わらない。アロマを決定づける成分である脂質は、精製豆に16.2%含まれるのに対し、焙煎した豆には17%。ミネラル分は焙煎前が4.2%で焙煎後が4.5%であるにすぎない。 C焙煎過程は、秒単位で緑色豆の要素を分解し又はその他の中間物質を形作っていく。このような中間物質には、例えば、カフェイン、砂糖、水、油、たんぱく質、クロロゲン酸、タンニン、カフェタンニン、コーヒー酸、でんぷん、トリゴネリン、繊維状物質、灰及びビタミンの痕跡がある。味覚は焙煎に要する時間次第であり、シナモン色はナッツの味、中間色はアロマの香り、濃い色は刺激のあるにがい香りとなる。
D焙煎は、コーヒー豆のブレンドと異なり消費者の嗜好を反映せず、単に精製豆に内在する品質を引き出す試みに過ぎない。付言すれば、精製豆の焙煎は(コーヒー消費国が主張する)乾燥蒸留工程ではない。蒸留とは、気化及び圧縮工程による揮発性の低い物質から揮発性の高い物質を分離する工程である。 D焙煎は、香りとアロマを生み出す新たな成分の組成を伴う乾燥蒸留である。アロマは、アルデヒド、アルコール及びフェノールの結合によって生じる。緑色のコーヒー豆は長期間の保存に耐えるが、焙煎後のコーヒー豆はアルデヒドが徐々に減ってきて、フェノールと硫化水素が組成され香りを変えてしまう。ジアセチルはアセチルメチルカルビノールに変化し、アロマを失う。このような化学的変化は実質的変更である。

【交渉の結末】

まさに、国家の面目・主要輸出産品のマーケティング戦略をかけた議論の応酬で、交渉官に「妥協するマンデートが与えられていない」ことが透けて見え、技術的検討の場での解決は九分九厘無理であろうと感じました。今日であれば、より正確な技術情報の把握が可能であるかもしれませんが、当時は、インターネットで簡単に情報検索できる時代ではなく、双方の専門家が真逆の立論をした場合に、どちらが正しいか、より説得力があるかの判別もつきかねました。自然な流れとして、「技術論」では埒が明かないので「政策論」で勝負しようとなります。

交渉が長引くと、「その品目分野の技術専門家」は次第に登場機会が減り、通商政策の観点からの議論に焦点が移されます。ワインと同様に、ブレンドの問題がコーヒー生産国の一枚岩を崩し、双方の歩み寄りを促しました。例えば、コーヒーに限って、「コロンビア・コーヒーが使用されていれば、たとえ他の国のコーヒー豆が使用されていても、最終製品はコロンビア・コーヒーである」というルールは書けません。したがって、現実の取引実態を反映した「落としどころ」を模索せざるを得ませんでした。ブレンドに係る原産地規則委員会議長の最終パッケージ提案においては、ワインの場合と異なり、「一ヶ国のコーヒー豆がブレンドされたコーヒー豆の全重量の50%(ワインでは85%)を超えれば当該国の原産品」となります。

一方、カフェインを除いたコーヒーと焙煎したコーヒーの原産地は、生産国と加工・消費国とで痛み分けとなりました。まず、カフェインの除去は実質的変更とは認められず、豆の原産国が維持されます。焙煎は実質的変更となりますが、一ヶ国で生産された豆のみを焙煎した場合には実質的変更を認めず、豆の原産国が維持されます。したがって、複数国の豆を焙煎した場合に限って加工国が原産国となりますが、一ヶ国の豆が重量比で50%超であれば当該豆の原産国が維持されることになります(注)。

(注)下の表のとおり、焙煎したブレンド豆に対しては、プライマリー・ルールとして「CTSH」(HS号の変更)ルールが定められています。調和規則の総則規定(案)の考え方に従えば、レジデュアル・ルールはプライマリー・ルールが適用されない場合に限っての適用になるので、CTSHと書いてしまうと「二ヶ国以上の豆を焙煎」した場合にはブレンド比に関わらず号変更が生じてしまい、焙煎国が原産地となるように読めてしまいます。そうなると、レジデュアル・ルールの「重量比50%超」の要件を適用する余地がなくなってしまいます。これはルールの書き方の問題なので、(調和規則が実現するのであれば)「重量比50%超」の要件をプライマリー・ルールのレベルに上げるべく、技術的調整が行われることになると考えられます。

原産地規則委員会議長最終パッケージ提案
第9類(コーヒー、茶、マテ及び香辛料)の品目別規則

HS番号 品名 プライマリー・ルール
09.01 コーヒー(いってあるかないか又はカフェインを除いてあるかないかを問わない。)、コーヒー豆の殻及び皮並びにコーヒーを含有するコーヒー代用物(コーヒーの含有量のいかんを問わない。)  
  - コーヒー(いったものを除く。)  
0901.11 --カフェインを除いてないもの 原産国は本号の植物が育った国
0901.12 --カフェインを除いたもの [原産国は植物が育った国]
  - コーヒー(いったものに限る。)  
0901.21 --カフェインを除いてないもの  
ex0901.21(a) ---一の国で得られた第0901.11号の物品から得られたもの [原産国は植物が育った国]
ex0901.21(b) ---その他のもの [CTSH]
0901.22 --カフェインを除いたもの  
ex0901.22(a) ---一の国で得られた第0901.11号の物品から得られたもの [原産国は植物が育った国]
ex0901.22(b) ---その他のもの [CTSH]
0901.90 - その他のもの  
ex0901.90(a) --コーヒーを含有するコーヒー代用物(コーヒー含有量のいかんを問わない。) [原産国は本スプリット号のすべての構成物が自然な又は未加工の状態で得られた国]
ex0901.90(b) --コーヒー豆の殻及び皮 原産国は植物が育った国
(注)[ ]書きは、未合意を意味する。

【第9類のレジデュアル・ルール】

  • 1. 第9類に適用されるレジデュアル・ルールにおいて、「混合」とは意図的かつ均質的に管理された、二つ以上の同一又は異なる代替可能な材料を一緒にする作業である。
  • 2. この類の物品の混合物の原産地は、混合物の重量の50%を超える材料の原産国とする。原産地が同一である材料の重量又は容量は、一緒のものとして取り扱う。
  • 3. 求められる百分率を満たす材料がない場合には、混合物の原産地は混合が行われた国とする。
(注)原文(英文)では、1から3までのレジデュアル・ルールは[ ]書き(未合意)になっている。
2017年9月4日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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