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第二十一話TPP11における税率差ルール(後半)

【第3章: 「税率差ルール」は2セットあった】

どうやら、我が国に適用される税率差ルールは2セットあるようです。すなわち、附属書2−Dの付録Cに規定される①税率差が3%を超える品目及び税率差が生じる品目で関税が従価税でない品目に適用されるルール(以下、「3%超ルール」という。)と、②それ以外の場合に適用されるルール(以下、「共通ルール」という。)です。さて、②に適用される「共通ルール」はどこに置かれているのでしょうか。内閣官房のウェブサイトに掲載されているTPP協定条文の邦文版(我が国に関連する部分のみ掲載)及び英文版(全加盟国分を掲載)で附属書2‐Dに添付される付録をすべて調べてみても、見当たりません。ルールなしで税率決定することはありえないので、附属書2‐D本体に規定があるに違いありません。ということで、附属書2‐Dをよくよく見てみると、ありました。しかも、その一番最後に、附属書2‐D第B節(関税率の差異)として。

それでは、2つの税率差ルールを見てみましょう。先ずは「共通ルール」から。

第B節 関税率の差異

  • 8. この附属書の締約国の表に別段の定めがある場合を除くほか、輸入締約国は、この附属書の当該輸入締約国の表に従って関税上の特恵待遇が要求された時に他の締約国に対して同一の原産品について異なる関税上の特恵待遇を適用する場合には、軽微な作業以外の最終生産工程が行われた締約国の原産品に対する関税率を適用する。
  • 9. 8の規定の適用上、「軽微な作業」とは、次のものをいう。
  • (a)輸送又は保管のために産品を良好な状態に保存することを確保する作業
  • (b)包装、再包装、貨物の仕分又は産品を小売用にすること(瓶、缶、フラスコ、袋、ケース又は箱に詰める作業を含む。)。
  • (c)産品の特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈
  • (d)セット、詰合せ、キット又は複合的な産品を構成することを意図した産品の収集
  • (e)(a)から(d)までに規定する作業の組合せ
  • 10.8の規定並びにこの附属書の締約国の表に定める適用可能な規則及び条件にかかわらず、輸入締約国は、輸入者が次のいずれかの関税上の特恵待遇を要求することを認める。
  • (a)いずれかの締約国からの原産品に適用される最も高い関税率
  • (b)生産工程が行われたいずれかの締約国から原産品に適用される最も高い関税率

附属書2‐D(関税に係る約束)第B節(関税率の差異)として規定される「共通ルール」は、全締約国(現時点では、チリ、カナダ、我が国、[米国及び]メキシコのみ。他の締約国は共通譲許を行っているので税率差が生じない。)に適用される基本ルールを定めています。加えて、我が国、[米国及び]メキシコの場合には、譲許表に定める特定品目について、固有の税率差ルール(我が国では「3%超ルール」)が適用されることになります。「共通ルール」を要約すると、以下のとおりです。

第1段階

輸入者は次のいずれかを選択(ただし、我が国、メキシコ[及び米国]については、特別ルールが適用されない品目に限る。)

  • ① 最終生産国(軽微な作業のみでは適用不可)の税率
  • ② 全締約国の譲許税率のうち当該原産品に適用される最高税率、又は
  • ③ 生産工程に関与した締約国の譲許税率のうち当該原産品に適用される最高税率

第2段階

最終輸出国で軽微な作業のみを行った場合、生産に関与した国を遡って当該原産品の軽微な作業以外の生産を最後に行った国の税率

「軽微な作業」は、以下のとおりです。

  • (a)輸送又は保管のために産品を良好な状態に保存することを確保する作業
  • (b)包装、再包装、貨物の仕分又は産品を小売用にすること(瓶、缶、フラスコ、袋、ケース又は箱に詰める作業を含む。)。
  • (c)産品の特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈
  • (d)セット、詰合せ、キット又は複合的な産品を構成することを意図した産品の収集
  • (e)(a)から(d)までに規定する作業の組合せ

上記「軽微な作業」は、既存EPA協定で「原産資格を与えることとならない作業」として規定されている内容とほぼ同じですが、TPPにおいては、産品の原産性判断のためのネガティブルールとしては採用されず、税率差ルールにおいて初めて登場することになります。

では、次に付録Cに規定される、我が国における輸入にのみ適用される「3%超ルール」を見てみましょう。

『次の表C−1に掲げる原産品に関し、同表において各産品について定める期間の間、輸入者による関税上の特恵待遇の要求において適用される原産性の基準に従い、

(a)日本国は、次のいずれかの関税率を適用する。
(i) 当該原産品が、・・・(略)
(ii) 当該原産品が、・・・(略)』

先月掲載分(前半)で既にご紹介済みですが、付録Cの税率差ルールは、表C-1に列挙されている魚、合板、ニッケル等26品目のみを対象とし、同表に記載された期間に限定して適用されます。26品目に適用される品目別規則は、ほぼすべてが関税分類変更基準であり、統計品目番号190190.243(その他のもの)の一部で、類変更に加え、非原産材料の米粉の価額が産品の価額の30%以下との材料使用制限が課せられているものがあります。このような状況にあって、「3%超ルール」が「関税上の特恵待遇の要求において適用される原産性の基準に従い、・・・関税率を適用する」と定めていることは、極めて奇異に感じます。原産性判断は、

(イ) 完全生産品定義に該当すること、
(ロ) 使用材料がすべて原産品であること、

品目別規則の
(ハ) 関税分類変更基準、
(ニ) 加工工程基準、又は
(ホ) 付加価値基準

のいずれかを満たすことを証明する過程において行われますが、完全自己申告制度を採用するTPPにおいては、その立証にどの基準を適用するかについて、事業者(輸出者、生産者又は輸入者)が自由に選択できます。したがって、「3%超ルール」は、事業者が選択した「原産性の基準」に従って税率決定を行なう仕組みであるように理解できますが、当該26品目について選択可能な原産性基準は、(イ)完全生産品、(ロ)原産材料のみからの生産、又は(ハ)関税分類変更基準となります(例外的な品目として、上記統計品目番号190190.243があることに留意)。何故、このような規定を置いているのでしょうか。筆者の推測では、現段階においては不必要に見えても、将来、税率差が幅広い品目分野にわたって生じる場合に備えて、敢えて我が国の基本的な考え方を規定しているのではないかと考えます。本稿の前半部分で触れたように、新規加盟国に適用する関税率のステージングが初年度からとなるのか、先行国と同じになるのかで大きな問題になり得ます。このような場合には、表C−1に品目が追加されることが前提となりますが、将来的に適用される税率に透明性、予見可能性を与えているとも言えましょう。

それでは、「3%超ルール」の規定を見てみましょう。

  • (i) 当該原産品が、附属書3−D(品目別原産地規則)に定める加工の要件又は関税分類の変更の要件に従い、原産品としての資格を取得した締約国からの当該原産品について適用される関税率
  • (ii) 当該原産品が、第3・2条(原産品)(a)若しくは(b)に定める要件又は附属書3−D(品目別原産地規則)に定める域内原産割合の要件に従い、生産工程を通じて原産品としての資格を取得した場合には、特恵待遇の要求に係る生産工程の中で最大の価額が付加された締約国からの当該原産品について適用される関税率、又は特恵待遇の要求に係る生産工程に関与した二以上の締約国からの当該原産品に適用される関税率のうち最も高いもの

まず、(i)の規定は、当該産品の原産性の立証を上記(ハ)関税分類変更基準又は(ニ)加工工程基準で行うならば、これらの基準を満たした国の税率を適用するということです。すなわち、簡単な例を挙げると、域内A国で、域内B国の材料(木材)及び域外国の材料(クッション材及びクッションカバー用牛革)を使用して産品(食卓用の椅子)を生産した場合に、4桁変更を満たすのであれば、最終生産国であるA国と材料供給国であるB国に適用される税率が異なっていたとしても、当該産品は、関税分類変更基準を満たしたA国に対しての税率を適用することになります。加工工程基準を満たした場合も同様で、最終輸出国の税率を適用する標準的なケースとなります。

せっかくの機会なので、26品目に掲げられているその他の合板(第4412.31号)でも例を挙げてみましょう。品目別規則は項(HS4桁)変更ですから、第44.08項の合板用単板をTPP域外のミヤンマーからマレーシアに輸入し、第4412.31号のその他の合板を生産したとします。その場合には、第44.08項から第44.12項への変更があるので原産性が認められ、我が国に輸出される場合にはマレーシアに譲許した税率が適用されます。

次に、(ii)の規定です。この規定は、上記(i)以外の基準である(ィ)完全生産品、(ロ)原産品のみから生産、又は(ホ)付加価値基準によって原産性を立証するならば、生産に関与した締約国の中で、

  • ① 最大付加価値を供与した国の税率、又は
  • ② 付加価値基準を満たす数値を積算する上で税率の安い国を意図的に選択し、その関与国へのTPP税率中で最も高い税率

を適用することになります。
26品目では、(イ)完全生産品又は(ロ)原産品のみから生産された場合に使用されますが、「頭の体操」として、付加価値基準に適用することを想定してみると、非常によく考えられた規定であることが分かります。ある産品(100ドル)の原産性を立証するために付加価値基準(40%)を適用する仮説事例を下の表を基に解説してみましょう。

【生産関与国の付加価値貢献及び税率比較表(仮説)】

生産関与・材料提供国 付加価値への貢献 我が国のTPP税率 MFN税率
A国 20ドル 2% 15%
B国 30ドル 3%
C国 35ドル 10%
域外国 5ドル -
D国(最終輸出国) 10ドル 5%
合計 100ドル - -

ご承知のとおり、付加価値が40%以上であることを証明するには、域内で生産に関与したA国、B国、C国及びD国の全てを足し合わせて95%として立証する方法もありますが、A国とB国のみでも50%に達しますし、C国とD国のみでも45%、ギリギリですがB国とD国のみで40%基準を満たします。域内で最大付加価値を供与した国はC国ですから、C国に適用されるTPP税率の10%を適用することも可能です。しかしながら、もう一つの税率決定規定を適用するならば、意図的に選択した関与国のTPP税率の中で最高税率ということなので、低い税率の国を優先的に選択することで特恵マージンの極大化が図れます。したがって、この仮説事例ではA国とB国とで50%付加価値を立証し、その中での最高税率であるB国のTPP税率(3%)が適用されるシナリオがベストと言えます。

ここで、完全生産品に対して最大付加価値供与国の税率を適用する合理性が分からないという方がいらっしゃるかもしれません。域内原産の考え方では、ある加盟国の完全生産品をベースに(すなわち、基本材料として)別の加盟国の完全生産品を補足的材料として生産された産品は、域内の完全生産品になります。したがって、A国の完全生産品である魚(50ドル)をB国に輸入し、B国の完全生産品である塩(5ドル)をまぶして我が国に輸出した場合、完全生産品としての塩をまぶした魚に適用されるべき税率は最終輸出国であるB国ではなく、(我が国が意図した)A国に譲許したTPP税率を適用することにあると言えましょう。

「頭の体操」を先に進めます。

(b) (a)(i)の規定にかかわらず、当該原産品(部分品から組み立てられる第84類から第91類までの各類に分類される産品を除く。)が、附属書3-D(品目別原産地規則)に定める関税分類の変更の要件に従い、原産品としての資格を取得した場合において、当該原産品の生産に使用された材料が次のいずれかに分類されるときは、日本国は、当該材料が生産された締約国からの当該原産品について適用される関税率を適用する。

(i) 完成品と同一の類(関連する要件が類の変更に基づくものである場合)
(ii) 完成品と同一の項(関連する要件が項の変更に基づくものである場合)
(iii) 完成品と同一の号(関連する要件が号の変更に基づくものである場合)

これは、関税分類変更基準の抜け穴を塞ぐための規定のようです。ご承知のとおり、関税分類変更基準は非原産材料のみに焦点を当てて、分類番号の変更があれば原産性を付与します。問題は、域内で生産され、ほぼ完成品となった原産品(HS通則により重要な特性を有するものとして完成品分類される未完成品。例えば、前述の例をそのまま使用すると、クッションを牛革で被覆した食卓用の椅子を税率の安い締約国に移送し、形式的に関税分類変更基準を満たした形にするために、域外から輸入した安価な非原産材料(塗装用のニス)を使用して仕上げ工程を行った(ニスで塗装した)上で域内他国に再輸出する形をとるならば、(a)の規定に従った場合、関税分類変更を満たした国として最終輸出国の安い税率が適用されてしまいます。(b)の規定は、このような巧みな、「合法的な」迂回措置を防ぐための規定で、上記事例においては、最終輸出国ではなく、「ほぼ完成品」(クッションを牛革で被覆した食卓用椅子)が生産された国の税率が適用されることになります。

さて、あと二つルールが残されています。(c)の規定は、(a)でも(b)でも税率が決定できない場合に備えたもので、例えば、二つの締約国から同じ額の原産材料を輸入して混合した場合などに適用されます。最後の規定は、品目別規則が関税分類変更と付加価値のダブル要件になっている場合に、付加価値基準に対する税率決定ルールが適用されることを明らかにしています。

  • (c)日本国は、関税率が(a)又は(b)の規定の適用によって決定されない場合には、特恵待遇の要求に係る生産工程の中で最大の価額が付加された締約国からの当該原産品について適用される関税率を適用する
  • (d)品目別原産地規則が、加工の要件又は関税分類の変更の要件と共に域内原産割合の要件を満たすことを要求する場合には、適用される関税率については(a)(ii)の規定の適用によって決定される。

最後に、税率差が3%以下か3%超かによって税率決定ルールを別々に設定している理由は何でしょうか。想像するに、税率差が3%以下の産品を運賃、港湾手数料等を支払い、敢えて他国に迂回してまで関税マージンを得ることは、損得勘定からも事実上ありえないということなのでしょう。

2018年7月6日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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