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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第二十三話TPP11と日EU・EPA原産地規則の主な共通点と相違点

本年及び来年は我が国のEPA史に残る重要な年になりそうです。まず、米国の不参加を乗り越えてCPTPP(以下、「TPP11」)が3月8日に署名、6月13日に国会承認され、同月29日にはTPP11関連法案が国会で可決・成立しました。TPP11の発効には6ヶ国の批准を要しますが、我が国はメキシコに次いで2番目の批准となり、現在までにシンガポールを加えた3ヵ国が手続きを終えています。続く7月17日には日EU・EPAが署名され、同様な批准に向けた手続きが進むと考えられます。来年の今頃は、両メガ協定をごく普通に利用されている皆さんの姿が目に浮かぶようです。

私見ではありますが、今後の先進国が関与するEPA原産地規則は、TPP及び日EUが、もし大西洋横断貿易投資パートナーシップ(以下、「TTIP」)が米EUでまとまればこれらの三者が、事実上のEPA特恵原産地規則の世界基準として取り扱われるものと考えます。今般、日EU・EPAが署名されたことにより条文テキスト(邦文)が公開されましたので、両メガ協定のテキストを比較し、筆者の私見ではありますが、日EU・EPAとTPP11の原産地規則の主な共通点と相違点を簡潔にまとめてみましょう。

【共通点】

1. 自己申告(証明)制度

輸入者、輸出者、生産者による完全自己申告(証明)制度が採用され、原産性を証明する書類は複数回使用可能(期限は1年以内)となっている点において共通ですが、日EUはユニークな規定振りとなっています。まず、日EUにおける「輸出者」の定義は、第3.1条(c)で「締約国に所在する者であって、当該締約国の法令に定める要件に従い、原産品を輸出し、又は生産するもの(原産地に関する申告を作成する者に限る。)をいう」と定められているので、「輸出者」に自己申告を行う生産者が含まれていることにご注意下さい。

また、日EUでは、第3.16条(関税上の特恵待遇の要求)2(b)において「輸入者の知識」に基づく特恵待遇の要求を認めています。これは、米国が最近のFTA交渉で相手国に強く採用を求めている自己申告(証明)方式でありますが、TPPで不採用となったにもかかわらず日EUで採用されたことは注目に値すると思います。

2. 第三国の税関管理下で蔵置されている原産品のEPA輸出が可能

いわゆる積送基準として、原産品が締約国間を輸送される場合に、(i)変更、改変が行われてはならないこと、(ii)当該産品を良好な状態に保存するために必要な措置をとることができること、第三国での税関監督下であることを条件とした(iii)貨物の積卸し、仕分け、分割、蔵置、展示が(特段の期限が付されずに)可能であること等が共通ですが、これ自体は驚くようなことではありません。注目すべきは、本措置と自己申告制度の採用とが相まって、TPP11及び日EU双方で原産資格のある産品を第三国(又はアジアのTPP11加盟国)の税関監督下で蔵置し、TPP11締約国又はEU加盟国に向けて当該第三国からそのまま輸出することが可能となることです。第三者証明制度の下では、輸出時に、輸出国の発給当局から、当該輸出国から輸出される産品に対して証明書の発給を受けることになっておりましたが、自己申告を採用したことで、(蔵置に係る要件等を満たせば)産品の所在の如何にかかわらず、たとえ輸入申告の際であっても証明書類の作成が可能となりました。

また、積送基準の充足を証明する書類としての第三国税関当局の証明書の取得は極めて困難か、そもそもそのような証明書を発出する制度を持たないことが実務上の問題点でしたが、TPPも日EUも、運送書類、蔵置に係る書類等(の貿易事業者限りで入手可能な書面)による証明で足りるとしていますので、益々、使い勝手がよくなっています。

BREXITで英国のEU離脱の影響を心配されている企業の方にとって、離脱後の英国で生産された産品をEU加盟国に日EU・EPAを適用して輸出することはできませんが、我が国で生産された日EU原産品を英国の税関監督下で蔵置し、我が国所在の輸出者又はEU加盟国所在の輸入者が自己申告を行うことにより、EU域内に特恵輸出をすることは可能となるはずです。何年かかるか分かりませんが、BREXIT後の英国がTPPに加盟すれば、英国の港湾地区の税関監督下の倉庫をデポとし、英国とEU各国双方に特恵輸出することも現実味のある話になりますね。

3. 完全累積制度

「モノ」の累積のみならず、「生産行為」をも累積対象とする完全累積制度を採用している点において共通です。若干相違する点として、TPP11が累積される行為に何らの制限がないのに対して、日EUでは「十分な変更とはみなされない作業又は加工」に該当する場合には累積が適用されません。しかしながら、我が国と欧州とを往復して加工の程度を上げていくような工程をとる産品は稀でしょうから、累積規定の適用はごく少数の事例に限られることになることが想定されます。

【相違点】

1. 原産品(地域原産品か締約国原産品か)

TPP11で地域(TPP)原産の概念が採用されているのに対して、日EUでは締約国原産の概念が採用されています。地域原産は、多国間EPA協定においてより一層メリットを享受できる性格の概念ですが、日EUはバイ協定であることに加え、上で触れましたように、我が国と欧州との物理的な距離を考えますと、実務上、締約国原産の方が整理しやすいかもしれません。一方で、完全累積制度を採用しているので、締約国原産を採用しても地域原産に劣後することはありません。

2. 付加価値基準計算式(FOBかex worksか)

TPP11における付加価値基準の計算式(フォーミュラ)が、分母を原則FOBとする控除方式、積上方式、重点価額方式及び純費用方式(例外的にネット・コストを採用)の4種類を採用しているのに対して、日EUのフォーミュラは、分母をFOBとex worksの選択制とし、FOBを適用する場合は控除方式、ex worksを適用する場合は非原産材料の最大使用許容比率としています。品目別規則の個々の閾値は控除方式(FOB)と最大許容比率(ex works)とで当然異なるべきですが、控除方式(FOB)を適用する場合には、閾値を5パーセンテージ・ポイント高く設定しています(例えば、①FOB 55%、ex works 50%。②FOB 65%、ex works 40%。後者の場合はex works 40%の国内付加価値は60%になるので、5%を加えて65%となります。)。FOBとex worksの差は、工場出荷後の港までの輸送費、港湾での舷側に積み込むまでの諸費用の金額となりますので、この分が閾値の5%相当分となります。

3. 税関による事後確認(直接か間接か)

輸入国税関による事後確認の方法は、通常、輸入国税関が自国の輸入者からの疎明に満足しない場合に、MFN税率を適用しないことに税当局として納得できるようなより確かな証拠を相手国から入手するという手順を取ります。この場合、TPP11では、輸出国(相手国)の輸出者・生産者に(規定上は、輸入者への照会に先がけてであっても)直接照会できるのに対し、日EUにおいては輸入国税関が輸出国税関に確認を依頼する間接的な方法が採用されています。輸出者・生産者への直接的な事後確認方式は米国が主導する制度ですが、EUにとっては絶対に容認できないハードコア案件で、過去のFTA交渉においてEUがこの方式を受け容れたことはありません。

TPPに不参加となりましたが、昨今の米国税関の事後確認の方法は、輸入者自己申告を採用して以来、輸入者が疎明できなければ特恵税率の適用否認となりますから、本来、相手国の輸出者、生産者に照会する必要もありません。しかしながら、TPP11においては、輸出者・生産者が自己申告した場合には、輸入者による疎明が不充分であったとしても直ちに特恵否認することはできず、輸出者・生産者から確認を得なければならない仕組みとなっています。

4. 原産性証明書類の作成・保管

TPP11においては、書面(電子的な手段を含む)による原産地証明書(Certification of origin)の作成、日EUでは「インボイスその他の商業上の文書(原産品について特定することができるよう十分詳細に説明するもの)上に」原産地に関する申告(Statement on origin)を行うことが求められます。それぞれ、必要記載事項が定められていますが、TPP11では、証明者の署名が必要であるのに対し、日EUでは署名を要しません。また、日EUでは、(推測するに商業書類で明らかであるという理由でしょうか)これまで必須であった産品の品名、HS番号の記載も求められません。

【原産性を証明する文言】

(TPP11) 『私は、この文書に記載する産品が原産品であり、及びこの文章に含まれる情報が真正かつ正確であることを証明する。私は、そのような陳述を立証することに責任を負い、並びにこの証明書を裏付けるために必要な文書を保管し、及び要請に応じて提示し、又は確認のための訪問中に利用可能なものとすることに同意する。』
(日EU) 『(期間.....から.....まで)
この文書の対象となる産品の輸出者(輸出者参照番号...日本国の法人番号...)は、別段の明示をする場合を除くほか、当該産品の原産地.....が特恵に係る原産地であることを申告する。
(用いられた原産性の基準)
............................................................................
(場所及び日付)
............................................................................
(輸出者の氏名又は名称(活字体によるもの))
............................................................................』

双方とも電子媒体での関連書類の保存を容認しますが、保存期間が異なり、TPP11では5年間、日EUでは輸出者・生産者が4年間、輸入者が3年間の保存義務を負うことになります。

5. 原産性証明書類の使用言語

原産性を証明する場合、TPP11は英語を原則とし、英語以外の言語が使用された場合には輸入国の言語への翻訳を求めることができるのに対し、日EUではEUの公用語(アイルランド語を除く23言語)及び日本語の使用が求められ、翻訳を求めることは認められません。実務的には、対EU輸出において日本語による申告が認められるからといってあえて日本語を使用するよりは、英語で書く(指定された文章をコピペする)方が、輸入国税関職員に無用なストレスを生じさせず、事後確認を想定した場合の輸出入者の精神の安定に寄与するのかもしれません。

6. セット規定

セット規定はTPP11及び日EU双方の規則に存在し、セットを構成する各物品(構成要素)が当該セットに適用される品目別規則を満たすことを第1条件とし、万一、これを満たさない場合であっても、第2条件として当該規則を満たさない構成要素の価額が、TPP11ではセットの価額の10%、日EUでは同価額の15%以内であれば当該セットを原産品として認めるというものです。第1条件はかなり厳格な規定であり、事実上のセット規定は第2条件部分となります。第2条件部分で比較してみますと、TPP11ではHS通則3(c)に該当するセットのみを対象とし、日EUでは同通則3(b)及び(c)に該当するセットを対象とします。通則3(c)を適用する場合とは、当該セットに重要な特性を与えている構成要素が2つ以上存在することになりますので、関税分類の観点から考えてもそのような事例はごく少ないものと考えます。したがって、TPP11でセット規定が実際に適用されるのは極めて稀なこととなるでしょう。

7. 【TPP11限定】 MFN(一般)税率で通関後、事後的にEPA特恵関税の要求が可能

我が国が実施・署名しているEPAでこの規定が採用されているのは、TPPを除いて他にはありません。すなわち、何らかの理由によってMFN税率で通関しておきながら、後になって原産地証明書を輸入の日から1年以内に提示することによりTPP税率の適用が可能となるので、輸入者にとっては大変な朗報になるはずです。もっとも、この制度は、モノの通関と納税申告とを別々に行う国には問題なく執行できるのでしょうが、我が国のように「輸入納税申告」として両者を一括して行う国にとっては還付事務が増え、歳入額が変動することになるので、当局側の負担が大きくなりそうです。

8. 【日EU限定】 一旦、域外に出た原産品が再輸入された場合でも、第三国で何らの加工もなされず、元の形状のままであれば原産品扱いが可能

この規定はEPA原産地規則の「常識」から考えると「禁じ手」の一種でした。特恵原産地規則の一般的な解釈として、材料であれ産品であれ、EPA締約国の域外第三国に輸出され、同第三国で輸入通関されて市場に出回った産品は非原産となる「鉄則」があります。例えば、同じ日EUでも第3.2条(原産品の要件)第4項において、原産品資格要件は締約国において中断することなく満たされなければならない旨の規定で念押しをしております。これを一定の条件下で緩和しようという訳です。EUではバッグ等のファッション・アイテム、ブランド品が目白押しですので、原産品であるそれらが第三国で売れ残って返品されてきても、元のままの状態であれば原産品扱いして、EPA締約国に特恵輸出することが可能になる訳です。

9. 【日EU限定 乗用車・自動車部品に係る品目別規則の閾値のステージング及び「拡張累積」又は「クロス累積」制度の導入合意

これまでの常識的な考え方によれば、FTA・EPAの原産地規則は不動であって、特恵税率、センシティブ品目への関税割当数量が徐々にステージングに従って変動するシステムになっておりました。日EUでは革新的な手法が採用されております。乗用車(第87.03項)の例を挙げますと、下の図のようになります。

  非原産材料の最大許容率
(ex works)
域内原産割合(FOB)
1年目から3年目の末日 55% 50%
4年目から6年目の末日 50% 55%
7年目の初日から 45% 60%

我が国の乗用車の関税率はMFN(基本税率)無税でありますので、EUからの乗用車の輸入は現在においても関税がかかっておりません。したがって、これらの品目別規則は我が国に所在する自動車各社に対してのみ適用されることになります。年限を経るに従って付加価値率を高めなければならないとすれば、我が国に不利なように感じられますが、この状況を打開するための方策も盛り込まれていたようです。それが、いわゆる「拡張累積」又は「クロス累積」制度(統一された呼称はありません。)の導入の合意です。

日EU・EPA「拡張累積」又は「クロス累積」とは、以下のとおりです。

乗用車(第87.03項)の生産に使用されるガソリン・エンジン(第84.07項)、点火用配線セット等(第85.44項)、自動車用部品・附属品(第87.08項)の一部又は全ての第三国材料を原産材料とみなす決定を行うことができることになっています。その条件として、次のことが確保されなければなりません。

(a) 我が国及びEUが、当該第三国との間にFTA・EPAを締結している。
(b) 我が国と当該第三国との間で本累積制度を実施するための行政上の協力取極が効力を有し、かつ、我が国からEUに当該取極を通報する。
(c) 我が国及びEUが他のすべての適用可能な条件に合意する。

この規定が実際に適用されるのはまだ先の話でしょうが、以前は「夢」であった話が着々と現実のものとなっています。

2018年9月3日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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