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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第二十四話原産地規則の将来をHSに見る

先月(そして数日前)、Sさんが主催する原産地規則の勉強会に参加する機会を得ました。参加者の皆さんは、それぞれの製品分野でEPA原産地規則と関連手続きについて深い造詣と経験に裏打ちされた、しっかりとしたご意見をお持ちでした。懇親会の場では、「理屈・建て前」はさておき、実際の各自の「現場」で起こっていることなどを話していただけました。その中には、HSの5年周期の改正にEPA原産地規則の品目別規則(以下、「PSR(product-specific rules)」)が締結時のまま残され、我が国においては官民挙げて、(i)税関での輸出入申告で使用する最新版のHS番号と(ii)原産地規則適用のために使用すべき昔のHS番号を使い分けているものの、EPAの締約相手国(多くは途上国)の税関職員にはそのような話は通じないため、一律に最新のHS番号を使わされているとのことでした。すなわち、同じEPAを利用するに当たって輸出時と輸入時の取扱いが国によって全く異なる典型的な例になります。その解決策となりうるかもしれない私案を、昨年2月6-7日にかけてブリュッセルのWCO事務局で開催された「HS改正に伴うPSRの技術的調整に関するワークショップ」で行った筆者のプレゼン内容 を基に、今回改めて『八丁堀梁山泊』に集う原産地オタクの意見を伺うべく再構築してみました。

【序論】

HSの5年周期変更が何故原産地規則に影響を及ぼすかといえば、概念規定である完全生産品定義と異なり、PSRは、原産性判断に係る3基準のうちの一つである関税分類変更基準を採用する場合には、その適用手順において2度にわたってHSに依拠しなければならない仕組みとなっているからです。しかも、我が国が実施しているEPA・PSRの何と9割以上が関税分類変更基準を採用しています。この手順とは、①特恵税率を適用しようとする産品を特定(identify)し、②当該HS項又は号に分類される産品に国内産業のセンシティビティを勘案してより困難な分類変更(類変更)、標準的な変更(項変更)又はより容易な変更(号変更)を求めることでありますが、この基準・モノサシとしてのHSが不動であれば、予見可能性、透明性の観点から大変優れた基準といえるのですが、基準・モノサシが(5年毎とはいえ)動いてしまうと少なからず混乱が生じます。
参考資料:JASTPROウェブサイト、講演資料(資料3)
http://www.jastpro.org/essay/document.html

すなわち、EPAにおけるモノの貿易とは、締約国・締約地域内で生産された産品が一定の基準を満たすものであるならば、本来、輸入時に課すべき一般(MFN)税率の適用を免脱するとの国と国との約束事である訳ですから、その合意は、合意した時の内容が継続されなければなりません。ところが、その約束事を決めるモノサシとして使用されたHS(交渉時点で使用されたバージョン)が変更されると、合意時に一般税率の不適用を約束した産品の特定が同じHS番号で表現できない場合が出てきます。例えば、ある類に項が新設され、これまでいくつかの別の項に分類されていたモノが当該新設項に一括して分類されることになるとします。この場合に、当該新設項に、そもそも譲許をしていない(特恵対象としない)モノと譲許していたモノが一緒に分類されるならば、この新設項はどのように扱われるべきなのでしょうか(すなわち、譲許税率の行方に係る問題)。そして、このような新設項とか、分類番号自体の変更はないもののこれまで特定の項に分類されてきたモノの(カバレッジの)一部が他の項に分類され、或いは、これまで他の項に分類されていたモノが新たに加わるようになった項に、どのようなPSRを設置すべきなのでしょうか(PSRの技術的調整に係る問題)。

【実務現場における現状認識】

  • ● HS改正に起因する譲許表の解釈の相違から、同一の産品がHS分類の運用次第で特恵関税の適用が受けられなくなることがある(特に、途上国において)。
  • ● 譲許表・PSRを5年毎に変更し、合意当時のままの状況を維持すべく努力するという現行制度の実施は、2002年HSを使用している協定が「9」、2007年HSが「4」、2012年HSが「2」という厳しい状況にある。これは、当初意図した制度が未だ一度も実施されていないことを意味する。
  • ● 譲許表・PSRを5年毎に変更するにも政府間の交渉を経なければならず、我が国で対応が可能であっても相手国の政策当局の事情により実施できていないという現実がある。
  • ● PSRの適用においては合意当時のHSを使用し、税関での輸出入申告においては最新HSを使用するという暫定的な措置は、我が国の貿易関係実務者であれば(程度の差はあっても)実施可能であるが、EPA相手国の執行当局・輸出入者が実施するのは極めて困難(行政インフラの未整備)である。
  • ● 我が国の貿易関係事業者は、勤勉性とコンプライアンスの高潔な意思からコストをかけて暫定的な措置を実施しても、相手国税関で受け入れられず、ダブルスタンダードを強いられるのであれば、制度設定に無理があり、現実的な措置を考えるべきではないか。

【譲許表に係る問題】

厳格に考えるならば、これは関税分類の問題だけではなく、関税譲許した物品の特定・所属を決める通商問題でもあると言えます。国によって差異があるようですが、我が国においては「租税法律主義」が徹底しており、税を賦課・変更する場合には必ず国民の代表である国会の承認を必要とし、行政府限りで処理することはできません。しかしながら、国会で承認された特定品目に対する税の免脱を異なるHS税表で実施することは、その内容に差異がない限り「賦課・変更」にはならないはずです。したがって、理論的には、行政府限りで新設項に分類される産品を一律に不適用品目扱いすることはせず、せっかく新設した項を分割(スプリット)して当初合意の意図を忠実に反映した税表を作成し、制度を維持することが前提になるはずです。

一方、MNF税率もHS改正の都度、影響を受けているはずですが、業界の方々からそれほど困難を訴える声は上がっていないように思います。基本的に日本国限りで実施できる措置であれば、我が国の貿易関係事業者事業者のコンプライアンス・レベルであれば混乱なく実施できているということでしょうか(もっとも、WTOでの交渉、「WTO譲許表の修正及び訂正に関する確認書」を作成し国会の承認を得ること、物資所管省庁と関税定率法・暫定措置法の管理当局である財務省関税局との調整等の国民から「見えない」部分の当局者のご苦労があってのことと思います。)。

今日、こうした当初の意図が諸々の理由(特に、相手国の合意が得にくいとの理由)によって実施できない状況にあるならば、次善の策を模索することが行政府に求められているのではないでしょうか。それでは、次善の策とはどのような策が考えられるのでしょうか。

HSを改正しないこと。EPAの観点からは望ましいかもしれませんが、技術革新に歩調を合わせた新製品を関税徴収及び貿易統計に取り込んでいくためには、HS改正は不可避なものといえます。特恵関税の適用、すなわちMFN税率の適用の免脱を目的とする制度にHSを使用しないことは非効率であり、非現実的といえましょう。したがって、HSを改正しないことは選択肢にはなりえません。

HSから独立した譲許表を策定・使用すること。この方式であっても、技術革新に合わせて譲許表を改正し、新たな物品を加えていく必要が出てきます。その際、税関での輸出入申告との突合作業が生じ、結局、HSを使った方がより効率的という結果になってしまいます。

【PSRに係る問題】

PSRの技術的調整とは、簡単に言えば、HSのバージョンを原産地規則目的のために部分的に元のバージョンに戻すことです。説明のための仮説として現在使用されていない第77類を使い、物品PとQをカバーする第77.01項が改正後に物品Pのみをカバーし、物品Qは新設の第77.09項に移されたと仮定します。改正前は、物品P及びQ(旧第77.01項)に適用されるPSRが項変更であったので、このルールは外国から物品Qを輸入して、加工の上物品Pを生産することを容認しません(項内変更となります。)。したがって、改正後の第77.01項に適用される品目別規則は「項変更、ただし第77.09項からの変更を除く」としなければなりません。

(旧)
第77.01項(P及びQ) 項の変更

(新)
第77.01項(Pのみ) 項の変更、ただし第77.09項からの変更を除く
第77.09項(Qのみ) 項の変更、ただし第77.01項からの変更を除く

このような単純な変更であれば、PSRの改正に大した労力も必要としませんが、旧第77.01項から分離される物品が10(A、B、C、・・・、H、I、J)あって、10の別の項(第77.11項、第77.12項、・・・、第77.19項、第77.20項)に移されるとなると、機械的な作業では「項の変更、ただし・・・」と10もの項番号を書き連ねなければなりません。これでは規則が非常に複雑になり、ユーザーフレンドリーな規則ではなくなってしまいます。こうした変更が大量にある場合には、品目別規則改正のための調整作業、行政コストも膨大なものとなり、途上国においては負担に耐え切れないこともあるでしょう。EPA原産地規則の改正には相手国との交渉が必要となるので、5年毎にこのような交渉を経て、規則をその都度複雑にしていくことに利用者に理解が得られるでしょうか。

それでは、譲許表に係る問題と同様、次善の策を考えてみましょう。HSを改正しないこと、別の原産地品目表を策定・使用することも譲許表の場合と同様の理由で採用は現実的ではありません。

関税分類変更基準を使用しないこと。PSRが付加価値基準及び加工工程基準のみで構成されれば、PSRの技術的調整に係る問題は完全に解消されます。米国、カナダ、豪、NZのGSP原産地規則は、付加価値基準1本ですので、現実的な手法になりえます。しかしながら、譲許表に係る問題はそのまま残ることに加え、昨今、原産地実務者の声として、付加価値基準の実施はサプライヤーからの価格情報の入手が困難なので、実施に際してリスクを負うとの現状に鑑みれば、関税分類変更基準をHS改正を理由として使用しないことは説得力に欠けると言えましょう。

協定条文に一般規則としてHS項変更を規定すること。一部途上国で採用されている「付加価値X%又は項変更を実質的変更とする」との一般規定を協定条文に入れてしまえば、HSの改正の如何にかかわらず項変更ルールが適用されます(ただし、意味するところは変わってきます。)。しかしながら、項変更の例外を全く認めないPSRというのも想像しがたいので、例外品目表としてPSRが必要になり、結果的にその例外品目表にHS改正を反映させざるをえません。

【現実味のある次善の策としての現状追認提案】

筆者の提案は、改正HS品目表にそのまま改正前の譲許表及びPSRをコピーし、そのまま適用することを合法化してしまうことです。詳細は、以下のとおりです。

(譲許表の取扱い)

  • 1.原則、変更の前後でカバレッジが異なる項・号に対しても、変更後のHS品目表に変更前の譲許表をそのまま踏襲する(当初の合意内容と若干異なる譲許が生じても、これを許容する。)。
  • 2.新設の項・号は、当該項・号を構成する物品に中で貿易額・数量において支配的な物品の譲許を引き継ぐ。
  • 3.譲許の変更により影響を受ける産品に対しては、要すれば、セーフガード措置を発動する。

(原産地規則の取扱い)

  • 4.原則、変更の前後でカバレッジが異なる項・号に対しても、変更後のHS品目表に変更前のPSRをそのまま踏襲する(当初の合意内容と若干異なるPSRが適用されることになっても、これを許容する。)。
  • 5.新設の項・号は、当該項・号を構成する物品に中で貿易額・数量において支配的な物品のPSRを引き継ぐ。
  • 6.PSRの変更により影響を受ける産品に対しては、要すれば、セーフガード措置を発動する。

(譲許表及び原産地規則の取扱いの例外)

  • 7.各締約国において、センシティブ品目として一律踏襲できない品目に限り、再交渉を行う。

(提案理由)

譲許の観点から考えると、単純にコピーしてしまうという施策は許容しがたいかもしれません。しかしながら、MFN税率の累次にわたる引下げの結果、特恵マージンがすでに相当低いレベルにあること、グローバル・バリューチェーンの展開により企業の製造拠点がより競争力のある地に移っている状況に鑑みれば、センシティブ品目への影響のみに焦点を絞ってもよいかもしれません。

PSRの観点から考察すると、そもそも関税分類変更基準とは、HSの構造に依拠し、関税番号が変わるに従って付加価値が付くことを前提に策定されています。HSの項変更には1億米ドル、号変更には5千万米ドルの貿易実態の存在を前提とします。したがって、これらの変更の背景には、技術革新の結果としての新製品が登場し、貿易量が増大した等の理由がある訳ですから、項変更・号変更を実質的変更とする原則が新設の項・号に対しては及ばないとする方が逆に不自然な理屈であると考えられます。

(必要となる関連措置)

税の観点からは、実質的な賦課・変更が生じ得るので、HS改正の基づく譲許表及びPSRの調整を行政府に委任する法律が必要となるかもしれません。すなわち、単純にコピーしてしまうことにより、ある品目では特恵無税がMFN税率適用となり、また、ある品目ではMFN税率のみであったものが特恵税率適用可能となる可能性が出てきます。これらを承知の上で、現状を追認することになります。通商法の観点からは、協定に新たな条文を加えるか、締約国間での正式な了解事項として合意する必要があると思います。

次善の策であるため、予想しなかった結果への対応が必要となります。当初予定していなかった品目が特恵税率を適用して輸入されれば輸入量が急激に増加するかもしれません。また、予定していたPSRが緩和されたため原産品になりやすく、そのために輸入量が増加することも考えられます。こうした場合に備えて、国内産業の保護の観点からは、モニター品目として輸入数量を把握し、必要であればセーフガード措置の発動を行うべきと考えます。

最後に、どうしてもセーフガード措置の発動では制度維持が困難であるような品目には、再交渉で決着させることも選択肢に加えるべきでしょう。

2018年10月2日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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