日本貿易関係手続簡易化協会(略称:ジャストプロ 英文略称:JASTPRO)のウェブサイト

原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第二十九話原産地手続きにおける日欧文化の衝突

本年2月1日に日EU・EPAが発効し、さっそくEPA特恵税率での輸入が開始されました。また、これまでMFN税率一本であった欧州への輸出は、EPAによって即時撤廃された品目も多く、これまでに例を見ないEPAへの関心の高まりが見られます。TPPが米国の離脱で今一つ盛り上がりに欠ける中で、さすがに「メガ協定」であることを実感させられます。

EPAの立ち上がりには、その規模の大小にかかわらず先ず発効から1ヵ月程度、相手国及び自国の税関当局の対応振りを確認するための期間が必要です。そして、新たな品目の輸出入が季節的な要因、工場出荷時期の周期に応じて出揃い、規則に細々と書かれていない一通りの実務基準(例えば、この種の産品の原産性証明のためにはこの程度の疎明資料が必要。○○までは要求されないが、××では不足、等々)が固まるまでに1年はかかります。このようなEPA通関に関する実務基準の「相場感」が確立すると、後はルーティンとしてスムーズに流れていくことが多いように思います。日EU・EPAについてもその例に漏れず、1年を経過して様々な貿易の形態が一巡してみないと「相場感」は固まらないのかもしれません。

さて、JASTPROは2月27日に駐日欧州連合(EU)代表部との共催で日EU・EPA原産地手続きに関するセミナーを開催し、EU側の制度、実務実態に焦点を当てた説明(資料はウェブサイトに公開しています。)を行ったところでありますが、その際にEU側との認識のギャップが顕著であったEPA税率の適用を求める輸入通関に際しての提出書類について触れてみたいと思います。

まず、我が国において自己申告によってEPA税率の適用を要求する場合には、日豪、TPP11、日EUのいずれであっても①「原産品申告書」、②「原産品申告明細書」及び③「記載内容の確認ができる書類」の提出が原則として必要となります。①の「原産品申告書」とは、それぞれの協定に定められた産品の原産資格を記載した文書であって、日EUでは「原産地に関する申告(Statement on Origin)」、TPP11では「原産地証明書(Certification of Origin)」、日豪では「原産地証明文書(Origin Certification Document)」とされておりますが、協定では記載すべき事項が決められていても様式は任意又はインボイス等の商業書類上に記載となっているので、我が国の場合は国内法令で呼称を統一し、自己申告のための書類であることを明確化するためにも「原産品申告書」としているようです。協定が発効する以前の周知セミナーにおいては協定条文の用語を用いて説明を行う訳ですが、発効後に関連国内法令と一緒に説明をする段階になると、同じ「証明文書」が別の用語で呼称されることになり、その背景を理解するまで若干の混乱を生じるかもしれません。また、日EUで採用された「輸入者の知識」による自己申告の場合は、協定上では特段の書面の提出を求めてはおりませんが、我が国の制度においてはTPP11と同様の輸入者による原産品申告書の提出を求めております。この場合は、TPP11との整合性があり、輸入者としてはよい目安になるものと考えます。

一方、先日のセミナーにおいて欧州委員会のグラーブ課長が述べたところによれば、「原産地に関する申告(Statement on Origin)は、税関申告の補足資料であって、輸入者によって保持され税関の求めに応じて提出すべきものであるが、税関申告と共に税関に提出されるものではない」と説明しています。すなわち、我が国の制度上、最も基本的な証明文書である①「原産品申告書(Statement on Origin)」ですら、申告時に所持しているだけで提出を要しないとしています。

EUにおけるEPA税率の適用を求める輸入申告においては、「原産地に関する申告」をはじめ特段の説明書類の提出は求められず、輸入通関手続きは電子申告によって行われます。その際に、データエレメント4/17(特恵)の使用が義務付けられ、「3」で始まり、次の2桁が「00」となる3桁のコードの記入が必要になります。そして、その情報は、データエレメント5/16(特恵原産国コード)における産品の原産国符合(日本国は「JP」)の記載によって補足され、さらに、以下の特定情報が、データエレメント2/3(作成された文書、証明書及び承認、追加的参照文書)において含まれていなければなりません。

関税上の特恵待遇の要求が「1回限りの輸送のための原産地に関する申告」に基づく場合、コード「U110」を付記。
税上の特恵待遇の要求が「2回以上の輸送のための原産地に関する申告」に基づく場合、コード「U111」を付記。
関税上の特恵待遇の要求が「輸入者の知識」に基づく場合、コード「U112」を付記。

日EU・EPA第3.16条は、輸入国税関が輸入申告の一部として輸入者に対して追加「説明」を求めることを許容しておりますので、日本国税関が「原産品申告明細書」等を求めることについては協定上の根拠があります。しかしながら、EUにおいては、このような追加「説明」が輸入申告の際に求められることはありません。EUにおいては、このような情報が求められるのは、確認(verification)のための手続の一環として、当該輸入申告がリスク判断基準に基づいて確認の対象となった場合に限られることになります。こうした制度上の相違を背景に、欧州委員会は、2019年1月9日付の日EU・EPAガイダンス(特恵の要求、確認及び否認)において、EUへの輸入申告手続きの期間中には、確認手続に入る前に、輸入者又は輸出者が、産品が原産品であることについてのいかなる情報も(先方から)取得し、又は(先方へ)提供する必要はない旨記載されております。昨年11月に筆者が行った欧州の経済団体の日EU・EPA担当者によれば、EUの事業者から「日本側の取引相手の要請があれば企業秘密であっても情報提供を義務付けられるのではないか」という強い不満があったようで、一連のガイダンスはそれらに対応したものと言えそうです。

どのような制度にも一長一短があると思います。EUの制度の一面を捉えれば、相手国(日本)の輸出者も簡単に自己申告を行うことができて、EU域内の輸入者も輸出者に対して何ら特段の念押しをする必要もなくその申告を信頼し、特恵関税の適用を受けられるように見えてしまいます。その上、ランダムチェックを含むリスク判定による確認手続きの対象とならない場合、特恵税率の最も効率的な利用となるということでしょうか。しかしながら、このような考え方はあまりにも楽観的であると言えそうです。そもそも、EUが第三者証明制度から自己申告制度へ舵を切った原因の一つが、某国発給当局が欧州委員会の指示に従わず、原産品でない産品に対して原産地証明書を発給し続けたことに対し、有効な措置が取れなかったことにあることは前回の本欄でも述べたとおりです。欧州委員会が域内の輸入者に対して「相手に何も聞く必要はない」と説明する以上、輸出者の自己申告が協定の要件を満たすものである限り、「誠実に(good faith)」かつ「相当な注意(due care)」を払って輸入した者は、輸出者の原産性判断の誤りに起因する事由に対して責任を負うべきではないとの理屈で、第三者証明制度での運用上の失敗の轍を踏むことになってしまいそうです。しかしながら、常識的に考えて、そのような展開を許すことはないはずなので、「確認手続きに入った後でしっかりと証明してもらう」ことになり、輸出者の立証が不十分であればEUの輸入者は特恵待遇の否認ということになるのでしょう。

それでは、我が国の制度はEPAを利用する輸出者、輸入者に対して「過大な負担」を課しているのでしょうか。筆者は我が国の制度が完璧なものであると強弁するつもりもありませんが、経験則から言えることとして、物事の詳細を記録するには当該事案の直前、進行中の時点、直後が最も適していると考えます。人間の記憶は時が経つにつれて衰え、その時に保存しそこなった資料を後で探し出すのは容易ではありません。こうした観点からは、EPA特恵関税の適用を求める時点で可能なすべての資料を整理し、要約としての原産品申告明細書を付して輸入通関書類の一部として税関に提出しておくことは、事後の立証を考えると最適な選択の一つと言えるかもしれません。

いずれにせよ、両制度の実施はEPA協定の枠内で行われなければなりません。協定で「追加の説明」を通関時に求めることができると規定している以上、EU側は我が国の制度について修正を求める立場にはありません。また、日本国税関は、協定上の「原産地に関する申告」が適正になされている場合には、国内法令を根拠に求める原産地申告明細書に記載してある情報が不十分であったとしても、それだけで特恵適用を否認するには無理があり、輸出者からの疎明を待って判断することになるのでしょう。

先日の某勉強会で、この状況を非常にうまく比喩を使って説明している方がおりましたので、その要約をここに引用させてもらいます。

『これらの差異は、それぞれの文化が持つ特徴に根差しているように思われる。我が国の制度には日本人の几帳面さが出ており、欧州の制度には独立した個々人を尊重する側面が強く出ている。これらは、鉄道運賃の徴収でコントラストを見せている。我が国ではスイカ、パスモで駅構内への入場の都度、登録され、降車駅構内から退出する時に自動算定された運賃を支払っていることに何らの違和感も持っていない。一方、欧州では、駅構内に切符のチェックなしで改札を通らずに自由に入出場でき、鉄道にも乗降車できる。たまに検札職員がやってきて乗車券をチェックし、万一適正な乗車券を所持していなかった場合には大変高額な罰金を徴取される。EPA税率の自己申告においても同様で、我が国の制度は、毎回きちんと精算しておきたい日本人の性格に合致したものではないか。』

このような分析に対して読者の皆様のご意見には賛否両方あると思います。どちらの立場でもかまいません。皆さまのご意見を伺えれば幸いです。

2019年4月5日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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