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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第三十一話米国の非特恵原産地規則

最近、大手メーカーの輸出戦略を担当する方から米国の非特恵原産地規則に関する照会をいただきました。JASTPROでは、本欄とは別に「検証 WTO非特恵原産地規則調和作業」を連載しているので、そちらをネットで調べられて、ご連絡いただいたようです。今回は、別欄の連載から引用する形で、米国の非特恵原産地規則に関する内容を書いてみようと思います。

米国の「実質的変更」定義の由来※1

米国は、一ヵ国で生産が完結している「完全生産品」に加えて、非原産材料を使用した製品の原産国決定について、「実質的変更」を概念的に定義しています。米国の定義は確立した時期が早かったこともあり、他の国における「実質的変更」定義の策定の際の一つのモデルを提供したといえます。米国の1930年関税法第304条のマーキング規定は、「すべての外国製品又はその容器は、米国の最終的な購買者(ultimate purchaser)に対して原産国を知らしめるように表示」されるべきことを求めました。このマーキング要件の適合性を争った裁判において興味深い解釈がなされています。判決によりますと、「日本製の刻印があるブラシの柄に米国製の荒毛を取り付けた場合に、ブラシの柄の最終的な購買者はブラシ製造者であり、ブラシの購入者である消費者ではない」として、ブラシとして日本製の表示は必要ないとの趣旨であったようです(1940年連邦控訴審判決(United States v. Gibson-Thomsen Co))。この判決の中で、本条は、新たな名称、特徴及び用途を持つ新たな物品の米国での製造に使用された輸入材料には適用されないとの判断が示されました (27 C.C.P.A. at 273)。これは輸入品のドローバック(再輸出戻し税)に係る1907年の米国最高裁判決(Anheuser-Busch Brewing Assn. v. United States, 207 U.S. 556 (1907))を別の言葉で言い換えたものでした。米国の原産地法に初めて「実質的変更」基準を持ち込んだものとして知られるアンハイザー・ブッシュ判決では、以下のように判示されています。

製造は変化(change)を想起させるが、全ての変化が製造であるわけではない。そして、物品のすべての変化は、処理、労働及び操作の結果である。しかし、Hartranft v. Wiegmann, 121 U.S. 609で示されたように、更に何かが必要である。変更(transformation)がなければならない。すなわち、新たな、かつ、異なる物品は、他との区別を示す名称、特徴又は用途を持って現れなければならない(a new and different article must emerge, ‘having a distinctive name, character or use')。

アンハイザー・ブッシュ判決の要旨は、原材料の輸入者が米国内で「新たな物品の製造」のために当該材料が使われた場合に物品の再輸出時に当該材料に課せられた関税の払い戻しを受けることができる制度の下で、輸入コルクをビール瓶のコルク栓に加工して再輸出した際にドローバックが適用できるかについて、本件は新たな物品の製造に当たらないとしたものでした。アンハイザー・ブッシュ判決に引用されている1886年の最高裁判決(Hartranft v. Wiegmann)は関税分類に係るもので、輸入された貝殻が洗浄され研磨されたものであるかを争点とし、その結果によって適用される関税率が35%か無税かというものでした。※2

米国の非特恵原産地規則

米国税関(U.S. Customs and Border Protection: CBP)は、全ての非特恵原産地規則は実質的変更基準に従っており、多くの場合はケース・バイ・ケースで適用されるとしています。実質的変更基準は、名称、特徴、用途の変更に基づきます。すなわち、2ヵ国以上からの材料で全て又は一部が構成される物品が、新たな、かつ、異なる商業上の物品に実質的に変更された国の製品であるためには、その名称、特徴及び用途が当該製品の材料として使用された物品の名称、特徴及び用途と区別できることが必要となります。※3なお、米国税関による周知ウェブサイトでは、アンハイザー・ブッシュ判決で言及された「名称、特徴又は用途」の文言は政府調達については踏襲されていますが、MFN・正常貿易関係及び原産地表示(NAFTA規則が適用される場合を除く)では、「名称、特徴及び用途(a name, character, and use)」と3要素を全て考慮するような書き振りになっておりますので、ご留意ください。

米国税関によれば、米国が非特恵原産地規則を使用する政策目的としては、(i)最恵国待遇又は正常貿易関係(Normal-Trade-Relations Treatment)、(ii)原産地表示、(iii)政府調達、及び(iv)繊維及び繊維製品がありますが、原産地表示のうちカナダ及びメキシコに限ってはNAFTAマーキング・ルールが適用され、化学品への化学反応規則の適用等の一部例外を除き、関税分類変更基準によって規律され、品目によって例外はありますが7%(繊維は重量、その他は価額)のデミニミス規則も適用されます。また、繊維及び繊維製品についても、関税分類変更基準が適用されます。これらの法制は、以下のとおりです。

政府調達(Government Procurement)

19 U.S.C. § 2511 et seq. (Specifically § 2518(4)(B).)
19 CFR §177.21

原産地表示(Marking Rules of Origin)

19 U.S.C. §1304 for marking requirement
19 CFR Part 134
19 CFR §102.0

最恵国待遇又は通常貿易関係(Most-Favored-Nation or Normal-Trade-Relations Duty Assessment)

法制化されていませんが、米国関税率表の一般注釈3をご覧ください(No rules of origin are set forth in legislation, but see General Note 3 to the HTSUS (19 U.S.C. §1202) for a discussion of duty rates and columns.)。

繊維及び繊維製品(Textiles and Textile Products)

7 U.S.C. §1854
19 U.S.C. § 3592
19 CFR §§ 12.130, 102.21

米国議会調査局報告書

米国議会調査局の報告書によれば、物品に実質的変更が行われたと認めるに足りる変化を構成するのは何かを決定することは、原産性判断の複雑さを証明することでもあると論じており、原産性を判断するに当たって、米国税関は以下の4項目の一つ又は複数を考慮に入れているとしています。※4

(i)物品の特徴・名称・用途、
(ii)物品製造のために輸入された部分品、コンポーネンツ、その他の材料を製造するために用いた(材料供給国での)工程と比較した、物品の(製造国における)製造工程の性格、
(iii)部材によって付与された価額と比較した、生産経費、資本投資額、人件費を加えた製造工程による付加価値、及び
(iv)(物品の)重要な特性(essential character)が確立したのは製造工程によるのか、輸入された部材の重要な特性によるのか。

原産性決定は非常に事実を重視する(fact-specific)ものですが、米国税関が認めているとおり、何を実質的変更と認めるのかということには相当な不確実性が伴います。その理由は、それらの事実を米国税関が解釈することに伴うであろう「生来の主観性(inherently subjective nature)」故と言えます。※5

米国税関による関税分類変更基準導入の努力

入手可能な文献から追っていくと、米国税関はこのような状況を一変させるための統一的な非特恵原産地規則の導入を、少なくとも3度提案し、都度断念していたようです。※6最初の提案は1991年(56 F.R. 48448)、2度目は1994年(59 F.R. 141)、最後が2008年7月25日付「輸入される商品のための統一原産地規則」(73 F.R. 43385)となります。最後の提案では、既に関税分類変更基準を採用しているNAFTAマーキング・ルール及び繊維ルールを除く、米国税関が執行する全ての非特恵原産地規則を関税分類変更基準で一本化しようとするものでした。上述の連邦官報に掲載された提案趣旨は、以下のとおりです。

提案された規則は、ケース・バイ・ケースで判定するシステムに比較して、客観的で透明性に優れ、輸入される商品の原産国決定に一層の予見可能性を与える。このような変更は輸入者による「相応な注意(reasonable care)」※7の実施を支援するものでもある。

今後の展望

米国と中国が、追加関税、報復関税の「撃ち合い」をするとなると、せっかく構築されたバリューチェーンが両国を避けて再構築されざるを得なくなるのでしょうか。最近の報道にありますように、差し迫った問題としては、生産拠点を中国から移転させるにせよ、我が国を含む第三国で生産した製品が第三国原産品として追加関税措置の適用から本当に除外されるのかということと思われます。上述の米国非特恵原産地規則が追加関税措置を適用する基準として使用されるならば、ある程度の予見可能性は確保できましょうが、そもそもケース・バイ・ケースで判断される性格のものなので、具体的な品目についての詳細は米国税関実務に通じた法律専門家等に確認した方がよいでしょう。最悪のシナリオは、例えば、「中国産の部品を生産工程の上流・下流にかかわらず製品のFOB価額のX%以上使用した製品は中国産とみなす」というような「追加関税措置の適用のための原産地規則」を作られてしまうことでしょう。こうなりますと、もはや原産国の問題ではなく、米国への輸出産品に中国製部品を使用させないことが目的となり、関税の観念を超え、制裁措置そのものの色彩を帯びてきます。

2019年6月5日 掲載
  • ※1N. David Palmeter, “Rules of Origin in The United States”, Chapter 2 in Edwin Vermulst, Paul Waer, Jacques Bourgeois (eds.), Rules of Origin in International Study - A Comparative Study, Michigan, 1994, pp.27-37.
  • ※2この判決文において、次の文が使われています。 “They were still shells. They had not been manufactured into a new and different article, having a distinctive name, character or use from that of a shell.”
  • ※3U.S. Customs and Border Protection, “What Every Member of the Trade Community Should Know About: U.S. Rules of Origin - Preferential and Non-Preferential Rules of Origin”, An Informed Compliance Publication, May 2004, p.9 〔https://www.cbp.gov/sites/default/files/assets/documents/2016-Apr/icp026_3.pdf〕 (最終検索日:2019年6月4日)。
  • ※4Vivian C. Jones, Michael F. Martin, International Trade: Rules of Origin, Congressional Research Service, p.3 (Jan.5, 2012) カッコ書きの補足は筆者によるもの。
  • ※5同上
  • ※6同上。脚注10.なお、3度目の提案の断念は、2011年9月2日(76 F.R. 54691)。
  • ※7税関近代化法(NAFTA実施法タイトルVI、1993年12月8日発効)によって、「informed compliance」、「shared responsibility」の概念の下で関税法規の自主的なコンプライアンスを極大化するため、貿易の従事者は明確かつ完全に法的義務を告げられる。米国税関は、貿易事業者の税関関係法規の下での権利義務についての情報提供義務を負う。輸入者(importer of record)は、輸入申告、関税分類、関税評価を行い、税関が必要とする情報を提供する際に、相応な注意(reasonable care)を払う責任を有する。
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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