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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第三十五話大手メーカー担当者から教わったこと

先日、おそらく誰もが知っている大手メーカーの原産地規則担当者から、特恵実務の最前線にいないと見えてこない貴重な情報をいただきました。その内容は、アジア諸国とのバイ協定は、現在のメガ協定の税率ステージングが無税となった後も活用され続ける可能性が大きいというものでした。当方は、これまで本欄を含む執筆、講演等でバイ諸協定はいずれメガ協定に吸収・淘汰される運命にあると述べてきましたが、この推論を維持するには、更なる条件設定が必要になることが分かりました。

例えば、HS第84類、第85類においては、機械類の部分品が完成品と同じ項に分類される場合と別の項(複数の項の部分品のみをまとめて分類する項)に分類される場合があります。したがって、機械類の部分品から完成品への組立て工程に対して関税分類変更基準で原産性を付与する場合に、4桁変更(CTH)ルールによっては一律に原産性が付与されませんが、6桁変更(CTSH)ルールであればそれが可能となります。これは部分品から部分品への変更(パーツ・トゥ・パーツ・イシュー)についての解決にはなりませんが、「米中貿易戦争」の影響を受けて最終組立国をアジアの第三国又は我が国に回帰させる動きがある中で、国内回帰させた製造拠点から既存EPAを活用して輸出促進を図るためには、原産性の証明の観点から大変な優位性を与えるものとなります。今更説明する必要もないとは思いますが、付加価値基準が併用されていることが多い機械類の品目別規則において、サプライヤー証明を厳格に要求すればするほど実務上の困難、コスト増が現出し、数社で厳密なサプライヤー証明を必要とした瞬間にEPA活用を断念する事態となることがあります。この事態は、かつての「系列」が解体され部品メーカーは資本系列にかかわらず出荷することになった影響もあると思います。したがって、非原産素材の関税分類番号を把握するだけで証明が可能な関税分類変更基準の絶対的な実務上の使い勝手の良さが際立つことになります。

この微妙な違いを実現している協定が、アジア諸国とのバイ協定です。一律に6桁変更(CTSH)ルールとしている場合(マレーシア、インドネシア協定)と、完成品の規則のみを6桁変更(CTSH)ルールを設定している場合(その他のアジア諸国との協定)がありますが、部分品から製品への組立てについては概ね6桁変更(CTSH)ルールで対応できています。ところが、日アセアン協定では一律に4桁変更(CTH)ルール又は付加価値基準、TPP11では付加価値基準に加え、4桁変更(CTH)ルールと6桁変更(CTSH)ルールとが混在している状況で、原産性証明に関して言えば、日アセアン協定もTPP11も我が国から輸出する場合にはアジア諸国とのバイ協定に劣後するという訳です。10数年前に日アセアン協定とバイ協定を同時並行で交渉するに当たって、バイ協定のメリットをアセアン諸国に納得させる材料の一つとしてこのような差別化があったのでしょうが、現在においては、我が国からの輸出を利する強力な規定となっています。当時の経済産業省交渉担当者の先見の明を讃えるべきでしょう。

原産地規則は、締約国が相互に異なる関税撤廃・引下げを行うマーケットアクセス分野と異なり、同じ内容が相互に平等に適用される規定であるとの法的な(表面上の)理解がされているかもしれませんが、我が国のようにほとんどの鉱工業品についてMFN税率が無税となっている国と同じ品目分野で有税品が数多く残されている国とがFTA・EPAを締結した場合、鉱工業品においては、事実上、品目別規則は我が国からの輸出にのみ適用される規則となります。相手国は我が国の製造業の競争力を恐れて厳しい規則を設定したいのでしょうが、我が国は交渉において相手を説得していかなければなりません。交渉も同じような条件の下であれば、弁舌での勝負が可能かもしれませんが、圧倒的に条件が異なる場合に我が国に有利な品目別規則を設定するには、そのメリットに相当する分の代償の提供を求められます。しかしながら、ガット・WTOの下での多角的貿易交渉での自由化を主導してきた我が国には、FTA・EPA交渉で撤廃・引下げが可能な「タマ」になるような高関税がほとんど残っていません。

冒頭の議論に戻りますと、メガ協定がバイ協定を淘汰していく状況になるのは、メガ協定が当初予定していたように「膨張」していくことが第1条件になります。何故ならば、膨張することによって、「囲い込み」が現実のものとなり、地域累積の威力がいよいよ発揮されることになるからです。米国を含むアジア太平洋地域の全ての国がTPPに加盟すれば、粗原料に遡って原産品となる場合が増えるでしょう。残念ながら、アジア太平洋地域においては、トランプ政権の登場によって条件成就は随分と遠退いたと言えます。次に言えるのは、淘汰されるのは同じ原産地規則が定められている品目分野であって、第84類、第85類の機械類におけるCTSHルールの絶対的な証明実務上の使い勝手の良さは、いつの日かMFNベースでの全世界的な関税撤廃が進まない限り淘汰されることはないようです。したがって、第2条件は、「原産地規則が同じ」ということになります。

2019年10月16日 掲載
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