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第三十六話米国通商法第301条による対中国制裁関税の適用と日米貿易協定との関係

日米貿易協定法案が11月19日に衆議院本会議で可決され、参議院に送付されました。また、報道によれば、本協定は来年1月に発効する見込みであるとのこと。そこで、今回は、日米貿易協定に関連するお話しを書き綴ってみたいと思います。

少し前のことですが、11月6日午後、東京通関業会通関士部会女性分科会が主催する講演会で、米国の関税・通商法弁護士による米国通商法第301条による対中国制裁関税をはじめ、米国税関における関税分類、関税評価及び原産地規則適用に係る実務実態に関する講演を聴講しました。時宜を得た講演内容であったので、3時間が非常に短く感じました。更に幸運なことに、講演会の終了後に講師の所属する法律事務所のパートナー弁護士の方と立ち話をする機会を得て、筆者の関心事項についてのご意見をいただきました。実に興味深い話であったので、この機会に「米国通商法第301条による対中国制裁関税の適用と日米貿易協定との関係」について情報の共有をしたいと思います。

まずは結論から申し上げましょう。日米貿易協定が発効することを前提とした話になりますが、我が国から米国への特定品目の輸出に対し、日米貿易協定上の原産品として日米特恵税率の適用を受けた(例えば、MFN税率5%から日米特恵税率0%になる)場合において、当該産品が米国の非特恵原産地規則の適用により中国原産と判断されるならば、対中国制裁関税が日米特恵税率に上乗せされて適用される(同一事例で、日米特恵税率0%から対中国制裁関税25%に上乗せされる)ことがあり得るということです。しかしながら、このような特異な事態が生じるには条件が揃わなければなりません。第1に、当該産品が日米貿易協定の譲許品目であり、同時に、米国通商法第301条の対中国制裁関税の対象品目であって、かつ、制裁の除外品目に入っていないことが必須となります。第2に、我が国における当該産品の生産行為が、日米貿易協定原産地規則の関税分類変更基準を満たした上で、米国の非特恵原産地規則を適用した結果、実質的変更と認められず、原産国が中国と判定されることが必要です(米国の非特恵原産地規則の概要については、本年6月5日公開、八丁堀梁山泊第31話「米国の非特恵原産地規則」参照してください。)。

以上が上記弁護士から筆者が聴取した内容です。昨今の一連の報道記事によれば、日米貿易協定は交渉が継続され今後更に多くの品目が特恵対象に入ってくることが想定されます。また、対中国制裁関税は、近い将来に外交的な決着に至れば前述のダブル適用の心配はなくなりますが、楽観は許されないようなので、一応の対応策は考えておくべきなのでしょう。そこで、本稿においても原産地規則関連の「天気予報」的な方向性を述べてみたいと思います。前述の第1の条件は、リストから容易に該否を割り出すことができるのですが、第2の条件は込み入った内容となります。想定事例を申し上げますと、中国の生産拠点で主要部品の生産から産品の最終組立てまで行った上で米国に輸出していた企業が、制裁関税を避けるために中国原産の部品を我が国に輸入し、組み立てた後に米国に輸出したとします。ここで注目すべき点は、①米国において日米貿易協定上の当該産品に係る原産資格を判断すること、②米国において当該産品に係る米国非特恵原産地規則上の実質的変更の有無(原産国決定)を判断すること、及び③米国非特恵原産地規則を適用する際に中国から輸入された材料の原産国判断は、米国税関が行うということです。特に、米国非特恵原産地規則は100年以上前の判例に基づいた概念規定であり、具体的な原産国決定に係る判断は、継続的に同じ品目について輸出入している事業者であればともかく、一般の貿易事業者には容易に知り得る方法がないということです。概念規定そのものは公開されており、透明性という意味では誰もが知り得る規則ですが、原産国の具体的な決定に係る予見可能性は極めて低いといわざるを得ません。したがって、今後の対応策を練るには「米国税関のこれまでの判断事例」を参照しながら行うことが必須となります。

それでは、日米貿易協定の原産地規則を見てみましょう。既存のEPA原産地規則とも比較した上で日米貿易協定原産地規則の特徴を申しあげると、(読者の方々も各省庁のウェブサイトでご確認されているとおり)日米貿易協定原産地規則においては輸出と輸入とで非対称な原産地規則が適用され、米国側の原産地規則には、我が国で組立工程によって生産される産品への加工程度の要求を、特定品目に限ってではありますが、通常の関税分類変更よりも強めた規定が二つ盛り込まれています。一つ目は、協定附属書2に添付された「米国の原産地規則及び原産地手続き」のパラ18(e)「HS通則2(a)」及び関連する品目別規則です。これらの規定の適用により、我が国で組み立てられる自転車(第87.12項)は「完全に」製品として組み立てられなければならず、自転車としての特性を有する形態(例えば、サドルの部分が取り付けられていない等)での米国への輸出は許容されません。二つ目は、同規則パラ19(d)「単なる組立て(simple assembly)」及び関連する品目別規則です。これらの規定は、例えば第8544.60号の「その他の電気導体(使用電圧が 1,000 ボルトを超えるものに限る。)」を特恵輸出しようとする場合において、組立加工による原産資格が認められる要件として「すべてが非原産の5つ以下の部品(ただし、ボルトナット、ねじのような部品は除く。)を締め付け等の微細な加工によって取り付けただけでないこと」を求めています。

上記の規定は、米国の既存の原産地規則、過去のWTO非特恵原産地規則調和作業における米国提案に類似例を見ることができますが、我が国のEPA原産地規則にはなかったものです。我が国のEPA原産地規則にも同様な文言を使用した規定はありましたが、日米貿易協定では明確な定義がなされており、全く別の規定となっていると言えると思います。これらの2規定は、形式上、関税分類変更基準を満たした場合であっても産品に原産資格を与えないことを定めているので、こうした加工・作業内容が特恵原産資格を与えるほどの変更ではないとの判断があったことは疑いありませんが、米国の非特恵原産地規則上「実質的変更」とは認められない事例を検討する際のヒントになるのかもしれません。逆に、対中国制裁関税の心配をしなくてもよい事例も挙げることができます。その一つが中国から材料を調達しないことですが、中国産材料を避けることを意図して第三国産の材料を調達するとしても、もし当該第三国材料が中国産の原材料を使用しているとしたら同じことが懸念されます。すなわち、米国税関が当該第三国で中国産の原材料から実質的な変更が生じていないと判断するならば、当該第三国材料の原産国は中国となってしまいます。

このような原産地をめぐる「騒動」としては、1980年代のEC(当時)によるダンピング防止税の恣意的な適用により我が国の事務用機器等の輸入を事実上阻止しようとした際の状況が思い出されます。その当時は、我が国の製造業の競争力が極めて強く、世界市場を席捲する勢いがあったので、欧州が異常な警戒心を持ったとしても無理のないことです。本邦からの直接的な輸出を阻まれた我が国企業は、生産拠点を台湾、東南アジア等の途上国に移転するか、欧州域内に進出して、部材をそっくりノックダウンの形で輸出した上で、当該第三国又は欧州域内で組み立てて凌ごうとしました。しかしながら、ECはこうした我が国企業の行為をダンピング防止税回避のための迂回輸出であるとして、原産地規則を操作することで日本製品はどこで組み立てられようが日本製品であるような判断が平然と行われたことがありました。EC域内で組み立てた製品まで迂回の対象とされたことは、ECの製造業及びEC通商当局者の恐怖心の現れであったように思います。トランプ大統領の場合、米国への投資を増やして現地生産に切り替えれば大歓迎でしょうから、当時のECよりも対応し易いのかもしれません。一方、当時のECが日本企業等に対抗するためにダンピング防止税を使ったのに対し、トランプ大統領は米国独自の通商法第301条の制裁措置を適用し、中国から米国に輸入するほぼ全品目を制裁対象としようとする訳ですから、措置のスケール、世界に与えるインパクトが桁外れであると言えましょう。

本コラムは、これまでEPA原産地規則を中心に情報発信をしてきましたが、今後は非特恵原産地規則についてもフォローする必要性を感じています。

2019年11月26日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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