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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第四話−GSPの光と影−

筆者がUNCTAD職員となった頃のGSPの現状・課題について、当時のOECD資料を基に振り返ってみます。筆者も一度だけこの会合に参加したことが有りますが、当時、西側先進諸国はパリのOECDに集まりGSPに係る政策の調整をしていました。会合では、どこまでGSPに関する統計の開示を行うかについてもすり合わせていました。OECD・GSP供与国の受益国からの総輸入額は、1972年から80年の期間において9倍近い伸びがありましたが、同期間におけるGSP適用輸入額の伸びは25倍以上でした。開発途上国(以下、「途上国」という。なお、当時、通産省では、発展途上国との表現が用いられていたのに対し、大蔵省では、開発途上国と表現していました)が自国の経済開発を図るうえでGSPに過度に期待したのは無理もないことでした。

視点を変えてOECD・GSP供与国の1980年当時の全体の関税構造を見ますと、GSPのおかれている状況が浮かび上がってきます。総輸入額の四割強がそもそも無税でGSPの働く余地はありません。残りの六割弱の有税品目のうち、GSP非対象品目が総輸入額の七割近くを占め、GSP対象品目は、全体の輸入で見て18%にすぎませんでした。つまり、GSP対象輸入額は、有税総輸入額の三割しかなく残りの七割は非対象であり、これらには多くの農産品と国際競争力に問題のある鉱工業産品が含まれていました。多くの農産品がGSPにカバーされなくなったことについて、GSP交渉に参加した某途上国大使は、途上国側があまりにも工業化、工業化と叫んだ結果、農産品へのカバレージが薄いものとなってしまい途上国の戦略ミスであったと述懐していました。事実、GSPに合意した1970年の決議を見ますと、そのタイトル自体が「途上国の製品・半製品の先進国への特恵又は免税輸出」(Preferential or free entry of exports of manufactures and semi-manufactures of developing countries to the developed countries)となっており、農産品は出てきません。他方、現実的な問題は別のところにあり、GSP対象輸入額の五割弱、46%しか実際にGSPが適用されていないことでした。

おさらいですが、GSPに適用されるROOには大まかに三要素があり、それらは、(1)輸出されるGSP対象産品が受益国の原産品であると認定されること、(2)迂回措置を防止するため、受益国から直接供与国に輸送されること、及び(3)特恵原産地証明書(フォームA)を提出すること、です。実際のGSPの適用を制約する要因としては以下のような諸点がありました。

受益国の指定

一般に、途上国は特恵供与国にGSPが受けられるよう申し入れを行い、供与国における審査を経て受益国として指定されます。さて、誰がある国について「途上国」であると認定するのでしょうか。この問題はUNCTADでも相当議論されましたが結論が出ず、結局、自己選択方式(原文では、principle of self-election)となりました。尤も、最貧国を表すような「後発開発途上国」(当時俗にLLDCと呼ばれた、原文はleast developed among the developing countries、なお、最近ではLDC: least developed countryと言うのが一般的)については、国連に定義があり、一人当たりの国民所得が992ドル以下などの要件(2012年に改定、現在でも有効)を満たす必要があるとされています。現在49か国が指定されていますが、身近なところではASEAN加盟国のカンボディア、ラオス及びミャンマーが該当します。受益国の指定を見てみますと、米国の場合、国内法により、共産圏諸国や石油の生産・輸出カルテルに参加している産油国は指定されません。また、EC(現EU)の場合、GSPよりも有利な地域特恵を与えていました。代表的なものに、アフリカ・カリブ海・太平洋諸国(所謂ACP諸国)58か国に供与した「ロメ協定」がありました。これは、ECのACP諸国への歴史的な繋がりもあって援助の色彩が強く、輸出所得補償制度(STABEX)は協定の大きな柱でした。

GSPには「卒業」(途上国の所得が一定水準以上に達した場合、その国をGSPの適用除外とする。)という制度がありますが、これも日、米、EUで異なるルールとなっています。日本でも国際競争力のある受益国には「卒業規定」を強化して、中国など五か国をGSPスキームから除外することを検討する旨がつい最近報道されました。そもそも、OECD・GSP供与予定国は、GSPを途上国への貿易面における暫定的な(temporary in nature)支援措置として受け入れました。このため、GSPという特別の便益によって受益国の国民所得が増え、最早、GSPに頼らなくてもよい程度にまで発展すれば、GSPから卒業して対等な関係でMFNによる取引に移行する流れとなるのは時間の問題でした。ところが、途上国側は、「卒業の定義」などには合意はできないであろうことを見越し、逆に、先進国側は途上国の分断作戦に出たと非難する戦略をとりました。この卒業問題については興味深い論点が幾つかありますので、機会を見て別途堀下げたいと思います。

GSP適用率の低さ

主要供与国は、その方法・呼称が異なりますが、数量制限措置を自国のスキームに内包させており、これが適用率の低さの最大の原因でした。鉱工業産品に限ってみても、米国には競争力条項というのがあって、特定の品目区分について一定額又は一定量の輸出があれば、翌年はGSPの対象外となります。ECはセンシティブ品目には受益国別の輸出限度数量を設定していました。日本の場合、会計年度毎にシーリング枠を設定し、日別・月別等の管理をしていました。

一般に適用される税率とGSP税率との差を「特恵マージン」と言いますが、例えば、東京ラウンド交渉の結果、MFN税率が段階的に引き下げられマージンが減少(エロ―ジョンと呼ぶ)しました。特恵マージンが僅少の場合、輸出者によっては、特恵原産地証明書取得の手間などを考慮し、通常の輸出に切り替えたとも言われています。

各GSPスキームのROOもGSP適用率の低さの大きな要因でした。これについては、次回以降詳細にわたり紹介しますが、スキーム毎に異なったROOがあるため、輸入原材料を使用する場合、同じ工程でありながら、あるスキームでは適用があり、他のスキームでは除外されるケースが起きました。中小のメーカーは仕向け地毎にGSP適用を受けるために輸入原材料比率の調整など余計にコスト増になる措置はとれません。

余談ですが、GSPセミナーで必ず聞かれる質問がありましたが、それは、「誰が特恵マージンを得るのか」という点です。古参の専門家のベスト・アンサーは、「当初は輸出する側にとって新規マーケットに参入を図るのが何よりも優先する事項であり、輸入者が特恵マージンを得ることに拘泥するのは得策ではないだろう。他方、将来、取引が継続し信頼関係が醸成されれば、徐々に輸出側が交渉して特恵マージンを獲得していけば良いと考える。」でした。

2017年1月6日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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