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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第五話−貿易に果たすROOの重要な役割−

筆者は2011年末にADBを定年退職するまでUNCTADの経験を活かし、国際貿易分野、例えば、ドーハ・ラウンド交渉に関するセミナーを企画しコーディネターとして実施してきました。分野によってWTO、WIPO(世界知的所有権機関)、FAO(食糧農業機関)、WCO、UNCTAD、WB(世銀)の専門家、経験豊富な研究者や実務家に来ていただきました。自慢話になりますが、閣僚経験者のスパチャイ氏(元タイ政府副首相、その後WTO及びUNCTAD事務局長)、1980年代日本との貿易摩擦でタフ・ネゴシエーターとして名を馳せたクレイトン・ヤイタ―氏やカーラ・ヒルズ女史(共に元USTR)に基調講演者として参加していただきました。このランクになりますと、ADB側も副総裁や筆者の上司であったチーフエコノミスト(局長)の参加が必須となりました。結果として、プレスの取り上げるところとなりADBのvisibility向上に貢献したということで、次の企画の円滑な承認取り付けに役立ちました。

多くの国際機関では途上国メンバーへの技術協力に力を入れていますが、一般にそれら機関では国連の技協システムを準用しています。筆者はUNCTAD勤務を通じて国連の技協システムを会得した(と思っている)ため、ADBにおけるproject documentの作成やその実施に大きな困難はありませんでした。国連のやり方はざっくり言えば技協の実施について大まかな指針を示すことに留まり、実際の現場においては突発的なことの発生は防ぎようがありませんので、出来るだけ弾力的に運用できる仕組みでした。他方、ADBのそれは、さすが「銀行」だけあって詳細な規則が手当てされていました。

閑話休題。原産地規則という実務的(と思われている)分野のセミナーでは筆者は議長兼スピーカーとして機能しました。セミナー冒頭、「枕」として、どうしてROOがこんにちの国際貿易において注目されるようになって来たかを強調し、参加者皆さんの担当している分野は極めて重要なのですよ、と言外の意味を込めつつ以下の諸点(これらは相互にリンクしている)を訴えたものでした。

@ 経済のグローバル化に伴ってアウトソーシングが産品製造の標準になってきたこと。

例えば、自動車は約三万点からの部品によって製造されるそうですが、日本のメーカーといえども全て純国産部品からの製造というのは困難なことと思われます。アウトソーシングの伸長は部品製造国が多岐にわたるため原産地認定を一層困難なものにします。グローバリズムは、一面において、資金力豊富な多国籍企業に都合の良い経済システムなのかもしれません。資本主義の総本山の米国で労働者間所得格差問題がこの間の大統領選挙の大きな争点になったことは皮肉としか言いようがありません。

A 海外直接投資の増大とEPZs(Export Processing Zones: 輸出加工区)の新・増設。

個人的には何も無理して税収を減らす競争をすることはないと思うのですが、途上国は時のトレンドに乗り遅れまいと一連のtax incentives(原材料の関税免除、数か年の事業所得税免除、割安な電力の提供など)を用意して海外投資を呼び込みました。この結果、上記@のアウトソーシングの加速化をもたらし、結果として、製造物品の原産地認定を更に困難なものにしました。

B ROOを産業・貿易政策の一手段として活用する例が増えてきたこと。

言うまでもなく、ROOは本来技術的・中立的に運用されるべきものですが、学者の一部からは、EC(現EU)が1980年代後半以降採用した半導体・複写機に適用したROOをその政策的運用例であるとの指摘がされています。なお、EUは、通常のダンピング防止策では防げない迂回措置を取った貨物に対するアンチ・ダンピング税(AD)の賦課について、ROOを活用することにより可能としました(WTOには迂回措置に対するAD税賦課のルールは存在しない。本件はウルグアイラウンドの枠内で交渉されたが合意には至らなかった。)(注:現在、国際的に著名なAD税実務家による論文「EUの迂回措置に対するAD税賦課とROOの役割」を本連載と並行して翻訳しており、本年中に本ウェブサイトに掲載する予定です。)。

C 品目ごとに適用のある国際的に統一されたROOの欠如とFTAの拡散。

具体的なROOは国内法に基づいて運用されていますが、ご存知の通り原則的なルールにおいても大きな差異があります。10年位前の数字で、EU加盟国は、対外貿易において16の異なったROOを運用していました。また、WTOによりますと、全ての加盟国が最低一つのFTAを締結しているとの資料もあります。このことはFTAの数だけ異なった数のROOがあることを意味します。EUであれば幾らROOの数が増えても税関で対応は出来るのでしょうが、人員の多くを割けない途上国にとっては大きな頭痛の種となります。FTAの拡散は問題点もありますが、他方において、上記AのEPZs拡大と相俟って、FTAの戦略的活用次第では「関税節約」機会の増大に繋がります。

D 国際ビジネス界の関心が関税率の高低から貿易円滑化(TF: Trade Facilitation)に移行したこと。

累次の関税引き下げ交渉やFTAの拡散の結果、ビジネス界は、最早、関税は貿易の障壁にはなっていないとして、更なる事業コスト削減には、非関税措置面、特に、複雑かつ多くの貿易書類の削減・その機械化処理といったTF分野に焦点が当てられるようになってきました。税関においても、この動きと連動して、電算化などのペーパーレス化、シングルウィンドウ促進など一連のTF対策に積極的に対応をしてきています。

前々回、FTA/EPAは国際約束、条約なのでその改正には関係国の合意が必要であり、日本国民に新たな義務を課す場合には法律で手当てをすべきことは以前述べたところですが、その好例がありました。日豪EPAの枠内で豪州から要望された自己申告(証明)制度の導入が合意されましたが、この合意を実施するために国内法で手当てすることとなりました。具体的には、関税暫定措置法第12条の2(経済連携協定に基づく締約国原産品であることの確認)の規定を追加することにより、第三者機関による原産地証明に加えて、輸入者等事業者自身による自己証明を可能としました。GSPの枠内においても自己申告は認められていますが、これについてはアフリカでのエピソードを含めて日を改めて触れたいと思います。

2017年1月18日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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