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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第六話−京都規約原産地付属書とGSP・ROO−

既述のようにGSPは1970年に合意されました。これを受けてUNCTADにはGSPを担当する「特恵特別委員会」が設立され、この下部機関として、「原産地規則作業部会」が設置されGSP・ROOの検討はこの作業部会が担当しました。とはいっても、具体的なGSPスキームは各供与国が提供できる範囲において国内法で必要な事項を手当てすることとされていましたから、供与予定国が、GSPスキーム実施上、原産地ルールの統一を視野に入れていたかは疑問なしとしません。他方、将来受益国になる途上国側においても、精緻な原産地ルールの議論よりも一刻も早くGSPスキームを実施してほしいというのが本音であったと思います。

実は、当時、WCOの前身であるCCC(Customs Co-operation Council)において初代の「京都規約」(1974年の税関手続の簡易化および調和に関する国際規約)が交渉されていましたが、これにはその不可分の一部として「原産地付属書」も含まれていました。これは筆者の推測の域を出ませんが、多くの税関当局者は潜在的にすべての貿易に適用される原産地付属書の方が特恵関税という特殊な取引よりも重要性から言って優先度の高い[交渉]案件であったのではないかと考えています。また、京都規約は国際約束であり覊束的な規定は全加盟国を縛りますが、GSPは国内法を手当てするとはいえ独自の一方的な提供に留まりますので、使い勝手の良い独自のROOでの対応が可能でした。

京都規約・原産地付属書の骨子のおさらいをすれば、根本的な原産地決定基準として、一国のみで生産された物品は完全生産品として問題なくその国に原産地を付与(完全生産基準)し、他方、輸入・原産地不明原材料を使用して生産された物品については、この商品に本質的性質を与える実質的な製造・加工を最後に行った国に原産地を付与(実質的変更基準)することとされました。ここまでは納得がいきますので特に問題はありません。

頭の中では概念として、輸入等の原材料については実質的な加工が必要なのだ、ということは理解できますが、問題は、実際の輸入申告で実務的に多数処理しなければならない税関にとっては、はっきりとした具体的な判定方法が必要となることです。原産地付属書では残念ながらこの「実質的な変更」概念の解釈方法が分かれ、大別して三つの方式が並列的に記載されています。

最初のものは、「関税番号変更方式」で使用原材料と製造された産品の関税番号に変更が起きた場合、これをもって実質的な変更とみなすものです。読者の方はお気づきと思いますが、関係国間の公平を期するためにはこの方式の前提として統一された品目分類表がなければ実現しません。現在はHSと呼ばれるCCCが13年かけて作成し、1988年から実施された統一品目表がありますが、GSP発足当時には、CCCN(Customs Co-operation Council Nomenclature)が多くの税関当局に使用されていたものの、例えば、米国やカナダでは独自の関税品目表がありました。また、品目表は、原産地判定のために作成されたものではなく、関税品目分類としての独自の論理・哲学と体系を有していますから、100%関税番号変更によって解決することはできないことは容易に理解されると思います。

余談ですが、HSは条約上六桁まで(それでも五千を超える数字になる)加盟国を縛りますが、自国の産業政策立案上の要請や貿易統計上のニーズなどから、さらに細分して8、9、10桁で使用されています。日本の統計細分は9桁、EUは10桁と理解しています。米国にはHSが採用される1988年以前にTSUS(Tariff Schedule of United States)と呼ばれる独自の品目表がありました。二国間交渉で関税を相互に引き下げる場合、削減対象品目については共通の品目表があれば該当する番号を引用し、仮にその一部であれば「〇〇番号のうち△△」と表現すれば足りるのですが、当時の日米には共通のものがありませんでしたので、長い表記を必要とされる場合がありました。余談の余談ですが、国際的に使用されている貿易統計には代表的なものが二つあり、一つは通関統計と呼ばれているHSベースのものです。他の一つは国連が開発しHSと同様定期的に改定されているSITC(Standard International Trade Classification:標準国際貿易商品分類)で経済分析に多用されています。

次の方式は、「加工工程方式」と呼ばれるものです。これは実質的な変更がもたらされたと認定できる作業の度合いを示すことによって、この作業が行われた国に原産地を付与しようというものです。一方、この方式では、作業の度合いを示してこの程度の加工であれば原産地を付与しない、と使うことも可能です。直感的には、膨大な異なった商品が取引されているこんにち、このような表を基礎とするなら、分厚い加工表が必要になると思います。更に、この方式のごく一部の産品への適用ならともかく、多くの異なった原材料により構成される商品(加工食品、化学製品、機械類など)への対応や将来新たな材料の使用によって製造される商品への対応などこの方式採用の困難性は増すばかりでしょう。

最後の方式は、「付加価値方式」と言われるものです。これには簿記というかコスト計算の知識が必要です。付加価値と言われていますが、実際の計算は、分母には加工・製造後の価額を使い、分子には二種類のやり方があって、@輸入等原材料費の総額を置き、一定比率までの使用であれば、この製造国に原産地を付与する、又は、A製造国で投入されたものの総額(例えば、国産原材料費、労賃などの要素)を置き、一定比率を超えることとなる製造であれば、その国に原産地を付与する、というものです。前者は輸入等原材料額、後者は国産投入額に着目して、最大限ないし最小限どの程度までの比率であれば、実質的な加工と認定できるかを判断します。

このように、税関当局の原産地のプロの集まりであるCCCにおいてもそれぞれの方式に一長一短が存在しているためROOの統一には至らず、結果として、原産地付属書は主要税関当局が開発した独自の方式を発展させたものを整理し纏めたということが出来ます。今回は紙面の関係でそれぞれの方式の得失について詳細に触れませんでしたが、改めてこの点を掘り下げたいと思います。結論として、GSP供与予定国は、自国の使い勝手の良い長年慣れ親しんだ既存のROOをGSP・ROOに応用したということでしょう。実際、この原産地付属書の方式を敷衍したルールがGSPのROOを形成しています。これが、長々と原産地付属書のポイントに触れた理由です。

2017年2月3日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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