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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第七話−GSP・ROOを作った人たち−

UNCTAD特恵特別委員会には加盟国からかなりの数の税関のバックグラウンドを有する代表者が参加します。我々事務局は、委員会開催期間中はてんてこ舞いの状態で顔見知りの代表者と雑談する時間も多くありません。事務局幹部職員は議長を挟んで「ひな壇」に着席し、議長を補佐します。会議の基本的構図は、国連本部の議事進行手続規定が同様ですので、よくテレビで映し出されるNYの国連本部の安全保障理事会−一度だけNY出張中にこの会議室に入ったことが有りますが−と変わりありません。

UNCTAD本部勤務当初、面食らったことが三つほどありました。一つ目は、会議が朝9時シャープに開始とアナウンスされるのですが、実際には大体正午から始まりました。代表団は朝来ているのですが、各グループの打ち合わせをしているのです。各グループはコーディネータ国を決め、原則としてグループを代表しての発言はこのコーディネータが行います。会議が終わりに近づきますと何らかの合意文書を作成しなくてはならないので非公式折衝を行うわけですが、これには各グループからのコーディネータと事務局関係者が集まります。非公式の集まりですので通訳は入りません。二つ目は、「根回し」が日本のお家芸と思っていましたが、委員会の各局面においては驚くほど多用されていました。一例として、円滑な議事進行を図る観点から、委員会開始の前に有能な議長候補を探し出し、内々引き受けて頂いたものです。会議では実際には代表者からの議長候補推薦を受けて委員会の決定事項とします。三つ目は、途上国グループG77も一枚岩ではないこと、これはほどなく理解できたのですが、他方、同じ途上国内部にGATT派とUNCTAD派があり、それぞれの会議で同じ国が異なった趣旨の発言をすることを知ったときは驚きでした。因みに、UNCTADというか国連は、GATTのオブザーバーの資格があり出席がオープンとされている会議には全て参加することができます。

我々GSP担当課職員は、本来の業務の他に技術協力として多くのregional(例えば、ASEANやアンデス諸国を対象)やnationalセミナーを実施していました。多いときは年に20回を超し、年のうち半年くらいは出張に出ていたこともありました。平均一回の出張期間は二週間で、regionalを一つ、nationalを二つ位こなします。日米ECの三大GSPスキームについてそれぞれの本国からの専門家の参加がありますといわば一流のセミナーと見なされホストを引き受けてくれた途上国も感謝してくれます。事務局としては、あの手この手でこれらの国から専門家の参加が実現できるように努力することになります。

今回も前置きが長くなりましたが、大きなセミナーでは、ROOを含むGSP交渉から関与してきた古参の専門家と会うことができました。セミナーの二週間は、委員会会議期間中とは異なり、国益を守るために建前論で終始する国際会議ではありませんので、GSPにまつわる過去の経緯や裏話などの普段聞けないことについて夕食を一緒に取りながら本音ベースで聞くことのできる貴重な時間でした。米国はUSTRがGSPプログラムを担当していますが、Directorの肩書を有するものの20代後半の若手職員であり過去の経緯には詳しくありませんでした。余談ですが、そのなかの一人が、現在、ジュネーブでWTOなどを担当する大使を務めています。他方、欧州は全く異なり、EC、オーストリア、スウェーデンなどからはGSP交渉の生き字引的な個性豊かな専門家が参加します。彼らを中心とした面々は特恵特別委員会ではまさしく「顔」としてふるまっていました。彼らが発言をすると皆が一様に真剣に聞きます。話が脇道にそれますが、これは全くの偶然でしょうが、筆者が出会ったオーストリア人の殆どが「Dr」というかPh.D.保有者でした。

その中の一人、オーストリア税関のDr. Mは全てのGSPスキームのROOを解説した最初のUNCTADハンドブックを執筆されました。氏は細巻の葉巻をたしなむ人でありましたが、80年代のセミナーでは何とスピーカーが煙草を吸いながら説明していても一向に違和感がなく、今となっては隔世の感があります。さて、彼の専門家としての拘りの一端を紹介したいと思います。

前回CCC原産地付属書のおさらいで「付加価値基準」に触れましたが、UNCTADのGSP・ROOハンドブックにおいては、この語を使用していません。彼の主張を要約すると、「例えば、鉄の板を輸入して、鉄パイプ、導管やマンホールに加工するのなら、輸入原材料と加工後の価格を比較すれば付加価値分は一目瞭然となるので、どの位の付加価値が付けば原産地と認められるか(個々の品目によって数値は異なることになろう)の判断もしやすくなり、正に付加価値基準ということが出来よう。ところがGSP・ROOの実際の運用では、例えば、全ての輸入原材料価額が加工後の製品価額の40%以内なら、実質的な加工が行われたと見なして機械的に原産地を付与している。中には付加価値基準と言えるものがあるかもしれないが大部分は輸入原材料と加工後の製品の両方の価額の「比率」にしか問題にしておらず、厳密には付加価値を基礎とした基準とは言えないであろう。この理由から、ハンドブックでは「付加価値基準(value-added criterion)」なる語は使用せず、「比率基準(percentage criterion)」と表現したのだ。」ということでした。突っ込みたくなる箇所はあるにせよ、まさしく、ROOオタクと言えるでしょう。

話はそれますが、オーストリア、スイス北部は独語を話します(スイスの公用語は独語、仏語と伊語の三か国語でスーパーの商品から運転免許証に至るまでこの三か国語で書かれています)。本家ドイツを含めこれらの国からの専門家は例外なく自分の講義ノート全てが終わるまで配分時間を気にせずに説明します。セミナーへの途上国参加者の意向は顧みず、細かなルールまで読んで説明する手抜きをしない完璧主義タイプです。主催者泣かせではありますが、一徹さにおいては他国の追随を許しません。筆者は、古参の専門家と共に多くのセミナー行脚を通して、GSP本来の知識のみならず、講師としての心構え、質問への応対の仕方など貴重な経験とノウハウを得ることが出来ました。セミナーは、いわば筆者に対する技術協力でした。

脱線のついでに、関税評価のベースについて触れます。これは筆者の誤った見方かもしれませんが、成文法主義の欧州大陸諸国(例えばEU)では評価のベースはCIFです。他方、判例法主義のアングロサクソン国家はおしなべてFOBを使用しています(英国は現在EU加盟国ですのでCIFですが、将来脱退することになれば、ひょっとしてFOBに戻る可能性もありえましょう)。WTO関税評価協定では、加盟国はCIFかFOBのいずれかを選択することができますが、米国(FOBと同様の概念であるFAS価格を使用)、加、豪、NZと何故か南アがFOBを使用しています。一度、米国の専門家にこの理由を聞いたことがあります。彼の説明では、「米国は大陸国なので、例えば、アジアから輸出する場合、西と東海岸では海上運賃・保険などに差が発生する。CIFとすると同じ産品でも輸入者の関税負担に差が生じる。これは米国国民に不公平な取り扱いとなるので、差が生じないFASとしているのだ。」と。

2017年2月17日 掲載
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