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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第九話−GSP・ROOの主たる要素(その2)−

4.追加の便益

これには二つがあって、一つは自国関与制度と呼ばれているもので、他の一つは、日本では当初グループ・オリジンと言われていました。その後、累積原産地制度(cumulative rules of origin)と呼ばれるようになりましたが、現在では「造語」と考えられるCumulationという語で定着しています。これらを追加の便益として特掲した理由は全ての供与国が与えているわけではなく、また、与えている場合であっても差異が見られるためです。国内法では、自国関与制度は関税暫定措置法施行令第26条(原産地の意義)第二項において、また、累積原産地制度は同条第三項においてそれぞれ規定されています。

[累積原産地制度](Cumulation)

通常、GSP・ROOの認定要件は一つの受益国で満たすことが想定されていますが、複数の受益国が加工・製造に関与し、いわば、合わせ技で原産地としての要件を満たす場合、この制度の下で認めようという趣旨です。我々の「タメにする議論」においては、150以上の受益国を原産地認定上一つの国(single entity)と見做すGlobal Cumulationと特定の経済上のグループ(例えばASEANとかアンデス諸国:Andean Pact Countries)のみをsingle entityと見做すRegional Cumulationとに区分し、更に、それぞれの受益国で加工・製造された中間製品のうち原産地を満たす「モノ」のみの累積を認める方式(partial cumulation)とともかく受益国関与分を一切合切累積させて最後に計算・判定する方式(full cumulation)に分けて議論していました。勿論、UNCTADはfull global cumulationがベストとの立場でした。日米EUの三大スキームはおしなべてregional cumulation方式で、日本はASEANにのみ適用しています。加、豪などは当初からfull global cumulationを採用しています。

ASEANなどのregional groupingsは設立の目的の一つとして域内経済統合の深化を掲げています。複数の受益国における加工工程上累積原産地制度の恩恵を偶々受ける場合もあるでしょうが、積極的に経済統合のために国際分業を行うという政策に協力することこそが、GSPやこのような地域グループ設立の本旨に合致すると考えているのではないだろうか。だからこそ、日米EUはregional cumulationを提供していると。苦し紛れではありますが、これは、某セミナーにおいて「なぜ、三大スキームにおいてはregional cumulationしか与えないのか」という質問への筆者のコメントです。ASEAN以外のregional groupings構成国関係者に対し、日本の本制度の適用により裨益するのであれば、具体的なケースを添えて相談すべきと慫慂していましたが、依然としてこんにちの日本のスキームにおいてはASEANのみです。アフリカやラ米地域には幾つかのregional groupingがありますが、日本から距離が遠いと累積原産地制度を要求するレベルまでの経済構造には至っていないということなのでしょう。

[自国関与制度](Donor Country Content Rule)

これは、例えば、日本から「提供された」原材料・部品などが提供先の受益国において加工・製造された後、最終製品が日本に輸出された場合、本邦からの原材料等はこの受益国の原産品として取り扱うという趣旨です。例えば、本邦部品とこの受益国の部品のみで製造された場合、出来た製品はいわば完全生産品扱いになるということです。結果として、供与国・受益国双方がGSPのメリットを享受するwin-winの関係になります。個人的には、この制度はCumulationの一つのvariationではないかと思っていて、ただ、一つの受益国の代わりに自国たる供与国が関与しているということと理解しています。筆者が担当していた当初、三大スキームのうち、日本だけが適用していたのですが、後日、他の二つのスキームも導入しました。参考までに、今回、この連載を引き受けるにあたり、事前の準備として元同僚(現UNCTAD・LDC担当課長、イタリア人)に現在有効なEU・GSPの資料の送付を頼みました。奇しくもEUでは2011年から自国関与制度をbilateral cumulationと言う表現で導入していますが、これはEUのFTA原産地規則と同様に、「原産品」を提供しなければなりません。

前回、この項目のところで「垂直統合を形成させないこと」と書きましたが、少し詳しく触れます。GSPが議論されていた1960年代は多くのアジア・アフリカ諸国が独立を果たし自国の自立に邁進している時期にありました。ところが折角独立を勝ち取ってもGSPの自国関与制度を通じ経済的に先進国に牛耳られてしまっては元も子もないという危惧が途上国の中にあったため垂直統合(vertical integration、原文ではvertical lines of trade)を過度に警戒したのです。このため、途上国はGSP実施に伴う垂直統合の効果をレビューすべしと要求しました。筆者がUNCTADで勤務していた期間、このようなレビューを行った記憶はありません。四回目の連載で述べたように、GSPの利用率の低さから言って、途上国の経済を縛ってしまうような現象は残念ながら起きなかった、途上国の一方的な過大評価・杞憂であったということでしょう。

GSPをUNCTADで担当して感じたことは、この点に関して言えば、例えば、日本の商社が核となって日本から必要な原材料を提供し(自国関与制度の活用)、累積原産地制度も利用できるような途上国で加工・製造して日本や他の供与国に輸出する形態が一番円滑に働くのではないか、ということでした。現在は、多くのFTA・EPAの拡散によって一層選択肢が広がっています。誰かが「司令塔」となって戦略的に動かないと制度の持ち腐れとなってしまいましょう。他方、経済活動のグローバル化は、やはり資金量豊富な多国籍企業をますます利するということでしょうか。

最後に、宿題となっている特恵原産地証明書について補足します。様式には彩紋が入っていなければならないと述べましたが、多くの後発開発途上国などでは自国でこのような印刷技術はありませんでした。スイスやオーストリア政府はUNCTADの求めに応じ、一定部数の様式を寄贈してくれており、我々はセミナーなどの機会に配布していました。このような「現物」による支援形態を英語ではin-kind contributionと言います。

さて本題です。米国はあることをきっかけにして輸入に際してこの様式の提出を任意にして、関係者の自己申告を受け入れる取り扱いとしました。これは筆者が直接アフリカ某国におけるセミナーで自己申告にすべしと勧告を行ったUSTRのGSP専門家 からお聞きしました。この専門家は、USAID(United States Agency for International Development: アメリカ合衆国国際開発庁のこと、日本のJICAに相当する)の資金でアフリカの数か国で貿易・製造業者を集めて米国GSPセミナーを開き、質疑応答のセッションで参加者から要望を聞いたところ、多くの人が証明書の取得に不便を感じているとの意見が寄せられたそうです。詳しく聴取したら、(国名は控えさせていただきますが)証明書発給機関から賄賂を要求され、拒否すると発給を遅らされたり、普段は要求されない追加の資料の提出を求めたりされたそうです。中にはGSPマージンに匹敵する額の要求もあったそうで、ここまでくると本末転倒と言わざるを得ません。米国税関は原産地に疑義がある場合、輸入者に質問し資料の提出を求めることができるため、何もこの特恵原産地証明書が無くても対応できるということで、USTRの理由に納得し自己申告も認める運用に変えたそうです。蛇足ですが、国際機関ではこのような行為・慣行をあからさまにcorruptionとは言わないで、例えばWCOではintegrityと、開発機関では(good)governanceという表現の仕方で直截的な言い方を避けるのが一般的です。

もう一点補足します。GSP・ROOはLDCを含めて全ての受益国に同一のルールを一律に適用するのが原則です。GSPの三目的を享受するのであれば、その受益国で原産地と認定されるだけの加工・製造しなければ、便益は第三国に行ってしまうことになり、供与国の理解は得られないでしょう。LDC特別措置は、別のコンテキストで、例えば、一般の受益国に特恵例外品目とされている品目への特恵対象品目としての追加、数量制限の緩和、特恵有税品目の無税化といった形態で適用されるべきものと思われます。日本は、LDC特恵例外品目(198品目(農水産品 151品目、鉱工業品 47品目))以外のすべての品目について無税・無枠のLDC特別措置を実施しています。ところがEUはderogation(原意は、法律のある規定の免除又はルールからの逸脱)という仕組みを考案し、当初はLDCのみに、現在は全ての受益国に適用しています。その中身は、外的又は内的要因により直ちにはROOの要件を満たせない場合、要請により協議し、derogationの援用が適当な場合には個々にその条件(例えば、その範囲、期間など)を設定することとされています。筆者は、この仕組みはGSPよりも優遇されたロメ協定(Lomé Convention)(ロメはアフリカの国トーゴ―の首都、ここで協定が合意されたのでこの名が付いた)からの準用ではないかと理解していましたが、念のため前述の元同僚に確認したところ、違うということでした。最後にロメ協定に関するジョークを一つ。相当昔関税局で勤務していた際、当時は手書きだった時代で、殴り書きだったせいもあってある人はこれ(カタカナの「ロメ」)を〇×(まるばつ)協定と読みました。

2017年3月15日 掲載
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