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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第十話−Pros and Cons on Process and Percentage Criteria(その1)−

ある産品を製造する場合、一の国において純国産原材料のみで行われたのであれば原産地認定に紛れはありません(完全生産品、wholly-obtained products)。他方、輸入原材料・部品が使用される場合、実質的な変更(substantial transformation)がなければ原産地と認定されませんが、認定されるためには大別して加工工程基準と比率(又は付加価値)基準があることは述べました。さて、これらの基準の長所、短所にはどのようなものがあるのでしょうか。

1.加工工程基準(process criterion)

【長所】 「この産品の製造にあたり原産地として認定されるためには、輸入原材料はこれだけの加工を要する」というように、原産地認定上誰もが納得できる加工の程度を示すことができます。換言すれば、このやり方は、正確に客観的に実質的な変更をもたらす加工についてその条件を規定することができるということを意味します。実質的な変更と見做せるに足りる加工の程度には長々と記述する代わりに、輸入通関を担当する税関職員にはなじみの深いHSの関税番号で置き換えることもできます。HSは原産地認定のために開発されたものではありませんので、それらの号の変更が必ずしも実質的な変更をもたらすこととは限りませんが、HSは基本的に交易される産品について粗の状態から加工が加えられるに従って、号の数が上がる仕組みとなっています。第18類のココア及びその調製品(四桁ベースで六つの号がある)が、極めてぴったりくる例です。

18.01カカオ豆(cocoa beans)
18.02カカオ豆の殻など(cocoa shells)
18.03ココアペースト(cocoa paste)
18.04ココア脂(cocoa butter)
18.05ココア粉(cocoa powder)
18.06チョコレートなど(chocolate, etc.)

EU、日本などはこのHSの仕組みを最大限活用することで、冗長な認定条件の記述となることを避けています。GSP開始当初は種々の異なった品目表が存在していましたが、現在では、国際貿易の9割を超す部分がHS加盟国によって行われ、加盟しなくとも実行上HSを採用している国も併せますと、HSはGSP供与・受益国双方の世界共通の品目表と言えます。

号の変更が出ましたので、筆者がセミナーにおいて必ず引用した「超」極端な例を紹介します。これは全ての原材料が輸入される場合であっても号の変更が伴う場合、原産地が付与されうるケースを示したものの、全くの机上の議論であって現実には起こりえないものです。狙いとしたことは、セミナー参加者に号の変更による「実質的な変更」概念を平易に理解して頂こうという趣旨で行ったものです。輸入原材料は以下の通りです。

製材HS 44.07
ワニス32.09
皮革(牛)41.04
釘(鉄製)73.18
接着剤35.06

最終製品は、木製の椅子でHS番号は94.03です。それぞれの輸入原材料のHS番号が見事に変更を遂げ94.03という別のものになりました。加工工程は、製材を特定の長さに切ってカンナ掛けをし、枠組みを作り、革を張って、接着剤で張り合わせ、釘で固定し、最後にワニスを縫って仕上げる、となりますので、原産地を付与しない「些細な加工」の範疇を超えるものとなります。

「些細な加工」の話が出たついでに脱線しますと、EC(現EU)は屠殺(slaughter of animals)を些細な加工と見做してこれだけでは、原産地を付与するに足る十分な「加工」とは認めませんでした(最新の改定EU・GSP規則No.1063/2010(2010.11.18)においても変更はありませんでした(第78条第1項(q))。さすが狩猟民族の末裔だけあると軽口をたたくつもりはありませんが、日本ではやはり仏教国だけあって殺生を禁じてきた歴史を反映して、屠殺は、関税暫定措置法施行規則第9条但し書きに規定する「些細な加工」の例示にはありません。セミナーでは、このことは極めて重い行為なのだということを言外に込めて、「Buddha's Principle」(仏陀の原則)と解説したものです。蛇足ですが、EUでは「規則」(Regulation)と言う場合、「法律」を意味します。

他方、加工工程基準とはいっても、日本は、部品の数が多く使用される電気機器(HS第85類)や(同90類)など一部の特恵対象品目については比率基準を採用しています(蛇足ながら、自動車(HS87類の一部)の輸入は、日本が極めて高い国際競争力を有していますので関税でこの産業を保護する必要はないことから1979年以降関税は無税となっており特恵対象ではありません)。EUは日本より多く比率基準を採用していました。ここで言いたいことは、比率基準のみを採用している供与国のGSP・ROOに比し、比較的、コスト面に神経質にならなくても良いと言えます。理由は、日本やEUの場合、原産地を付与する条件として、例えば、「輸入部品の価格が製造価格の40%以下となる製造」とされていますので、全てのコスト要素を押さえる必要はなく、輸入部品の仕入れ価格のみを把握しておけば足りるからです。

【短所】 以前述べたように、加工工程基準方式では、幾つかのリスト(完全生産品、些細な加工、特恵対象産品別の原産地認定を満たす詳細な加工工程など)を用意しないと実施できません。短所について、筆者はたったの二行で済ませましたが、現実には、GSPのユーザーである輸出入業者、メーカーなどにとっては、品目表(HS)の仕組みをはじめそれらのリストを詳しく勉強する必要が出てきます。各国GSPスキームの改正(例えば、特恵対象品目の追加に伴うROOの変更)があれば、その都度、改正の中身をつぶさに検討しなければなりません(比率基準の場合、追加品目があったとしても、比率自体に変更が起きないためこのような詳細な検討の必要性は薄くなります)。

確かに、特恵原産地証明書発給機関職員は全てのGSP・ROOを、また、輸入通関を担当する税関職員は自国のGSP・ROOに精通しなければ、円滑な業務に支障をきたします。他方、これはセミナーにおいて常に強調することでしたが、受益国のメーカーや輸出業者へのアドバイスとして、「最初は自己の輸出品について正確なHSベースの関税番号を理解することがなにより肝要なこととなりますが、一旦理解すれば、その番号が特定国のGSPスキームの対象となっているか否かが判明し、対象品目の場合、対応する加工工程基準に当たるかどうかの検討が容易になるであろう。原産地認定基準を満たすということであれば、あとは、特恵原産地証明書の申請はルーティンとなるでしょう。国によっては、事前教示制度を導入している税関もあり、自己の輸出品の関税分類に自信がなければ、税関にサンプルなどを持参して相談するのが良いでしょう。」と。

HS実施直後、UNCTAD・GSPセミナーでは何回か、専門家をお呼びしてHSの説明を行いました。オーストリア税関で分類一筋30年という生き字引専門家Dr. Sにも来ていただきましたが、氏は立ちっぱなしで延々と二時間HSの講義を行いました。これぞマニアックと思ったのは、夕食時、彼が、塩、コショウ、飲料水、肉、ビール、ワインなどをHS六桁の数字で言うのです。以来、勉強して「類」(HS第1‐97類)のレベルまでは覚えました。

セミナーでは、参加者の関心を引き付けておかなければならないので、ある意味「エンターテイメント」というか「ショー」的な要素が要求されます。必ずサンプルなどを提示した関税番号に関する質問が出されます。知っている税番のものであれば良いのですが、未知のものが出された場合、立往生してしまいます。時間をかけて検討し始めますと、場が白けてしまいます。他の専門家の対応振りを参考にして考え出したのは、自信の無い場合は、「この商品の材質はこれこれですので、分類の可能性はこれとこれになるでしょう。この場合はHS〇△で特恵対象です、他方、こっちに分類と言うことであれば、HS△×で特恵非対象です。詳しくは明日までには調べておきます。」というアプローチでした。一応、主催者であるUNCTADを代表してきている「専門家」と呼ばれていますので、「知りません」とは立場上言えません。

2017年4月5日 掲載
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