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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第十一話−Pros and Cons on Process and Percentage Criteria(その2)−

2. 比率基準(percentage criterion)又は付加価値基準(value-added criterion)

【長所】

何といっても分母に当たる製造後の産品の価格と分子に当たる総輸入原材料費用又は総国産原材料費用など投入量とが確定すれば、(セミナーでは、あとは日本製カシオの計算機で正確に比率が出てきます、と言ったものです。機会をとらえて、日本人として多くの日本の製品に言及するのは自然なことだと思うようになりました。そのきっかけは、国連職員といえども出身国を誇りに思い、そのために職員規則に抵触しない範囲内で自国の利益となるように行動する人をたくさん見かけたからです。そのうちの一人がいみじくも言うには、本国に信任のない人間が何で国連において信用されるのかと筆者に言ったものです)あとは計算するだけです。再度、短く済ませてしまいましたが、ことはそう簡単ではありません。

筆者は日商簿記3級しか持っていないので偉そうには言えないのですが、誤解を恐れずに言えば、まず、原材料価格に直接人件費とその他の直接費を加えますと「工場渡し原価」(ex-factory cost)となります。この工場渡し原価に内装費と利潤を加えますと「工場渡し価格」(ex-factory price)となり、更に当該工場から船積み地までの費用(主として国内輸送費、保険料及び外装費)を加えますと契約条件によって「FAS価格」(free alongside ship)又は「FOB価格」(free on board price)(前者は「船側渡し条件」と言われ、売主は船側までの費用負担に留まり本船に積み込む必要はありません。他方、後者は「本船甲板渡し条件」と言われ、売主は本船に積み込むまでの責任を負います)となります。最後に、FOB価格に海上運賃と海上保険料を加えますと「CIF価格」(cost, insurance and freight)となります。従って、分母として、以上の四つが候補となります。分子の候補は、大雑把に言えば、総輸入原材料費用又は国内投入量総費用の二つです。

さて、比率基準採用供与国は実際にはどれを採用しているのでしょうか。豪州とNZは共に分母に「工場渡し原価」を使用しますが、隣国の供与国だけあって分子も似通っています。豪州の認定基準は「その受益国の直接人件費と原材料価格、更に、他の受益国の原材料価格(累積原産地制度)及び豪州の原材料費(自国関与制度)があればそれらを加算すること」を用い、これが「工場渡し原価」の最低限50%を占めることです。一言で言えば、半分以上が国産であることが認定基準となります。NZも累積原産地制度と自国関与制度を採用していますので加算要素になりますが、これに「その受益国の原材料と部品費用並びにその他の製造諸経費」を足したものが最低限50%を占めることです。NZの方式には、豪州で加算要素とされていた「直接人件費」とは明確に規定されていませんが、詳しく読みますと結果的には同じことと考えられます。従って、豪州同様半分以上国産であることが認定基準であると言えます。工場渡し原価の使用は、利潤の設定がシーズンによって繁忙期か否か、初期投入商品か、ライフサイクルの終了期か、競争力がある製品か、などの要因によって同一の産品においても異なるでしょうから、一面において合理的なのかもしれません。

次に、カナダと米国を見てみましょう。両国は共に分母として「工場渡し価格」(米国はこの工場渡し価格に加え、税関における評価額も入っていて、「ex-factory price or appraised value by U.S. customs」と表現されています)を使用します。分子については、カナダは、「輸入投入総額」でこれが「工場渡し価格」の最大限40%までとされています(裏から言えば、原産地認定基準を満たすためには、国産比率が最低60%必要ということです)。他方、米国の分子には、「その受益国の原材料価格に直接加工費を加算したもの」を用い、これが「工場渡し価格」の最低限35%を占めること、とされています。このように、全てのOECD・GSP比率基準採用供与国で微妙に差異が見られます。このことは、いくら計算が簡単と言っても、特恵供与仕向け地毎にそれぞれの原産地認定基準をクリアーしているがどうかを確認する必要があると言うことを意味します。

最後に、基本的に加工工程基準を採用しているEUと日本は、特定の特恵対象品目に比率基準も適用していると書きました。具体的には、分母についてEUは「工場渡し価格」なのに対し、日本はFOB価格です。分子は共に「総輸入原材料価格」で、日本の場合、原則として、これが「FOB価格」の最大限40%までとされています(原則として、と書いた理由は、追加の要件があるからなのですが、比率基準を説明している枠内でこれらに触れますと、混乱する恐れが生じかねませんので、別途、EUと日本の比率基準の差異について触れたいと思います。詳しく後述する予定ですが、2010年までは、日本とEUは分子について基本的に40%でしたが、EUがルールを大幅に緩和した新EU・GSP・ROOを2011年から施行したため、最大限40%までとは言えなくなりました)(参考までに、ダンピング調査の際、問題となっている輸出国の産品の国内価格と輸出価格との比較を行いますが、比較のベースは「工場渡し価格」です)。以上みたとおり、比率基準においては同一のルールを採用している供与国は一つもありません。

【短所】
  • @ 要は割り切りの問題かもしれませんが、原産地を付与する実質的な変更認定基準として比率基準方式を採用している供与国は、機械的に35%、40%又は50%と設定しています。本当にこの比率によって真の意味における実質的な変更が行われたと解釈するにはなお釈然としません。個人的には、豪州方式の「国内投入額の総額が工場渡し原価の最低限半分を占める」場合、原産地をこの受益国に与える、とするのが一番納得できます。これに加えて、この比率基準方式では、ボーダーライン・ケースを救うことはできません。例えば、40%まで輸入原材料の使用が認められる場合、1%だけ多く使い41%になったがためにGSPの便益を受けることが出来なくなったとします。果たしてこの1%の差が実質的な変更に影響を与える程の程度(結果、GSPが受けられない)と言い切って良いものなのでしょうか。更に、屁理屈を言えば、割高の国産汎用部品を使い、最終製品の特性を決定する重要部品を輸入して製造したとして、結果として、輸入比率40%に収まった場合、真の意味でその受益国で「実質的な変更」が行われ、GSPの目的の一つである「工業化の促進」に寄与すると言えるのでしょうか。悩みは尽きません。
  • A GSPが導入された時代、各国通貨の交換比率については「固定相場制」が採用されていました。このため、メーカーにとっては、製造コスト計算が現在よりは容易であったと想像できます。IMFによる「変動相場制」への移行は1976年1月から正式に実施されました。以後、為替相場は作業日毎に変動します。つまり、輸入原材料価格が単に為替相場の変動により今日までは40%の範囲内に収まっていた作業工程が、輸入原材料の投入単位は同じであっても、明日以降も40%に収まる保証はありません。尤も、この真逆のケースも起こりますが。輸入原材料価格自体の高騰も考えられますが、為替相場が相手の場合、企業努力をしたくとも、メーカーには為替価格を操作することは叶いません。
  • B 分母はインコタームズ(Incoterms: International Commerce Terms、国際商業会議所が定義した取引条件のことで、基本的には、売主・買主それぞれの責任限度を定めている)で定義がはっきりとしていますので解釈の紛れは少ないでしょう。他方、分子については、これまで見てきた通り様々に規定されていて、一つとして同じものはありません。このため、セミナーにおいてメーカーなどから苦情が寄せられるのは、分子の各コスト要素に係る解釈の相違です。比率基準方式は確かに簡便性という点においては秀でているのですが、セミナーにおける経験では、紛争が起きるのは加工工程基準方式(どこまで加工したのかが判断基準になる場合にはなおさら)よりも比率基準方式の方がかなり多いという印象を受けました。直感的には、分子の定義が供与国によって異なるため、比率基準方式の方が、ある比率基準採用供与国の原産地基準を満たすけれどもそれと同じ工程が他の比率基準採用供与国の基準を満たさない可能性が高いと言えるのではないかと思われます(尤も、自国関与や累積原産地活用によって変化しますので一概には言えません)。そうなりますと、比率基準採用特恵許与国間においては、実質変更の基準が供与国の数だけ存在することになります。

GSPの導入前から、G77は「実質的な変更基準方式として付加価値基準(比率基準)と加工工程基準が並立するのはやむを得ないが、それぞれの方式においては最大限統一化が図られるべきである。」と訴えてきました。この背景には、「ある工程で製造された産品があるGSPスキームのROOにおいて原産品として認定される場合には、他の全てのスキームにおいても認められるべきである。」と一旦は供与予定国とG77との間で理解の共有があったからです。ところが、ふたを開けますと、今まで見てきたように比率基準採用供与国の間には全て差異が見られます。シニカルにみれば、どの供与国も慣れ親しんだ自国のROOを変えてまでGSPを導入することはないと考えていたということでしょう。他方、加工工程基準採用供与国においては、EUと日本の間では特恵対象品目のカバレージが異なることもあって(当たり前の話ではありますが、対象品目でなければ、それに対応する特恵原産地規則を設ける必要はありません)、でこぼこはあるにせよ、同じ考え方で規定されています。UNCTADにおいて筆者は12年間GSPの動静を間近で見てきましたが、GSP・ROOの統一化作業努力は空回りしているだけでした。この状況を敷衍した結果、現在のFTA・EPAの拡散とそれらの数だけ異なったROOが存在することに繋がったのだとも言えます(もちろん、ウルグアイラウンド合意を受けてWTOとWCOが非特恵分野における統一原産地規則の策定が未だ完了していないこともあります)。

筆者がUNCTADを離れたのは1995年12月ですが、その後の大きな国際貿易面の動きは、ドーハラウンドの開始とその挫折を契機にFTA/EPAの、望ましいのかそうではないのかはわかりませんが、「黄金時代」を迎えました。これらとROOは切っても切れない関係にありますが、個人的は世界的に見てROOには現在三つの流れ・傾向があるように思います。

  • @ NAFTAタイプのもの(米国はこう言われると面白くないでしょうが、NAFTA ・ROOは、EUや日本のGSP・ROOを進化させ、極端に精緻化(最初のNAFTA・ROOはA-4サイズで確か500ページを超えていたと記憶しています)したものであって、関税番号変更、加工工程及び比率基準の組み合わせから構成されています)
  • A EUタイプのもの(EU・GSP・ROOを基本としつつ所要の修正を施したもの)
  • B ASEANタイプのもの(40%方式と関税番号変更基準方式の選択、当初のASEAN・ROOは基本的に前者のみであった)

最後に、考えさせられる事実に触れて今回の終わりとしたいと思います。シンガポールは積み替え港・自由港として発展してきており、関税も3−4品目にしか設定してない(財政関税)はずです。この国は多くのFTAを二国間ベースで締結(例えば、豪州、NZ、日本、米国)していますが、一度それらに適用されるROOを調べたことがありました。結果としてシンガポール当局は「極めて柔軟」な対応をとったとも言うべきもので、全て交渉相手国が使用しているROOをベースとしたものを受け入れていたのでした。

2017年4月17日 掲載
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