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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第十二話−新EU・GSP・ROOの概要(その1)−

本稿においては同じ加工工程基準を採用している日本とEUとの間の微妙な差異について書く予定でいました。ところが、今回の連載のため既述の元同僚というか部下であったイタリア人に資料を送ってもらったところ、EUの新GSP・ROOは従来の規則を大幅に進化させ、多くの点で日本のGSP・ROOよりも緩和されていました。このため、今回は予定を変更して、以下の二つの文献を基礎として新EU・GSP・ROOの主要なポイントに触れたいと思います。

  • @ EU新GSP・ROO規則 (Commission Regulation (EU) No 1063/2010 of 18 November 2010 amending Regulation (EEC) No 2454/93 laying down provisions for the implementation of Council Regulation (EEC) No 2913/92 establishing for Community Customs Code)、及び
  • A イナマ氏によるEU新GSP・ROO規則に係る論文 (The Reform of the EC GSP Rules of Origin: Per aspera ad astra? Stefano Inama, Journal of World Trade, 2011)

一般にEUの法律である規則には、冒頭にその規則を制定するに至った経緯、主要論点とそれらに対する当局ドラフト者の基本的な立場に言及するのが通例です。本規則も例外ではなく冒頭に5ページ半にわたり策定経緯等を28のパラグラフに分けて触れています。尤も、ぎらついた対立点には深く立ち入ってはいないとは思いますが、筆者のような外部の人間に対してはなぜこの規則を制定したのか、なぜこのような書きぶりになったのかについて有益なヒントを提供してくれます。なお、本規則は、全108ページ、57箇条、6の付属書からなる比較的長文のもので、2011年1月から実施されました。

他方、論文の著者であるイナマ氏は、イタリア北部、港町のジェノアの出身で本国では判事をしていました。その後、ベルギーのブルージュで学び、国連(UNCTAD)に採用されました。当時我々のGSP普及プロジェクトには、ジュネーブ本部のほかにアジア・太平洋地域(2-3年間隔のローテーションで事務所所在地を変更していました。地域事務所はスリ・ランカを振り出しに、その後、フィリピン、インドネシア、マレイシア、タイ・バンコクにあるESCAPに移転)の二拠点がありました。UNCTAD幹部は、これらに加えてアフリカ及びラ米地域にも事務所を置きたいと考えていました。最初の配属先としてイナマ氏はジンバブエ(旧ローデシア)首都ハラレに設立されたアフリカ地域事務所勤務となりました。現在のジンバブエは超インフレなど経済問題に限らず政治面においても混乱を極めていますが、当時は治安も安定しており外国人には住みやすい国でありました。その後、氏はジュネーブ本部勤務となり、現在はUNCTAD・LDC担当課長を務めています。現在の彼はUNCTADにおけるGSPの第一人者ですが、国籍を反映してEU事務局にも知己が多くこのことが彼の強みの一つとなっています。彼とはセミナー活動のため30か国以上一緒に出張しましたが、日本的な姓を持っていたため、日本人二名が現れると思ったホスト国もあって苦笑したものでした。ユニークなイタリア人であり、セミナー行脚中、数々の逸話を残していますので機会を見て紹介したいと思います。

1. 規則改正の背景と問題意識

1970年代に策定されたGSP・ROOはこれまでいくつかの部分的な修正が行われたもののその基本的な骨格を維持したまま40年が経過し、現在、EU加盟国数もGSP開始時の9か国から三倍強の28に拡大しました。この間、GSP類似の便益を相互に提供するFTAが数多く締結されましたが、これらFTA・ROOはGSP・ROOに比し原産地認定基準が比較的緩和されておりGSPには厳しいとの内部意見が出され、EU事務局は2003年12月GSP・ROOの緩和・簡素化を目途に包括的な見直し作業を開始しました。

この包括的な見直しの経済合理性としての切り口は、支援を最も必要とするLDCに対しては便益を厚くする一方、一定の経済発展を遂げた途上国にはGSPから「卒業」して頂き、卒業国にはGSPの一方的・片務的な形態からギブアンドテイクという双務的なFTA・EPAに切り替えていくという途上国問題への政策転換と言えるのではないでしょうか。このEUのアプローチは、GSP受益国に対してのみならず、歴史的にも関係の深いアフリカ・カリブ海・太平洋諸国(頭文字をとってACP諸国という)46か国と1975年に締結された地域特恵の性格を有するロメ協定、その後2000年に後続協定となったコトノー協定(71か国に拡大)にも同じく適用されています。

さて、加工工程基準を基礎とする旧原産地認定方式は、多くの鉱工業産品に関し、関税番号変更と特定の加工ないし輸入原材料使用比率制限という加重条件を基本としていました。数多くの受益国に市場を開放するという全く新しいGSPという制度の導入が、EEC(現EU)市場にどの程度の経済的な影響を及ぼすかは予測が困難ということもあってGSP・ROOが国内産業保護のために防御的なルールとなったことは否めません。このことは日本においても同様でした。見直し当初は、現行の加工工程基準方式からドラスティックにすべての品目について比率基準に転換する案が出されました。EU事務局によれば、比率基準方式のほうが簡素化・弾力化・透明性の各面において、加工工程基準方式よりも優れているとの理由のほか、基準見直しの途中において、ROOの変更によって影響を被る国内産業界から現行の加重条件の維持を要請するロビー活動をされますと、中身のあるGSP・ROO改革が行えなくなるため、一律に比率基準を採用したいという理由・思惑があったためと言われています。特に、農業(一時期、EC予算の約半分が域内の農業保護のために支出されていました)、漁業、繊維産業界からの陳情が予想されました。残念ながらこのアイデアは、見直しが進むにつれて想定されていたようにこれらの産業界からの抵抗にあい、結局、加工工程基準か比率基準のいずれかを選択できる方式とし、比率自体も従来よりも緩和し、更に、LDCにはより一層の有利な比率とする方向に意見が収斂していきました。

EC(現EU)はEFTA(1960年英国を中心にスウェーデン、オーストリアなど七か国で結成、その後、数か国がEUに加盟したため、現在はアイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインの4か国のみが加盟国)とFTAを締結していました。このため大雑把に言えば、西欧諸国では実質的に「単一市場」が実現していました。その後、南欧・東欧諸国が相次いでEUに加盟するとともに、EUは多くのFTAを締結してきました。この結果、GSP・ROOのコンテキストで累積原産地制度(Cumulation)の見直しも必要になりました。

他方、手続き面において見直しの契機となった大きな理由に、特恵原産地証明書に係る問題がありました。簡単に言いますと受益国証明機関におけるEU・GSP・ROOの理解不足により誤って発給された証明書が善意の輸入者により申告され、許可されました。後日、この事実が判明し、EU税関当局は輸入者にGSP輸入は認められないので通常の輸入における関税支払いを求めましたが、輸入者は自己に瑕疵がないとして裁判所の判断を求め、EU当局側が敗訴するケースが相次ぎました。この結果、適正・適切な関税税収確保のための対策も必要となりました。皮肉を込めて言えば、このこと自体が、従来のROOが極めて複雑であったことの証左と言えます。

EUは特恵原産地証明書の発給機関を受益国の政府機関としています(日本は受益国の商工会議所も認めています)。見直しの基本としてEUが考え出したのが、GSP利用者たる輸出者の証明機関への電子方式による登録制度です。受益国において登録された情報はEU事務局に通報され、EUはこれのデータベースを管理することによって28の加盟国とオンラインで結ぶ方向性を打ち出しました。この仕組みの完成には時間と資金が必要ということで、試行期間を設け試行錯誤を通じて改善していくという現実的なものとし、結局、今年1月から完全実施となりました。

2017年4月25日 掲載
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