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連載 第十四話−新EU・GSP・ROOの概要(その3)−

率直に言いまして新EU・GSP・ROO規則がこれほど大規模なものとは想定してはおらず、このため一回分の掲載で十分と思っていました。今回で最後になりますが、このEU新規則が日本のGSP・ROO改善検討への追い風になるかもしれません。次回以降は日本とEUのGSP・ROOの差異について検討したいと思います。

(2)累積原産地制度(Cumulation)

これまでEUのGSPスキームで指定されていた地域統合グループであるASEAN9ヵ国(構成メンバーのミャンマーが除外されているため。当初の指定の際は、同国がChild Laborを禁じたILO条約に未加入であったためCumulationから外されたのですが、この理由による除外措置の延長と考えられます)、SAARC(南アジア地域協力連合: South Asia Association for Regional Cooperation、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカの7か国で、構成メンバーのアフガニスタンは除外されている)などとともに、新規則では、MERCOSUR等(南米南部共同市場、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイとウルグアイの4か国)が新たに累積原産地制度の適用される地域統合グループに追加されました。EUの新制度下の累積原産地制度においては、以下の通り三形態があります。

@ Bilateral Cumulation(二国間累積原産地制度、規則第84条)
これは、以前の連載で解説したように日本などのスキームで言う「自国関与制度」のことで、特恵供与国原材料を受益国で加工し当該供与国に輸出する場合、供与国原産材料を当該受益国産品としてカウントする制度です。但し、EUの場合、EUからの原材料に原産地を付与しない「些細な加工」を超える加工を当該受益国が行うことが条件とされています。

A Regional Cumulation(地域間累積原産地制度、規則第86条第1から6項まで)
(この制度の概念については、連載の第9回で詳しく解説していますのでこの回を参照してください)
多くの農産品が除外されていますが(別表13b)、注意すべきは、この除外品目が個々の地域統合グループ間において差異があることです。これは当該品目を製造する各地域グループのEU市場における競争力の度合いを反映しているものと考えられます。競争力が十分ある場合には、GSPを供与する必要性に乏しくなります。例えば、HS第3類の魚類については、MERCOSURのみが除外されています。他方、家きんの肉やくず肉(HS02.07)は、ASEANのみが除外されており一様ではありません。

B Extended Cumulation(拡大累積原産地制度、規則第86条第7から9項まで)
これは新規則において新たに導入された制度ですが、その実際の経済的効果は運用してみないと結論が出せないと思います。概念としては、通常の累積原産地制度を、指定されている地域統合グループの受益諸国とGATT第24条の規定によってEUが締結している自由貿易協定締結諸国にも拡大して適用するというものです。新たな試みでもあり、新規則には以下のような条件・制約があります。

  • ア. この制度は自動的に与えられるものではないこと
  • イ. この制度から農産品(HS第1類から24類)が除外されていること
  • ウ. いくつかの手続き規定をクリアーしなければならないこと(受益国からの個別の要請に基づき、EUと協議の上、その態様、要件などについて合意する必要があるということです。)

可能性の議論をすれば、この制度を利用して、例えば、MERCOSURメンバー国ウルグアイがメキシコからの原材料を累積加工しEUにGSP輸出する、また、ASEANメンバー国マレイシアが韓国からの部品を累積加工し、同様にEUにGSP輸出することも現実味が帯びてきます。

累積原産地制度の締めくくりとして、これまでGSPを担当してきて一種の所感のようになりますが、確かに累積原産地制度は有効な措置であることは間違いないと思います(但し、筆者が在籍していた当時、OECD特恵供与国のいずれの国からも累積原産地活用の具体的な統計資料の提供はなく、意味のある分析の支障となったのは事実です。)。当時のEUのGSPスキームは国内産業保護の度合いが強いセクターには国別数量制限を課していました。具体的には、多くの特恵対象品目別に暦年ベースにおいて許容する限度数量を受益国別に設定していました。EUの場合、受益国の政府機関(具体的には、貿易を担当する省庁又は税関当局)のみが特恵原産地証明書を発給していますので、限度数量をモニターすることは可能でした。

ところが累積原産地制度はこのモニター機能を曇らせるものでした。例えば、繊維・衣類について主要ASEAN数か国で協力・共同して製造しEUにGSP輸出する場合、証明書が出ないという内々の苦情をセミナーの席ではなく非公式な場である場外でしばしば聞いたものでした。繊維・衣類を担当する受益国当局にとっては、自分たちのあずかり知らないところで証明書が出されることは有限な輸出枠が消化されることを意味しますから、計画的な輸出指導に狂いが生じます。累積原産地制度の円滑な実施には特定の地域統合グループ・メンバー間の密接な協力が欠かせませんが、実際の運用は机上で立案するのとは少し異なる面があるという教訓でした。

(3)例外規定

@ 15%緩和ルール(規則第79条)
このルールはユニークなもので、HSベースによる特恵対象品目別原産地認定基準を規定した別表において、完全生産品からの製造と規定されている特恵対象品目であっても、重量比又は価格比のいずれかで上限15%まで輸入原材料が使用できるというものです。但し、以下の制限が課せられています。

  • ア. HS第2類(肉及び食用のくず肉)、HS第4類(酪農品、鳥卵、天然はちみつ及び他の類に該当しない食用の動物性生産品)から第24類までの農産品(HS第16類のうち水産品を除く)については、製造された製品の重量比で15%を超えない範囲内で輸入原材料の使用が認められます。注目すべきは、HS第3類の魚類には適用がないことです。
  • イ. 鉱工業産品(HS第50類から第63類までの繊維・衣類を除く)については、製造された製品価格の15%を超えない範囲内で輸入原材料の使用が認められます。

このルールは彼らの間においては、「tolerance rule」と呼ばれていますが、toleranceは寛容とか寛大を指す言葉なので、法律用語としては使いにくい語のように思います。実際、この語は条文では使用されていません。

A Derogation Rule(規則第89条)
これは内的・外的要因による突発的な原因により一時的に原産地認定基準を満たせない場合、EUによる職権又は受益国の要請により審査を行い、妥当と判断された案件については期限を設定して本則からの義務を免除する制度です。これは、従来から認められていたものですが、内々聞いたところ実際に適用例があるとのことです。このderogationなる語も法令からの逸脱を意味するのですが、なかなか訳しにくい言葉です。

(4)特恵原産地証明のための輸出者登録制度(規則第91条から第96条まで)

前述したとおり受益国における証明書発給機関のEU・GSP・ROOの理解不足や誤った解釈により特恵関税非適用産品にまで発給された証明書によって、EUの関税収入にも影響を及ぼしました。このため、EUは現行の証明制度の抜本的な改革にとりかかり、特恵の実際の利用者である輸出者の電子的な登録制度を採用することにたどり着きました。登録者名簿等のデータ管理のため、受益国のみならずEUとすべての加盟国においてシステムの構築が必要となりました。このため、試行期間を置くなどして準備に万全を期したところであり、完全実施は本年からです。本登録制度のメカニズムや注目点は次の通りです。

  • @ EU・GSPを利用する輸出者は自国の証明機関に所定の様式に則り電子媒体により登録を行う。これはとりもなおさず、事後の確認を容易にするためでもあります。しかし、このシステムの構築には時間と資金が必要なので一朝一夕には出来ません。特に、受益国の証明機関における立ち上げと維持能力を考慮して、長めの移行期間(2011年から2016年まで)を設け、EUは2017年からこのシステムを全面的に稼働させました。
  • A 以後、登録した輸出者のみが原産地を申告する権利を有することになります。このことは、従来必要とされていた特恵原産地証明書の提出はもはや要しないこととなります。証明機関の役割に変化が起こる可能性はありますが、このシステム化においても各証明機関は輸出者からの申請を承認する権限を有します。
  • B このシステム導入によって、EU域内の輸入者には輸入申告者として新たな責任が生じます。これら輸入者は申告に先立ち、次の二点を確認しなければなりません。
    • ア. 当該輸出者が輸出国の証明機関に登録されていること及び原産地の記載に漏れがないこと
    • イ. 必要な場合には、当該加工が原産地認定基準に適合していることの文書を輸出者から入手すること

輸入者にこれらの確認義務が発生したということは、もはや誤った特恵原産地証明書を発給した証明機関への責任転嫁ができなくなったということであり、EU当局としては関税確保が担保されたことを意味します。尤も、この新たなシステムが確固たるものに根付くかどうかは、ひとえに各証明機関のシステム維持の力量と輸出団体への啓蒙努力にかかっていると思われます。

EUの新GSP・ROOの概要を締めくくるにあたり、EUが供与する各種特恵制度の特徴について触れておきたいと思います。EUのGSPを含む特恵のフレームワークは一言で言って「重層的な構造」であるといえます。やはり厚い便益は、距離的にも近いマグレブ諸国をはじめとした地中海諸国との地域特恵があります。次に、北アフリカにあるスペインの飛地領であるセウタ及びメリリャ(Ceuta, Melilla)への地域特恵が来ます。その他EUの海外県に対する地域特恵も存在します。更に、旧植民地を中心としたACP諸国(アフリカ、カリブ海及び太平洋諸国)との地域特恵が控えています。更に、バルカン諸国との地域特恵も含まれます。最後に旧植民地という繋がりや歴史的なつながりという意味では今述べたような地域特恵諸国に比し左程深い関係にはない諸国が残りますが、実は、EUのGSPはこういう国を対象として供与されているのです。EUの特恵制度上のプライオリティから言えば、一番低い位置にあります。EUのGSP・ROO「大改革」も実は導入してから40年も経過して初めて行われた意味合いが理解して頂けると思います。

日本はEUほど複雑な仕組みはないわけで、片務的な特恵制度はGSP以外にはありません。米国はかつて、例えば、フィリピンとの地域特恵などがありましたが、EUには遠く及ばないものでした。EUの対外貿易政策を正しく理解するためには、この重層的な構造を抜きにしては語れないような気がしています。以前触れましたが、このことは特恵原産地規則の数に反映されていて、筆者が現役のころには16の異なった規則がありました。EUが主体となって供与する特恵なので統一された原産地ルール一本で対応すればいいのにと外野からはこう思うのですが、EUにも内部事情があり対象国群の間に微妙な差をつけることで外交的な配慮を提供し、また、色々な思惑が存在した結果であったと考えられます。このようにEUの特恵制度は複雑になっているため、ウルグアイラウンド原産地規則交渉において、特恵原産地規則を同交渉から除外するよう強く主張した理由がうなずけます(調和化された特恵原産地協定ができますと、EUはこれらの特恵制度に適用されるROOをすべて統一しなければならなくなります。また、ROO適用上地域ごとに濃淡をつけて便益に差をつけていた政策が最早維持できなくなります。)。

2017年5月15日 掲載
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