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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第十五話−日本とEUのGSP・ROOの差異(その1)−

これまでの連載を通じて、断片的にかつ気が付いた程度に日本とEUのGSP・ROOにおける差異について触れてきましたが、本稿においてはそれらを詳しくまとめて主要項目・要素毎に掘り下げてみたいと思います。比較の基礎を提供するのは、EUが1993年の旧規則を更新した2010年11月18日付の新GSP・ROO規則(Commission Regulation(EU)No 1063/2010)で翌年の2011年1月から施行されています。EUの場合、日本では政省令に委ねても問題のない細かなルールについても法律である「EU規則」に記載するのが通例であり、この新GSP・ROO規則も例外ではありません。他方、日本のGSP・ROOの場合は法律から通達までのオンパレードとなっており、具体的には、法律が関税暫定措置法第8条の2以下、政令が同法施行令第25条以下、省令が同法施行規則第8条以下、同規則別表(品目別の原産地認定基準が書かれています)、及び、同法基本通達第11節(特恵関税等)8の2−1以下の厚い布陣となっています。

GSP発足当時、自由主義陣営の西ヨーロッパでは、EEC(現EU、GATT上の関税同盟であり、あたかもすべての構成国が一個の国であるかのように機能し、対外貿易における共通関税率表の適用があり、メンバー独自の関税率を設定することはできません)とEFTA(当時はオーストリア、スウェーデン、スイスなどで構成。GATT上自由貿易地域としての地位で、個々の加盟国は独自の通商政策・関税率の維持・設定が可能であって、関税同盟のような共通関税率表は存在しません。)との間にはFTAが結ばれており、共通のROOが存在していると同時に、この両陣営域内つまり西ヨーロッパにおいては実質的に共同市場が形成されていました。この二つのEntityの加盟国のすべてがGSP供与国となる予定でしたので、FTAを基礎とした隣国同士のよしみもあり、通商政策の違いなどからGSP対象品目の違いはあるにせよ、ROOに関しては最大限の調和が図られたと想像するに難くはありません。

当時の日本の事情はどうだったかと言いますと(全くの私見ですが)、非特恵原産地規則については、関税法基本通達マター(基本通達68−3−5(協定税率を適用する場合の原産地の認定基準))で、加工工程基準を原則採用してはいるものの、この基本通達を一瞥すればすぐ理解できる通り品目別の原産地認定基準がなんとB-5 サイズで1ページに収まる程度であって、日本やEUのGSP・ROOにおける精緻さとは雲泥の差があるように見えます。読者の皆様もこんな簡単なルールで問題は生じないのか、又は、どうしてこの程度の規則で対応できてきたのか、と疑問に思ったことと推察します。また、関税率の適用順位を巡って法廷で争われたという話も寡聞にして聞いたことがありません。

釈迦に説法となりますが、現在、日本における関税率の適用順位は、まず、GSP税率(LDC税率適用受益国についてはLDC税率が優先して適用されます)が、次に、EPA税率が、更に、WTO協定税率が、その次に、国定税率のうち特別法(関税暫定措置法)による暫定税率が、最後に関税率を定めた一般法(関税定率法)による基本税率が適用されます。但し、暫定税率が協定税率よりも低い場合は、暫定税率が優先して適用されます。この場合の暫定税率は、当時のGATT締約国(現在のWTO加盟国)と非締約国との間に差別することなく適用されます。ある研究者によりますと、当時の関税率の設定は、二・三の品目の例外を除きすべて、協定税率よりも暫定税率の方が低かったというのです。これでは、GATT締約国と非締約国とに適用される関税率の差が全くありませんので、これらの国から輸入される産品についてその原産地を厳密に認定する精緻な規則を設ける必然性は全くないことになります。こういう事情が存在していたことが、B-5一枚で長年対応できた「からくり」です。

閑話休題。当時の税関当局者の基本的な「対処方針」について想像を膨らませますと、それは次のようであったのではないでしょうか。「@非特恵原産地規則は加工工程基準を基礎としているが、精緻な品目別の原産地認定基準を欠き未知の分野なので、特恵分野のROOにおいてはEEC当局と連絡を密にしていく、A京都規約・原産地附属書交渉においては、GSPの実施が避けられない状況なので、この二者の規則においては、最大限平仄をとって交渉に臨む、Bアングロサクソン国家(米、加、豪、NZ)は付加価値基準方式を採用する予定なので、具体的な対応としては、日本になじみのある加工工程基準を採用する予定のEEC・EFTAのGSP・ROOの品目別原産地認定基準のうち受け入れ可能な部分は極力受け入れ、これから大きく乖離したROOとならないよう(将来、受益国たる途上国からの批判があっても相当程度、EECと同様なROOであれば日本のみが突出して非難されることはないであろう)に日本のGSP・ROOを整備するのが得策ではないか。」ではなかったと思われます。以下、GSP・ROOの主要要素毎に比較していきます。

1.原産地認定基準

@ 完全生産品(日本:施行規則第8条、EU:規則第75条)
これはどのような態様・状態の時に100%完全にその国の原産と言えるかを列挙したリストです。別コラムにおいて真打の言及したとおり「サラブレッドの馬の蹄の外国製の蹄鉄」が撃ち込まれたら最早完全生産品ではありません。EUでは13の事例について完全生産品を列挙している一方、日本は施行規則に規定していますが、3事例少ない10事例のみです。この3事例の違いは、次のとおりとなっています。

  • ア. 一の国又は地域において生まれ、かつ、生育した動物(屠殺されたもの)から得られた物品(日本の場合、直前に同様な物品について書かれており、違いはカッコ書きで「生きているもの」から得られた物品とあるだけです。EU側に何か積極的な理由があるとは思いますが、個人的には、生きているものが「得られた物品」に至る過程で「屠殺」という行為が行われたはずで、敢えて区別しなければいけない話かなと首をかしげてしまいます)
  • イ. 一の国または地域において生まれ、かつ、生育した魚類、甲殻類及び軟体動物で水産養殖の用に供されるもの(日本・EUともに、別の項で「狩猟又は漁労により得られた物品」とありますので、この項でも読めるのではないかと考えられるため、日本は敢えて別建てとしなかったのかなと思っています)
  • ウ. 一の国又は地域の領海外ではあるが排他的開発権を有する海底又は海底下から採掘された物品(United Nations Convention on the Law of the Sea:国連海洋法条約は、1982年に採択され、1994年に発効しました。当初のGSP・ROOには入っておらず、この条約の発効を受けて、EUが法的手当てをして追加したものと考えられます)

A 些細な加工(日本:施行規則第9条但し書き、EU: 規則第78条)
些細な加工の場合、当該加工国には原産地としての資格は賦与されません。このための例示表というべきリストが日本・EUのGSP・ROOに規定されています。日本の場合は施行規則に5の例示を記載するに留まりますが、EUは量的には日本の三倍以上の17の例示を掲げています。加えて、「但し書き」が二項目追加されています。例示に留まるのなら日本のように法手当技術上の観点から「その他これらに類する〇〇」と書いておけば、網羅的に記載する必要はないように思います。この辺りは、日本とEUにおける法案作成上の技術的な側面におけるアプローチの違いではないでしょうか。さて、EUの二個の但し書きは以下のとおりです(この但し書きが真価を発揮するのは、EUが原産地規則をダンピング防止税のコンテキストで迂回防止策として使用する意図があるからです。別途、翻訳論文として連載中です。)。

  • ア. 製造上又は組み立て上必要とされる特別の熟練した技量ないし特別の工作機、装置又は工具が使用されない場合には、些細な加工とみなされる(ダンピング税が課されている国から継続して輸出するとダンピング税が賦課されるため、EU市場においては最早競争力がなくなります。これを迂回するために第三国に簡単な組み立て作業を行う拠点を設け、ここからEUに輸出してダンピング税を免れようとする行為を防ぐ規定としても活用できます。些細な加工とみなされますと、この第三国における「加工」には原産地としての認定がされませんので、部品等の供給国、つまり、ダンピング税が課されている国が原産国となるからです。)。
  • イ. ある産品に関し一の受益国において行われる作業は、些細な加工に該当するか否かの認定に際してすべて考慮される(この規定もまた上記アと同様、ダンピング税の迂回を防ぐ規定として活用することが可能です。)。

以前にも紹介したところですが、EUはこの些細な加工の例示表の最後に「動物の屠殺」を挙げており、この行為を「些細な加工」に含めています。日本にはこのような記載はありません。

些細な加工が出ましたので、今回の締めくくりとして些細な点について言及して終わりとしたいと思います。それは、「製造工程や作業に使用される電力や工具」及び「一の国又は地域の船舶」についての日本及びEUのGSP・ROOにおける取り扱いです。

  • ア. 電力や工具の取り扱い(日本:基本通達8の2−3、EU:規則第83条)
    日本・EUのいずれも同様な規定ぶりであり、通達の表現を借りますと「これらの規定の適用にあたっては、物品の加工又は製造等に使用される動力、燃料、設備、装置、機械及び工具の原産地は、考慮に入れないものとする。」となっています(電力などはコスト計算に入れるべきものですが、加工工程基準方式の根幹は輸入原材料・部品にどの程度の加工が行われたかを基礎として認定しますので、動力等の要素は関係ありません。また、この加工工程基準においても一部比率基準が用いられていますが、この場合においても、輸入部品や原材料の仕入れ価格に着目していますので製造工程で使用される動力等は関係ないと考えられます。)。
  • イ. 一の国又は地域の船舶の定義(日本:同上の通達、EU規則第75条)
    EUが新規則で本件の要件・条件を緩和しましたので、日本が要求している追加的な二条件(船長及び高級船員のすべてが受益国の国民であること、及び、船員の75%以上が受益国の国民であること)はもはや要求しておりません。
2017年5月25日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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