日本貿易関係手続簡易化協会(略称:ジャストプロ 英文略称:JASTPRO)のウェブサイト

原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第二十話−UNCTADでしたこと−

今回は趣を変えて、筆者がUNCTADにおいてGSP以外に行ったことで、なにかしら意味があったと思えることを二つほど紹介したいと思います。UNCTADは、GATTにおいて多角的貿易交渉が開始されますと、参加途上国に、特に関税交渉に関する技術協力を提供していました。実際、途上国の参加数はラウンドを経るごとに格段に増加していきましたので、途上国からアプリシエートされたことは間違いありません。他方、途上国産品を先進国の市場に効果的に参入させるためには、先進国における輸入管理制度等、非関税措置の具体的な態様・仕組みを調査しその結果を途上国に理解してもらうことも必要でした。

【日本のNTMデータベースの開発】

UNCTADでは、主要先進国のタリフライン・ベースにおける非関税措置(NTM: Non-tariff Measures、攻める側からは非関税障壁(NTB: Non-tariff Barriers)と言われることが多いのですが、守る側からすればそれは障壁ではなく存在意義のある合法的な「措置」と主張するのが常であり、また、明白なGATT違反でもないため非関税「措置」という言い方に落ち着きました)のデータベースを開発するプロジェクトがありました。日本に関しては、なかなか英文による資料が入手できないということで、関税局出身の筆者にお鉢が回ってきました。筆者はUNCTADで働く直前に、当時の関税局輸入課(現業務課)で約3年間GSPの他に、関税の減免税、外国郵便物通関、他法令関係事務、特例法を担当していましたので、ある程度の素地はあったのではないかと思っています。

この一万五千を超えるタリフライン・ベースの日本NTMデータベース開発は、当初ポーランド出身の職員によって行われましたが、そのデータを見ましたら全く不完全なものでした(この職員は後日、グダンスク造船所の「連帯」運動のリーダーであったワレサ委員長が国のかじ取りを行うことになった際、ワレサ氏に請われ財務大臣として入閣されました。)。

閑話休題。国は食の安全、病害虫からの動植物の防御、電気機械器具や自動車に関する一定の品質確保、安全な医薬品確保などの観点から種々の国内法を制定し、国産品のみならず輸入される物品についても所要の規制を課しています。規制については、税関における通関段階で規制が守られているかの確認・確保を行うものと、通関後において消費に向けられる前に確保することで足りるものとの大きく分けてこの二種類に分けられます。前者は関税法第70条(証明又は確認)で担保されています。同条で確保すべき他の法令に基づく証明等の内容は、関税法基本通達に詳しく載っていますが、タリフライン・ベースにおける情報は日本関税協会発行の「実行関税率表」を詳細に検討する必要がありました。また、輸入貿易管理令に基づく「輸入公表」も重要な資料でした。当時は、依然として主に農水産品に一部輸入割当品目が残っておりました(残存輸入割当品目)。結果として、詳しめにデータベースをまとめあげましたので、某省の方から、これはやり過ぎではないか、との苦言を頂戴しました。

ともあれ、このプロジェクトは他の国際機関に先駆けて行い、かつ、一定の成果をあげましたので、OECDをはじめGATT(当時、GATT事務局は「我々は貿易ルールの作成はするが技術援助はしない」との哲学を有していました。)と共有することとなりました。依然としてUNCTADが原データの定期的な見直しを行っていますが、全体の管理は、現在、世銀(World Bank)が行っています。NTMは関税措置以外の各種措置の全てを網羅するため、UNCTADでは詳細なNTMの「分類」表も開発し、現在でも関係国際機関によって活用されています。

ちょっと横道にそれますが、GATTで意味のある関税引き下げ交渉をまとめるためには、現実問題として引き下げによって起きうる被害から国内産業を保護する措置・手段について、いわば代償として、強化することが求められます。このため、貿易救済措置として、AD措置、相殺措置やセーフガード規定の手当・強化をしています。これらもNTMに含まれますが、時間の経過とともにこれらが次第に極めて巧妙に進化していくことは必然であろうと思います(ある意味においては、これは実体経済の更なる巧妙化への対応(例えば、AD税が賦課された後の第三国迂回措置の横行)とも言えます。)。

一般に我々が議論するNTMというのは、政府機関によって執られる措置ですが、大手私企業による市場分割ポリシーなどはどう扱われるべきなのでしょうか。例えば、筆者がフィリピンに住んでいた時、有名な日本メーカーによる現地生産の陶磁器セットを購入しましたが、工場によりますと本社の方針で日本には輸出しておらず、専ら欧米向けということでした。この場合、公法によって輸出先を限定しないとの規制を行うことはできないものと考えられます。別の例は、ジュネーブから日本に戻る際、現地で購入した西ドイツ製ディーゼル車を輸入しようとしたことがありますが(動機は、当時、日本ではディーゼル車には厳格な排ガス規制が実施されていなかったことによります。関税定率法第15条の特定用途免税規定を援用して輸入しますと、輸入後2年間は転売ができません。なお、関税は無税ですが、消費税の適用がありました。余談ですが、消費税に切り替わるまでは3ナンバーの場合、物品税が22.5%で、消費税の3%への大下落は一面輸入車の消費拡大に寄与したと思っています。)、この車を扱っている日本の輸入総代理店から並行輸入車は当社による修理・車検サービスを受けられないので輸入を思いとどまる旨のご丁寧な手紙を頂戴したことが有ります(並行輸入については有名なパーカー万年筆に係る裁判所判決がありますので、現在はこのようなことはないと思います。)。結局は、思いとどまらなかったのですが。

これらTNCs(Trans-National Corporations: 多国籍企業、当時の呼び方ですが、今ならグローバル企業と呼ばれるのでしょう。)などの私企業による措置については、UNCTADにおいてRBP(Restrictive Business Practices: 制限的商慣行)の枠内で議論されてきましたが、捗々しい成果は上げられていません。公的措置としては、競争法の問題となるのでしょうが、問題が自国の輸出競争力に及びますと、また、米国のように企業の権利を制限することに極めて慎重な国があり、中々、UNCTADでは議論が進展しませんでした。

【日本の通商法ハンドブック:UNCTAD Handbook on Trade Laws of Japanの執筆】

1983年の第六回UNCTAD総会は、当時のユーゴスラビアのベオグラードで開催されましたが、この総会では、GSPに係る技術協力プロジェクトに、特恵供与国におけるAD税などの貿易救済措置、貿易管理関連法令、その他の輸出入に影響を及ぼす各種法令などの非関税措置を追加する決議が採択されました。これを受けてUNCTAD事務局は、翌1984年から新しいプロジェクト(UNCTAD Technical Assistance Programme on the GSP and on Other Trade Laws and Regulations Directly Affecting Exports of Developing Countries (INT/84/A01))を立ち上げるとともに、セミナー等で使用する通商法ハンドブックを各特恵供与国について整備する事業を開始しました。

日本についてはNTMのタリフライン・ベースによるデータベースを開発したこともあって、筆者に再度お鉢が回ってきました。このハンドブックでは、主として、外国為替及び外国貿易管理法(現「外国為替及び外国貿易法」)、関税関係法令及び関税法第70条に基づいて規制されるいわゆる他法令(現在は29法令)について説明を行い、併せて外為法に基づく「輸入公表」を解説しました。このような英語による日本の通商法を網羅する解説書はこれまでなかったことから、UNCTAD内部に限らず途上国におけるセミナー等において好評を博しました。

日本は戦後の混乱期において、乏しい外貨準備を最大限に活用すべく、成長が見込まれる産業に優先して貴重な外貨を割り当てました。また、当時の脆弱な産業を競争力のある外国産品から保護する必要性もありました。この結果、誕生したのが、「外国為替及び外国貿易管理法」です。この法律は「白紙委任」の法令の格好の実例としてたびたび引用されますが、そうでもしないと問題が発生した場合に迅速な対応が取れなくなりますので、実質的な措置の政令への委任は必要なのだと思っています。日本は、昔からAD税課税事案が極めて少ない国でした。セミナーなどでは、日本政府は、輸入国からのAD攻勢から防御するのにてんてこ舞いなのだ。AD課税を検討する時間など無いと、軽口をたたいていました。実際はというと、年を追うごとに削減されて行きはしたものの、国内では競争力の乏しい多くの品目について「輸入割当(IQ: Import Quota)」(いわゆる残存輸入制限品目)が張られ、一定数量を超える輸入が認められないという数量制限を課していたため、AD税などの貿易救済措置は実際上必要ありませんでした。

実は、数年前に、JICAの専門家としてインドネシアのあるプロジェクトに参加し、与えられた業務の一つとして、日、米、EUの他法令を詳しく比較調査したことがあります。その結果わかったことは、日本との一番の違いとして、国際貿易を全般的に管理する法律(日本では外国為替及び外国貿易法)が米、EUには無いことでした。米国では、輸入時に税関が確認すべき他法令が55程見つかりましたが、これは単に探せなかっただけで、実際はもっとあるものと思っています。他方、EUは、他法令の伏魔殿とも思える程で、例えば、新鮮なパパイヤの輸入については、関連する法律(規則)の数は49にも上りました。EUの素晴らしい点は、他法令の詳細を検索できるデータベースが完備しており、例えば、輸出国、輸出先である個々のEU加盟国、輸出品目(10桁のHS細分)をインプットすると、要求される他法令の条文が出てきます。ところが、EUの貿易に詳しい専門家に言わせますと、EU規則以下の個々の加盟国が要求する更に細かなルールが、ナショナル・レベルであるというのです。ここまで来ますと、筆者にはお手上げでした(突然ですが、EUの公用語は現在24にのぼります。国連の4倍です。)。次回以降はジュネーブにおける生活にまつわる話題を取り上げたいと思います。

2017年7月14日 掲載
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