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連載 第二十一話−ジュネーブで暮らしてみて(その1)−

UNCTADに在籍していた期間中、最初の任地フィリピン・マニラで3年、以後スイスで二回に分けて9年滞在しましたが、ジュネーブ州で二ヶ所、隣のヴォー州で一ヶ所の計三か所での現地生活を経験しました。1995年末に帰国しましたので優にふた昔以上経過し、これから書き記すことは過去の情報となっている可能性は強いと思いますが、今回以降、実際に現地で生活してみての経験、体験、感じたこと、エピソードなどに触れていきたいと思いますのでよろしくお付き合いの程お願いいたします。

【スイスの自治の基本は村単位か】

スイスはマッターホルンをはじめとする四千メートルを超える山々を抱え、氷河のわきにエーデルワイスが咲きほこる風光明媚な国ですので、旅行者として景勝地を巡る分には申し分ありません。ところが、実際に住んでみますと、また、異なった面に遭遇します。上手く説明できないのですが、国民投票による直接民主主義国家であるスイスにおける自治はどうも村単位のような気がします。現地に住んだことのある多くの日本人が語るところによれば、通常の任期の3年間大家さんとの接触はあるものの、スイス人の家庭に呼ばれて食事やパーティに参加することはまずないとのことです(職場におけるお付き合いは別です。筆者の場合にもUNCTADという職場を通じての交流はありましたが、全てスイス国籍以外の同僚などでした。)。日本と同様言葉の壁はありますが、独特の国民気質もあって、なかなかスイス人社会に溶け込むことは困難のようです。子供が最初の3年は現地校、次の6年はジュネーブ・インターナショナル・スクールに通いましたので、子供を通じて知り合ったスイス人とたまに呼んだり呼ばれたりの経験はありました。残念なことに、ジュネーブには日本人学校がなく、毎週土曜に3〜4時間の補習校の形態による授業があるだけでした。愚痴になりますが、この不十分な日本語環境のため、子供たちにとって帰国してから追い着くまで大変でした。親として責任のあるところです。

【国民の義務】

ジュネーブで最初に住んだのは、フランス南東の田舎町アネマスに車で数分のところにあるChêne-Bourg(樫の木の町の意味)という町でした。イタリア系スイス人の大家さんが一階と三階を使用し、我々は二階部分に賃借で住みました。UNCTADまでモンブラン橋を渡り、右にレマン湖を臨みながら約15分で到着する距離でした。大家さんは、モンブラン橋近くに大きくはありませんが人気の衰えないスイス・アーミー・ナイフなどのお土産店を開いていました。なぜか、フランス陶器の町リモージュの高価な陶磁器も扱っておりました。永世中立国であるスイスには国民皆兵というか兵役義務があり、ある程度年配になっても、大家さんは年に数週間訓練に参加していました。本来はいけないのでしょうが、大家さんとある程度時間が経ち打ち解けたあと、彼が少々ワインをきこしめしたある晩に、地下部分の(核)シェルター、ライフル銃、備蓄義務がある小麦などを見せていただきました。この小麦は「先入先出」方式で放出されるそうで、このため、ジュネーブ産のバゲットは備蓄から相当経過した粉を使用することとなるため、味が今一つと言われていました。やはり、ちょっとフランス側に出かけて買った方が安くておいしいパンにありつけました(お米はスイス近辺では北イタリアで作っておりましたが、ジャポニカ・タイプではありませんでした。少々硬めですが、欧州ではサラダの材料としてお米を使います。)。脇道にそれますが、現地では(というか欧州一般では)毎日曜食料品店は全て閉まっています。組合組織があって抜け駆けには罰金が賦課されると聞きました。このため、NYからの国連職員転勤者には慣れるまではジュネーブは不便だと不満の声を聞きました(当時はジュネーブに日本で言うコンビニはありませんでした。)。ところが、欧州人には主食ともいえるバゲットをはじめパン類は例外で、日曜でも持ち回りで必ずパン屋さんは地域、地域で開いていました。土地の人は日曜にどこに行けば買えるかを知っています。

【ジュネーブ】

話が前後してしまいましたが、ジュネーブ州は26ある州(Cantonと呼びます)の一つで、人口約50万人のフランス語圏です。ジュネーブ市自体は人口20万人位と言われていますが、国連やその専門機関をはじめ国際赤十字などの国際機関が多く、結構な数の外国人が居住していると思います。日本だと住居の変更には自治体に転入届を提出しますが、スイスでは必要とされません。大家さんによれば、外国人に住居を賃貸する場合、大家さんの義務として当局に届け出るとのことでした。スイス人は騒音には極めて神経質で、夜遅くまで騒がしくしていると近所から通報されて警官が警告するため直ちに来るとよく聞いたものです。現在はこれと真逆のマニラ(騒音には極めて寛大です。)に住んでいますが、「郷に入っては郷に従え」ということでしょうか。集合住宅(コンドミニアム)の洗濯は地下の洗濯室共用でした(基本的に週一回、時間配分が決められます。)。スイス政府は環境保護にも気を配っており、ユニークな山岳地形を反映して電力源は全て水力で賄っていると聞いたことが有ります。例えば、マッターホルンの麓の町ツェルマットでは大気汚染を防ぐため、ガソリン車はパトカーを含め一切走っておりません。電気自動車のみです。

【交通事情】

欧州では運転マナーに関し個々の国の国民性を反映して笑い話がいくつもあります。各国の運転マナーを記したお土産のプレートを売っているくらいです。スイスについていえば、よく言えば慎重、悪く言えばのろま、との評価を得ています。評判が悪いのはベルギー人の運転マナーです。スイス北部はゲルマン系、南部はラテン系と言えますが、インフラはしっかりとしています。高速道路網も完備しており、当時は年初にガソリンスタンドで30スイス・フラン(現在のレートで3400円位)のステッカーを車に貼っておきますと、1年間スイスの高速道路全てが使えました。現地に在住する人たちにとってはいちいち料金所で払う必要はないので便利(フランスの高速道は料金所がありました。殆どが無人だったのですが、面白かったのは所要の料金をコインで投げ入れるとバーが開く仕掛けでした。)なのですが、不評だったのは、例えば、バカンスでドイツ人家族がスイスを縦断してイタリアに車で旅行する場合、また、一回だけスイスを通過するトラックの場合でも、やはり30フラン払う必要がありました。日本では踏切では一時停止しなければなりませんが、スイスは不要で最初の頃日本式に止まって、追突されそうになったことがあります。パリの凱旋門を想像して頂ければいいのですが、日本でも信号方式に代えてサークル状の出入方式(我々は俗にクルクルと言っていましたが、英語ではRoundaboutと言うらしい。英国では結構見かけました。)が採用されているとのことですが、問題は、出る方、入る方の優先権です。どっちかは忘れてしまいましたが、スイスとフランスでこの優先権が違うのでした。ジュネーブはフランス国境に接していますので慎重な運転にならざるを得ません。ジュネーブは裕福な州なので道路の舗装もしっかりしていますが、一旦フランス側に入りますと道路事情は一変します。ガソリンスタンドにおける給油は各自で行うのが基本です。国境付近のスタンドで外貨交換が可能です(スイスは未だにEUに加盟していませんのでユーロではなく、スイス・フランです。)。環境問題を反映しているのかわかりませんが、ディーゼル価格はガソリンより幾分高く設定されていました。

【スイス等のチーズ】

日本人はまわりを海に囲まれていますので魚からカルシウムを十分摂取できますが、スイスには海がなくland-locked countryです。長く住んでいますと体が欲するのだと思いますが自然にチーズが食べたくなります。スイスで多く生産されているチーズの中で、日本で良く知られているのは、北部ドイツ語圏のエメンタール(孔と言うか丸い小さな穴がある)やジュネーブから90分も車で走ると着くギリギリフランス語圏のグリュイエール村のグリュイエール・チーズがあり、どちらもハードタイプのチーズです。この二つを適宜混ぜて鍋にしますと、チーズ・フォンデュの完成です。グリュイエールの旧市街にはお城がありますが、この周りには多くのレストランがあってフォンデュを提供してくれます。

他方、フランスでも生産されるラクレット・チーズは断面を直火で温め、溶けたところをナイフなどで削いでジャガイモなどに絡めて食べます。書いていますとよだれが出てきます。隣国フランスは、ソフトチーズからブルーチーズ、更にはハードタイプと数百種類があるそうで、専門店も多く、フランス人は料理とワインに併せて食べています。反対側のイタリアでは、ピザ用のモッツァレッラ(フレッシュチーズ)からいいものになると3年も寝かして水分を飛ばした超硬質のパルミジャーノ・レッジャーノまでこれまた負けていません。どうもローマ帝国時代にイタリアから欧州全域にチーズ作りが伝播したようです。イタリア人のチーズの使い方を見ていますと、チーズは調味料としての利用法に長けていると思います。

昔、関税局国際第一課でGATTを担当していた時、カナダが日本のトウヒ・松・モミ(この三種類の樹木の英語名の頭文字をとってSPF(Spruce, Pine and Fir)パネル・ケースと呼ばれました。)の関税率の設定を巡ってGATTに提訴し、パネルで争われることになりました。争点の一つが「同種の産品(like product)」(GATTでは条文のあちこちにlike productとの表現がありますが、残念ながらこの語の定義はおかれておらず、それぞれの文脈において解釈すべしとされていますので、これまでのパネル・ケースにおける認定・裁定を参考とせざるを得ませんでした。)に関するもので、過去の事例を調べたことがあります。平たく言いますと、産品Aと産品Bが同種の産品であれば、関税率に差を設けてはならないこととされています。昔、スペインがコロンビア・マイルド・コーヒー(café de Colombia)とブラジル・コーヒー(café do Brasil)に関税差を設けていたのはGATT義務違反とされました(スペインにとってスペイン語を話すコロンビアは弟分の様なものですが、ブラジルはポルトガル語を話す「遠い親戚」のようなもので、ブラジル産に高い関税率を張っていました。)。別のケースでスイスだったか隣国のオーストリアだったか記憶は定かではないのですが、標高千数百メートル以上で生産されるチーズとそれ以下の標高のものとに異なる関税率を張っていて、これも標高差はあるにせよ、生産されるチーズ自体は「同種の産品」であるので差を設けることはGATT義務違反とされました(いずれの国においても山岳地帯なので、高い標高でとれるチーズの関税率は安くする一方、例えば、ベルギーやオランダなどの低地でしか生産されないものは高く設定していました。余談ですが、ベルギーで一番高い地点は約220mと聞いたことがあります。他方、オランダはもっと低いものと思われます。)。因みにSPFパネル・ケースは日本が勝ちました(このパネル裁定結果を日本政府ジュネーブ代表部から受けるために徹夜して同課で一人待機していました。8時間の時差のなせる業で今となっては懐かしい思い出です。)。

2017年7月26日 掲載
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