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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第二十七話−法制局審査、原産地、国際機関等(その1)−

本来主題であるべき原産地の話題から反れて国連システムやジュネーブにおける生活などについて触れてきましたが、今回と次回は国連などのエピソードについてこれまで書き忘れたエピソードを追加しておしまいにしたいと思います。それ以降は、筆者がUNCTAD時代、公用出張で94か国を訪問した経験をもとにして、その中でもセミナー活動など思い出に残る出来事、忘れがたい訪問国におけるエピソードなどについて紹介したいと思います。

【協定の法制局審査】

10月(1976年)という半端な時期の人事異動発令を受けて横浜税関から関税局国際第二課勤務となり、国際商品協定などの担当を命じられましたが、これがUNCTADというか退職するまでの間、関りを持ち続けることとなった「南北問題」への最初の出会いでした。同課には3年近く在職しましたが、在職中交渉が妥結したのは「1979年の国際砂糖協定」のみでした。外務省には国連局経済課(組織改正で、いの一番に国連局が消滅したのは国連に勤務した経験のある筆者にとっても残念なことでした。現在、課名で一つだけ「国連」が付いていると聞き及んでいます。)が、農水省には砂糖類課という課があって本件を担当していました。この交渉がまとまった暁には、内閣法制局審査が待ち受けているということで、関係省庁担当者が砂糖類課のアレンジで神奈川県下にある某製糖工場を視察したりして色々勉強したものです。

現在でもそうなのでしょうが、当時の内閣法制局において国会に提出する前の法案の素案の審査を担当する課長級の職員、「参事官」は関係省庁からの出向者が多くおられました。基本的には出身省庁の法案の審査を行うのがしきたりらしく、聞き及んだところによりますと皆在学中に司法試験の合格者であるということでした。弁護士や検事になるためには司法試験の合格者は1年間の司法修習生としての時代を過ごさなければなりませんが、法制局で5年勤めあげますとこの司法修習過程が免除されると聞きました。大蔵省から内閣法制局に出向された参事官が基本的に5年間在職する理由がこれでわかりました。これは余談ですが、後日、関税局国際第一課に勤務したある時期、課長と総括補佐両名が司法試験合格者であって、幹部に上げるペーパーの審査がそれはそれは厳しかった思い出があります。

閑話休題。この協定の審査を担当する参事官は、やはり外務省からの出向者の方でした。外務省では交渉を担当する課の職員と条約のプロ集団、条約局担当課(この局は、大蔵省でいう「主計局」に相当するところと言われていて、この局がおこなう有権「解釈」は口の挟みようがない権威のあるものとまで言われていました。これまた、組織改正で現在では「国際法局」に改組されました。)が協議して協定を邦文に翻訳した第一次素案を作成し、関係省庁に合議して案を作成しました。この案を基礎として法制局審査が行われました。なお、外務省にはこれまでの条約文や協定文語句の翻訳事例を集大成したいわば外務省オリジナルの外国語「辞典」があります。これを参考にして、第一次案を作成するわけです。

この審査に参加する関係省庁の担当官は日常業務を行っているわけですので、法制局審査は通常の勤務が終わってからで、平均して夜7時から深夜2時頃まで一ヵ月続きました。審査への参加の期間は一ヵ月ではありましたが、公務員生活でこれ以上の残業をした覚えがありません。今この審査に参加した経験を振り返ってみて思うことは、その後の実務的な勤務で英文翻訳を行うにあたって極めて有益な機会を提供して頂いたということです(この反面、暫くは拘りが過ぎてなかなか通常の勤務における翻訳作業が進まなかったことがありました。)。なにしろ、国会で条約法案審議の対象とされるのは翻訳文であり、英語の協定原文は参考文書扱いをされますので、例えていうと重箱の隅八つくらい突っつく感じで審査が行われるわけです。英語の原文の翻訳がどうもしっくりこない場合、フランス語版やロシア語版の協定文に当たりました。また、当時の文部省傘下の文化庁に「国語課」というところがあって、あるフレイズの翻訳に迷いが生じた場合には、何度も参事官自らが電話をとって先方の担当官に、「これは日本語でしょうか」と我々の前で聞いておりました。

この審査の過程で前例を廃止し、新たな前例を作ったフレイズがありました。例えば、それまでは、確か、「三分の二の議決による多数決」というような翻訳であったと記憶していますが、これは「議決」と「多数決」と二回「決定」が行われており、屋上屋であると。それでどっちかを落として最終版としました。これは不採用となった例ですが、粗糖を「倉庫に置くこと」について定着した日本語があるかどうかという議論になりました。税関関係では「蔵置」という語がありましたのでこれを提案しました。しかし、「蔵置」なる語は法律には使用されていないため一般には定着していないという理由で採用されませんでした。

現在でも法案・国際協定毎にいわばプロジェクト・チームが各省関係者によって形成され、案を最終版まで完成させていると考えられますが、多分、参事官や構成メンバーの性格によって色々な個性豊かなチームになっているものと思います(国際砂糖協定で担当された外務省出身の参事官は、登山とプロ棋士分野について造詣の深い方でした。審査過程でデッドロックにぶち当たりますと、気分転換のためこれらの話題でリフレッシュしたものです。)。審査の過程においては、出身省庁の利害など飛んでしまって、皆が個人として持っているものすべてを絞って最終版に結集させた感が極めて強く、この稀有な経験は、筆者が若かったこともあって強烈な印象が残っています。以後、UNCTADやADB、更には関税局においてAPEC税関グループの枠内で技術協力案件に携わりましたが、この法制局審査の過程で経験した「チームワーク・スピリット」(比喩的に言えば、1足す1が3にもなる)は筆者の貴重な財産となりました。この国際砂糖協定の国会承認が行われたときは、個人的にも感慨深いものがありました。

ウルグアイラウンド交渉中は、各交渉分野における会合の報告として、ジュネーブ代表部から膨大な数の公電が送られてきました。筆者は関税局国際第一課で「紛争処理手続き」分野も担当していましたが、ある時以来、紛争処理に関して極めて精緻でかつ緻密に分析した多くの報告電・意見具申電に接し、かくもここまで書ける人がいるものだと感服・脱帽したことがありました。この報告電等を書かれたお方は、後日、外務省国際法局長、そして内閣法制局長官を歴任された故小松一郎氏でした。小松氏とは直接にお目にかかったことはなく、公電を通じてのものでしたが、氏のご貢献はウルグアイラウンド合意文書附属書二「紛争解決に係る規則及び手続に関する了解」(これは、GATTが1947年に設立されて以来、紛争解決のためパネルを設置し、審査し、報告書を提出するまでの一連の積み上げてきた「慣習・前例」を協定文の形に纏めたものです。)に結実しています。

【非特恵ROO統一化作業の一コマ:第一回WTO原産地規則委員会】

ウルグアイラウンドの開始を決定した1986年9月の「プンタ・デル・エステ宣言」の交渉対象項目には原産地規則は含まれておらず、交渉の途中に追加されました。このため、時間的な制約もあってウルグアイラウンドにおいて取りまとめられた「原産地規則協定」は非特恵・特恵ROOが適用される貿易への一般原則のみが規定されています。個々の非特恵産品に適用される具体的なROOの調和化作業については、協定上、WTOに原産地規則委員会を設置し、他方、WCOに原産地規則技術委員会を設置することとされ、調和化ルールの開発をWCOに付託したのでした。本稿で中身に立ち入ることは(別の企画でカバーしていますので)しませんが、筆者は、ウルグアイラウンド妥結後開催された第一回WTO原産地委員会にUNCTADを代表してオブザーバー参加をしましたので、ここでのエピソードに触れたいと思います。

オブザーバー席は、当然ながらWTO関係者が着席しているひな壇から最も離れた場所にありました。このWTOでは一番大きな会議室で開催された会合では中身の議論をするというよりは、最初の会合でもありともかくここまでたどり着いたことの確認と手続き面における議論が中心で、今後の作業計画の紹介も併せて行われました。実は会合開始前に筆者の隣に着席された小柄ではありましたが極めて紳士然とされたお方が気になり、こちらから軽く挨拶し名刺の交換を行いました。渡された名刺を見て本当にビックリしました(オブザーバー席には特に所属機関のネームプレートなどは置かれてありませんでした。)。先方は何と、WCO事務総局次長のベネ氏(名刺の記載:Pierre BENET, Deputy Secretary General)でした。この会合終了まで、ベネ氏はオブザーバー席でした。WCOに原産地規則技術委員会を設置して3年以内に詳細なルールの開発を行う側の当事者と言えばこれ以上の当事者は他にはいない機関の幹部がどうしてひな壇に呼ばれていなかったのでしょうか。今後の調和化作業に暗雲が立ち込めていくだろうと感じたものだ、などというつもりは毛頭ありませんが、釈然としない気持ちで会合後UNCTADビルに戻ったことを鮮明に覚えています。

2017年10月13日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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