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連載 第三十六話−UNCTAD・GSPセミナーこぼれ話(その7)−

【セミナー実施計画の作成について】

ジュネーブ本部では、GSPプロジェクトについてその資金管理を含め、セミナーの企画と進行管理を任されました。資金管理についてはすでに言及しましたので、セミナーの企画とその際の留意点などについて触れたいと思います。

まず、肝要なことはこの本部プロジェクトが加盟国からの自発的な拠出金によって賄われているため、自ずとセミナーの企画数には制約要因があったということです。筆者が課長代行時代は、プロジェクトの原資となる年間の加盟国からの任意拠出金額が50万から60万ドルと安定してはいましたが、威張れる額ではありませんでした。主な出資項目は、プロジェクト職員と秘書の給与、同職員のセミナーへの出張旅費、地域セミナーの場合には参加者への旅費と日当(ナショナル・セミナーの場合においては、いわゆるLDCにおいて開催する場合、会場借上げ費などはプロジェクトが負担することが可能、通常の途上国の場合にはホスト政府機関の負担となっていました。)、先進供与国がin-kind contributionで専門家を提供して頂く場合には、プロジェクトの費用負担はありません。

他方、大学の研究者、他の国際機関専門家、民間の実務家の場合には、最低、旅費・日当の負担が生じます。問題は謝金をどうするかですが、他の国際機関職員には払いませんが、大学の研究者や民間の実務家は一般的には払わざるを得ない状況だったのですが、基本的に我々の技術協力事業は実務的なセミナーなので研究者は特に必要とは思えず呼びませんでした。残る実務家に対しては、セミナーで名前が売れれば将来途上国政府や企業との契約にこぎつけることが期待でき、謝金なしのセミナー参加はその先行投資として考えるべきものであって、質の高いプレゼンをすることこそがお互いの利益になるであろう、と説得して旅費・日当のみとしました(説得に応じない実務家に対しては、当方もない袖は振れないため以後声は掛けませんでした。)。

実際には、1ドルでも謝金を払わないと、万が一セミナー期間中病気になった時の保険が下りなくなるとのアドバイスがあって1ドルの契約を作成することとしたのですが(実際の国連からの1ドルの小切手を見たことはありません。)、プロジェクトの秘書がこの事務を扱いました。年間に得られた加盟国からの任意の拠出額でも、4ヵ月くらいはセミナー活動のため出張が可能となりました。国連欧州本部には入札で旅行代理店が指定されており、大手の航空会社と「国連特別レート」を設定していました。また、宿泊ホテルについては各国のUNDPオフィスが有力なところと年間契約で同様に「国連レート」のホテルリストを作成しておりこれを共有していました。他方、プロジェクトが支払うべき実務家などへのチケットは、いつも彼らが使用している航空会社の料金をチェックして頂き、これと国連レートとを比較して安い方を購入するようにしていました(通常は、これら実務家の出発地におけるdiscount business class ticketは国連レートよりかなり割安でした。)。これが結構プロジェクト資金の節約になったものです。この方式は、ADB勤務時においても常に活用しました。

毎年、拠出に快く応じてくれている先進供与国対策として、それぞれの首都において幹部が納得するような関心ある対象国を盛り込んだ企画書を先方担当者と協議して作成したほか、必ず、開催国の供与国現地大使に開会式に参加いただき開会の辞(GSPの実質的な面についてはUNCTADがドラフトを作成。これを基礎に二国間の歴史的な関係・技術協力事業の成果など拠出国の「売り」の材料を入れて関係大使館が完成させます。)を行って頂きました(これには副次的な効果があり、大使が動きますと通常現地マスコミも動き、テレビ、新聞の取り上げる結果となります。この取り上げられた「切り抜き」が大使館から本国政府に伝えられ、投入費用以上のプレゼンス効果があったと感謝され、次年度への好影響が期待できたのでした。もちろん、プレスが取り上げた背景には「国連」が企画した公的な活動であることも一部寄与しているのですが、こんなことは戦略上おくびにも出しません。要はどこまで自己の組織の論理を最後の最後まで抑えておくことが出来るかが鍵だと思っていました。)。ひとえに、最初の上司であった元大使や次の上司であった米国人元准教授の「遺産」を正しく引き継いだ結果でした。

UNCTAD側が欲しがるような優秀な実務家や供与国GSP担当者を前もって抑えておくことはセミナーの成功への大きな要因でした。最低、セミナー開催六ヵ月前にはそれらの優秀な人材の確保は終えていました(ADBの場合には、資金に問題がなかったため、優秀な研究者の確保は原則1年前と決めていました。開催2〜3ヵ月前にアプローチしても彼らの獲得は実際上困難でした。)。投入できる資金に制約がある一方、半年前に講師陣を決めてしまうからには、周到なセミナー企画が必要でした。他方、こちらは怖いもの知らず、かつ、失うものもありませんでしたので、ジュネーブ本部にいる間は、積極的に狙いを定めた受益国の大使に面会を申し入れました。たまたま、息子のインターナショナル・スクールのクラスメートという縁でセミナーの開催までこぎつけたこともありました(「ご学友」を切り出す前までは消極的だったのですが、豹変されました!)。途上国の政府組織を見ていますと、日本の官僚組織のようにボトムアップというよりは、トップダウンによって物事が決定されます。となりますと、会える相手の地位が高ければ高いほど成功の確率が高くなるというわけです。

現地におけるセミナー開催準備では積極的に汗をかけ、も大事な教訓でした。日本では中央官庁においては、幹部候補生といえども1年生はコピーをとったりして、一通りの雑務を経験します。ところが途上国では様子が違います。若くして幹部になる人たちはその多くが「留学組」で最新の知識と先進国における先端システムを会得している一方、彼らの部下の多くは旧態依然として従来のシステムで動いており、ギャップが大きすぎて上意下達がスムーズに行っていない嫌いを垣間見る機会が多々ありました。留学組は雑用などはしません。ところが、留学組がセミナーのカウンターパートになることが多いのですが、実際のセミナー準備には彼らは全く役に立たないのです。はっきり言ってセミナーの準備は、janitorというか雑用係がするような内容で知的作業では決してありません。ところがプログラムに沿って資料を準備し配布し、マイクを確認し、プロジェクターが機能するかどうかをチェックする作業は、どれを欠いても円滑なセミナーの進行の阻害要因となります。

円滑なセミナー開催に欠かすことのできない要素として、開催地にあるUNDPオフィスとの緊密な連絡もあげられます。現地UNDP事務所は一面において国連システムにおける「大使館」の機能を果たし、プロジェクト資金の円滑なディスバースメントにも協力してくれます。例えば、セミナー関連経費でUNDP事務所の関与が必要とされるもの(例えば、同時通訳料など)については事前にその一覧票を作成し送付しておきますと、その額の範囲内で支払いをしてくれます。

例えば、ASEANを対象とした地域セミナーなどの会場は通常ホテルとなります。ASEANメンバー国からのセミナー参加者の便を考えた場合、政府の会議場よりも便利な場合があります。ASEAN域内の国の主要なホテルにおいては、大体、セミナー・パッケージ料金(代表的な内容として、会場、マイク設備、パワーポイント関連一式、スナックを含む午前午後コーヒーブレイク、ランチ込みで一人当たり幾らと言う方式です。)を設定しています。競争が激しい都市のホテルによっては、例えば、15名以上のセミナーの場合、一部屋無料で提供するとか、一人分上級の部屋にアップグレードするとかのオファーもありました。国際機関組織のマネジメントにより、ホテルの選択が競争入札制になったり元に戻ったり色々ありました。限られた予算でやりくりしなければなりませんので、一流のホテルは使えませんが、実行上、国連やADB職員向けの特別料金が設定されているホテルの中から選択するのが無難でした。

一般的なホテルへの支払いは、セミナー開始前にホテル側が作成した見積もりを基礎として半額振り込み、セミナー終了後宿泊人数、セミナー・パッケージ使用人数確定など最終の請求書にサインをしてジュネーブに持ち帰り、TCSの確認を受けた後残額を送金していました(UNCTADが負担する参加者のホテル宿泊費用はUNCTADが支払う日当から参加者が個々に決済します。)。GSPプロジェクトのコーディネータは、セミナーではMC、議長役、講師、programme officer、financial officerなど一人何役もこなさなければなりません。

UNCTADの12年間、各種のセミナーを企画・実施してきましたが、幸いなことに参加者が大病にかかった事案は一件もありませんでした。これは極端な例ですが、ボリビアの首都ラパスにおけるセミナーは、例えて言いますと富士山の山頂で会議をしているようなもので(ラパス市街の中心地は標高3,600m超、空港は4,071mにあります。)、参加者ではなく若干高齢のUNCTAD講師の一人が酸素不足でセミナー開始前に離脱したことはありました。これは筆者の企画したセミナーではないのですが、ケニヤで地域セミナーを開催したら、近隣のLDCからの参加者数名が逃亡してしまい最後まで戻らなかったそうです。地域セミナーを企画する立場にいますと、セミナーそのものの成功に加え、無事に参加者が本国に到着することこそが何よりとなります。

2018年2月28日 掲載
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