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連載 第五十四話-ADB編(4)-

【ADB勤務あれこれ】(続き)】

次に中間管理職について触れます。ADBでは一番大変なポストは課長(Directorと称しますがそれ以前はManagerと言われていました。ADBの意思決定機関は総裁が議長を務める理事会ですが英語にしますとBoard of Directorsであり、理事は当時Directorと呼ばれていましたのでかぶってしまいます。そこで、理事をExecutive Directorに改称し事務局の課長を単にDirectorとして解決を図りました。)です。課長職は、所掌業務の責任者、その進展状況の把握、見直し、部下の統率と適切な指示、部下の人事評価、上部への報告等と激務です。これを無事にこなしますと、次長、局長の途が開けます。人事評価は国連の方式とは大きく異なっていました。国連には俸給表があって1年間の勤務態度に問題がなければ毎年一号俸上がっていきます。ところが、ADBの場合、ランクに応じた俸給額の範囲を定めた表(下限と上限額を決めています。)はありますが予算配分の範囲内で、個人個人を査定の上、課長の裁量で給与の昇給率に差を設けることが出来ます。この制度は使い方次第で毒にも薬にもなり得る可能性を秘めていますので、当然と言えば当然の話ですが職員の間ではpros and cons(賛否両論)がありました。

専門職員というかISには自分の得意分野があります。ところが専門分野だけの優秀さだけでは課長にはなれません。上述の通り、管理事務、人事事務、勤務評価事務、報告事務などのアドミなどに関する業務があります。日本の組織の場合だと行政府にいたら基本的なことは新人時代に教わります。しかし、外国人で留学直後、国際機関に入るとその機会がないため、平たく言いますと専門分野については問題なくとも「段取り」に難がある人や、また、そのセンスに欠ける人がままおります。何人か見かけましたがこういう人は残念ながら課長には昇格出来ませんでした。

これは古参職員の方から聞いた話ですが、現在のようにADBの職員数が多くはなく限られていた時代には、業務の主流であった地域局には一種の「徒弟制度」の様なものが存在していたということでした。どういうことかと言いますと、ADB担当課は所掌する途上加盟国政府と常時連絡を密にして、融資案件について協議し事務方として優先度合いを討議して年に一回の公式の政策協議に備えるのがルーティンでした(現在あるかどうかはわかりませんが、融資計画案には今後3年間をカバーするリストがありました、これを3-year rolling planと呼んでいました。)。新人職員の目から見ますと、「馬が合う」上司・先輩もいればそうでない場合もあります。それは人それぞれで、なるべく新人を多くの部署で経験を積ませ、ピッタシはまる課に据え置いていたというのです。こうしますと、順繰りに世代交代が円滑に行われ、良き慣習の継続、政策の一貫性が図られていたというのです。古き良き時代の話でした。

これまた、古参の人から聞いた話ですが、世銀とADBの政策の違いとして、ADBは一貫して途上加盟国のインフラ整備に力を入れてきた歴史があるとのことですが、他方、世銀は一度インフラ整備をメインにしなくなり、地盤沈下が起き再度インフラに戻ってきたそうです。融資案件にはタッチしたことがありませんので筆者は傍観者の立場でしたが、中にいて、ADBは極力途上国間で政治問題化する分野を持ち込まないという印象を受けました。例えば、税務の問題ですが、これは税関と言うか関税の場合その殆どが輸入税ですので輸出国との問題は起きません。他方、ある企業が他国に進出して事業を展開した場合、進出先で得られた売り上げ(利潤を含む。)について進出先であるホスト国と親企業のある国との関係においては、売上というか事業所得総額が決まっていますので、ホスト国が多くを税金として徴収しますとこちらの取り分が減ってしまうという一種のゼロサムゲームとなり税務当局間の協力はなかなか調整困難な問題となります。

突然ですが、貿易や税関分野に関してはそれぞれWTOやWCOという国際機関が存在します。ところが税務に関しては存在しておりません。OECDの税の専門家が言うには、今後ともできる可能性は低いだろうとのことでした。できない大きな理由として、どの国も課税は絶対的で不可侵な権利(sovereign rights)なので線引きの困難性を挙げました。とはいえ、現実問題としてある程度の妥協は必要であって、租税条約を締結して二重課税を避けなければなりません。今でもよく理解できてはいないのですが、国際租税問題についてはADBで12年間OECDとのMOUを基礎として毎年開催してきたTax Conferenceのコーディネータをしましたので、別の機会で掘り下げたいと思います。国際課税問題を差し置いても、先進国同様途上国における税制は国民に不人気な分野で他に優先分野を抱えるADBが今まで積極的に「介入」しなかったことも理解できます。前述しましたように、途上国の経済運営が行き詰まりデフォルトの恐れが起きた場合には、ADBが口を出さなくともIMFが一晩で税制改革をしてしまいます。

時の予算人事局長の命によりADBIを引き上げ、マニラのADB本部に出戻りとなり税務を担当することになった経緯は前述しました。その際稀有な経験をしましたのでこのエピソードについて書きます。この局長は大蔵省御出身で国税庁勤務も豊富であったためADBにおいては周囲から税の第一人者と目されておりました。このため、国際租税問題を含む税務分野には多大な関心があり、税分野の所掌がADBのどの局にもないことを疑問に思っていたそうです。筆者が行った国際租税に関する部内セミナーにも参加され、質疑応答をリードされました。そこで筆者をいわば退職までの繋ぎとして担当させ、後日、税務の専門家を据えました(国税庁からOECD出向の経験を有する職員が筆者の後任として就き、現在二代目です)。折に触れ予算人事局長に呼ばれ彼のオフィスで1−2時間、それまでの活動報告後、今後のADBにおける税分野における活動の方向付けを非公式ではありますが実質的に指示されました。筆者はRSDD(Regional and Sustainable Development Department: 持続可能な地域開発局)に籍を置きカナダ人の女性課長がおりましたが、この特殊な勤務状況下にあって、筆者は非公式ではありますが実質的な指示を他局の局長に頂き、担当課長に報告して了解を得るプロセスを繰り返していたことになります(頭の中の整理では、筆者のイニシアティブに担当課長がお墨付きを与える、と見做しておりました。)。課長としては当然面白いはずがなく、赴任間もない時、課長から「貴殿が事務年度途中に本部に戻って来たため、必要な予算措置は何もしていません。貴殿の業務に要する予算は貴殿の友人(予算人事局長のことです)から頂いてください。」と意地悪されたことを皮切りに何度か理不尽な扱いを受けましたが、今となっては退職前の懐かしい一コマです。

筆者がADB本部に出張中、マニラ首都圏を直撃した台風により予定していた飛行機が飛ばず一日遅れで東京に戻った顛末について書きます(実は似たような経験がこの他にもあって、それは私用で東京に戻っている時、某年1月14日出発の日東京にドカ雪が降り多くの路線が運行停止をした為成田に行くのを断念したことがありました。この時はADB退職後、JICAの専門家としてジャカルタで働いていました。翌日は運悪くエコノミークラスは満席で自腹では乗りたくないビジネスクラスしか空いていないということで痛い出費となりました。)。閑話休題。マニラ本部でのセミナーが終わった翌朝、空港まではADB主催者のアレンジで同じセミナーに参加された慶応義塾大学の某教授と一緒でした。前の晩に台風の直撃があって大雨と強風に見舞われましたが出発当日は小降りでした。ところが所々冠水しているため空港への幹線道路が凄い渋滞でした。3時間経過しても数キロも進んでおりません。飛行機の出発時間になっても空港まで半分も進んでいませんでした。運転手は途中で恥ずかしながら道端に用を足しに行くおまけもつきました。自然現象ですので我々もこれに倣いました。出発時刻の2時間後、空港近くまでようやくたどり着きましたが、空港周辺地域が冠水のため入れません。空港の情報も入らず、空腹で空港近くの雑貨屋で、といっても相当離れていたのですが、パンとミルクでお腹の足しにしていましたがどうにもならず、二人で話し合ってホテルに戻ることにしました。

ホテルに戻ってADB担当者に連絡し顛末を説明したところ、判明したことは、我々の乗る予定の飛行機は欠航となり翌日に本日の予定客を乗せて出発すること、この航空会社が利用するターミナル(マニラの空港には全部で4つのターミナルがあります。但し、相互の移動は先進国のターミナル移動程便利ではありませんのでご注意ください。)ビルの地下に電気系統をまとめた配電室があるということですが冠水のため漏電を起こしダウンしていること、我々に翌朝車を手配する予定であること、でした。翌日は問題なく空港に着きましたが、電気系統がダウンしているため、セキュリティチェック、チェックイン(荷物の計量も)など全ての作業がマニュアルでした。時間に余裕がありましたのでスローな進行は寧ろ好都合でしたが、予定の3時間遅れのテイクオフの直後あちこちで乾杯の姿がありました。乗務員に聞いたところ、彼女らも市内に出ることが出来なかったため全員が機内で一泊されたそうです。余談ですが、フィリピンでは冠水の可能性が常にありますのでSUV車が人気です。例えば、ランクル・クラスですと70センチまでの冠水に耐えられます。問題は普通車が冠水のため身動きが取れなくなり幹線道路を塞ぎますので結局前に進めません。

今回の締めは軽い話題で終わりとしましょう。当地フィリピンでは小銭を用意しておくことに越したことはないという教訓についてです。例えば、タクシーに乗って支払いをするとき、高額の紙幣しかないと、運転手からは小銭はないと言われるのが落ちです。結果、多額のチップとなってしまうのです。デパートや大きなスーパーマーケットなどは別として、その他の場面ではこのようなことが度々起きます。お札は小さい方から、20、50、100,200、500、1,000ペソがあります。対策として、スーパーマーケットやデパートでは1,000ペソ札で買い物をして小銭を常時準備しておくのが肝要です。皆さまも東南アジアへの旅行では小銭の用意をお願いします。

2018年11月30日 掲載
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