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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第五十七話-ADB編(7)-

最近は主題の「原産地」からは全く関係のない話題ばかりでタイトル倒れの状態ですが、今回もそれにめげず、ADB入行以来ADBIにおいても担当してきたTax Conferenceから始めたいと思います。

【Tax Conferenceについて】

東南アジアに進出している邦人企業に対してアンケートによる苦情調査をしますと必ず出されるものの一つが、進出先途上国内における国内税法解釈の違いによる課税の不統一、日本と進出先国とにおける二重課税の問題など税制に関する事柄です。このような課題に対処する施策の一環として、日本政府(当時の大蔵省主税局国際租税課)は1991年からの数年間Tax Conferenceと称するセミナーを開催することとし、これに要する費用を予算計上して東南アジア諸国を管轄するADBにこの会議の開催を依頼しました。特に税務行政は実際問題として一朝一夕には変えることが困難な分野であり、息の長い活動が求められていました。その後、この事業が軌道に乗りましたので、必要経費は日本政府がADBの実施する技術協力を賄うために毎年任意拠出する資金(当時はJSF: Japan Special Fund(日本特別基金)と呼ばれていました。現在はJFPR: Japan Fund for Poverty Reduction(貧困削減日本基金)と言われています。)から支弁されるようになりました。筆者の所属するERDが担当していましたが、日本政府出資による事業であることや、税関出身者ということもあってこの案件を担当することとなり、入行した1999年の第9回から第20回Tax Conferenceまでの12回にわたって企画しました。

途中、ADBIに転勤したのですが、前述のインド人のチーフエコノミストがERDには本件を担当するのに適当な職員がいないという理由で(本音はERDから経済研究に直接関連しない事業を極力無くしたかったことによります。)ADBI所長と協議をして、筆者が異動後においてもADBIで本件を担当することになりました。この会議は、当初は東南アジア各地で開催されてきたのですが、ADBIが1997年に東京に設立されて以来、スポンサーである主税局の意向もあってADBIで毎年開催されてきました。主税局の協力は、審議官クラスによる歓迎・開会挨拶、日本の主要税制とその変更の概要に係る講義及び更なる親睦を目的とした途上国税務当局からの参加者へのluncheonの提供が主なものでしたが、海外出張を要せず財務省ビルから歩いて行ける距離にある霞が関ビルでの開催は主税局にとって魅力的なものでした。前述の通りADBにはサブとしての税を担当する部署がなく、また、税の研究・調査もしていませんでしたので、ADBの担当する範囲は会合のコーディネートとアレンジが主な業務で、サブの講義はADBとのMOUに基づいてOECDやIMFの専門家並びに大学の研究者や国連からの専門家が行いました。参加途上国数は最大で36ヵ国に上ったと記憶しています。なお、OECDの専門家の旅費・日当などの費用はOECDが負担し、他方、IMFの場合はADBとIMFとの折半でした。また、国連の専門家はADBが負担してくれるならエコノミークラスで十分と申し入れてきました。大変助かりました。

Tax Conferenceにおいて取り上げるトピックのうち中核を構成する項目は、二重課税を防止するための租税条約モデルの進展に関すること、国税に関する分野の研究報告(例えば、未採用国への啓蒙のためのVAT(Value-added Tax)というか付加価値税の導入経験に関するもの)、国際租税問題に関する時事問題のケーススタディ(例えば、「利子」の徴収を禁じているイスラム圏の金融制度、Islamic financing、について)などであり、参加国からは自国の国税に関する動向(主要税制の概要とその改廃)を毎回リポートして頂きました。このリポートは会議終了後、筆者が取りまとめ、セミナー参加国を担当するADB内地域局に参考資料として提供しました。租税条約モデルには二つあって、一つは先進国が使用しているOECDが開発した「所得と財産に対するモデル租税条約」(Model Tax Convention on Income and on Capital)、他の一つは、途上国が使用している国連モデル条約(United Nations Model Convention for Tax Treaties between Developed and Developing Countries)です。先進国と途上国との間の租税条約においては、二国間交渉によりますが、実際にはこの二つのモデルの併用であったように記憶しています。参加途上国の三分の一近くが租税条約を締結していなかったことを考慮して、一時期、この二つのモデルの比較を行うため3年連続で集中的に取り上げたことがあります。国連モデルの担当者は、その昔、OECDでモデル条約を担当していた人で、両方のモデルに詳しくADBにとってはラッキーなことでした。

一時期、世界的にTax Haven(租税回避地、havenは天国を意味するheavenではありません。)が流行し、太平洋地域の島々においても相次いで導入されました。OECDはTax Havenを削減するキャンペーンを開始しましたが、先進国クラブと言われていますので公式には途上国との関係はありません。Tax Havenを平たく言いますと、ここに会社を設立したい企業・個人は、登録料という名目で例えば十万ドル支払ってTax Haven国に会社を設立し、その後は当該国当局に干渉されることなく非課税で資金管理などが行えるというものです。他方、Tax Haven国にとっては僅かな行政管理費用のみで多額の手数料が外貨で入手できます。OECDの専門家によれば、これらの国に設立される会社の実態はペーパーカンパニーであることが多く、また、弁護士が代表を務めるなど実際上のオーナーが不明で秘匿性が高いということでした。かかる背景からOECDや主税局から要望を受けて、これらのTax Haven国をTax Conferenceに参加頂くよう招待状を発出しました。新規参加国数は5ヵ国であったと記憶しています。OECDの専門家は場外で非公式にこれらの国からの参加者と積極的に接触していました。2年後には大きな成果が上がったとの話をOECD専門家から聞きました。このようにたとえ小さなプロジェクトであっても、明確な政策意図を持ちますと有益な活動を行うことが出来る良きサンプルとなりました。

実は、アジア太平洋地域には、日豪、ASEANの一部など17の税務当局が参加する意見交換の組織「アジア税務長官会合」(SGATAR:Study Group on Asian Tax Administration and Research)があります。この組織は、アジア太平洋地域の税務長官が税務執行面における国際協力の促進を図るとともに、直面する共通の諸問題について意見交換を行うことを目的として、年1回開催される会合であって、事務局はなく各参加国の持ち回りによりこれまで50回近く回開催されています。筆者も韓国と福岡で開催されたSGATAR会議に参加したことがあります。税務の世界ではWTOやWCOに匹敵する国際機関は存在しませんが、各地域においては税務当局間によるSGATARのような行政当局間の組織があります。このSGATARとADBによるコラボで税の実務分野に係る技術協力ができないものかどうかと考え、国税庁国際担当国税審議官がADBを来訪する機会をとらえて、上司のチーフエコノミストとのアポイントメントをセットしましたが、想定した通りチーフエコノミストは色よい対応はしてくれませんでした。

二重課税問題について深入りできるほどの知見はありませんが、基礎的な部分について挑戦してみたいと思います。一般に二重課税とは一つの課税原因に2回以上課税されることを意味しますが、どういったときに二重課税が発生するのでしょうか。多くの独立国家は自国の居住者(自国民やそれ以外の国の国民も含みます。)に対し、どこの国で発生した所得であろうと原則として課税の対象としています。この場合、「居住者」(個人も法人も含まれます。)の定義が統一されていれば問題ないのですが、異なる法制や少なからず異なる解釈が起き、二つの国で居住者と認定されれば、それぞれの国で課税権が行使されますので二重課税が発生します。また、独立国家は、非居住者に対しても自国内のインフラなどを使用し所得を得た場合には課税権を行使することが一般的です。このため、二つの国が、それぞれ自国が所得の発生した地であるとの主張を行った場合、二重課税が生じます。好例は、ある国の居住者が他の国に支店などを設けて営業活動を行う場合、上記の課税慣行に照らし二重課税が生じます。どの国も課税権は独立国として侵すことのできない基本的な権利と主張しますが、お互いに主張しあっていては国際的な経済活動の発展に支障をきたします。このためこれまでの経験則を踏まえ、お互いが納得する水準において課税権の分配に同意し、この旨を記した租税条約を締結してきました。基本的な解決方法は、外国税額控除方式と呼ばれるもので、居住者に対し国外で発生した所得を含んだ所得課税を行った後、国外に源泉のある所得に対しては外国で課された税額を国内税額から控除する方式です。国税庁のホームページによれば、日本は65の国・地域と租税条約を締結していると書かれています。

税関における輸入される貨物の評価制度では、WTO関税評価協定に基づき現実支払価格を基礎として所要の調整を行い関税評価額が確定されますが、国際課税においては、独立企業間において取引される価格(これをarm's length price、独立企業間価格と呼びます。)が基礎とされます。関税の場合は基本的にギブアンドテイクによる交渉、実際上は相互条件のような形に収まりますから、例えば、FTAやEPAの場合、一方がある産品に無税待遇を与えますと国内的に問題とならない産品である限り基本的には他方も同様な待遇を許与します。ところが、国際課税の世界においては、例えば、法人税の場合、その税率は各国においてまちまちであり(コンテキストは異なりますが、EUにおいても付加価値税の税率水準についてはかなりの期間、交渉されましたが、結局統一されませんでした。例えば、英仏が20%、スウェーデン・デンマークが25%などです。また、多くの国で軽減税率を食品や書籍などに設定していますが、EUとして共通の軽減税率適用リストがあるわけではありません。)、更に、控除される項目も統一されてはおりません。一般に、多くの国に子会社を有するグローバル企業の親子会社間における取引価格の実態の把握は極めて困難だと言われています。他方、例えば、A国における法人税率が40%でB国におけるそれが20%の場合、親会社は扱う商品の取引や利益を低税率の国に移転したいと考えるかもしれません。このような場合、昔の関税評価協定で認められていたような独立した企業間における取引価格に再評価する必要が出てきます。

親子会社間や関係を有する会社間における取引価格を「移転価格」(transfer pricing)といい移転価格課税をtransfer pricing taxationと呼びます。OECDは移転価格に関するガイドラインを策定しています(移転価格の独立企業間価格への種々の再評価の方法が提示されています。)。例えば、2004年に改定発効した日米租税条約第9条においては、この移転価格課税を容認するとともに、合わせて両当局間における協議を通じた解決を謳っています。なお、国税庁のホームページによれば、「移転価格課税とは、国外の関連企業との間の取引を通じる所得の国外移転を防止するため、その取引を通常の取引価格(独立企業間価格)に引き直して課税する制度」と説明されています。グローバル企業が絡んだ案件になりますと、額も巨大なものなり、また、他業種や他企業への影響も大であることから解決には時間がかかると言われています。

補足ですが、進出企業には事業活動を行うため進出先国においてある種の「拠点」が必要とされますが、これは課税権の配分等に大きく影響を及ぼすため、通常、租税条約においては詳細な定義規定をおいています(実際上はOECD条約モデルがスタンダードとなっています。)。この拠点を条約上「恒久的施設」(PE: permanent establishment)と表現されています。恒久的な施設があると認定されれば課税することが容易になりますが、他方、問題になった事例としては、インターネットを通じて行われた取引の場合の恒久的な施設はどこにあるかでした。補足の二として、国際租税の世界では「183日ルール」というのがあって、ある個人が1年(365日)のうち半分以上ある国に居住した場合、当該滞在国に課税権が発生するというものです(一時期、節税を目的とした日本の企業経営者が香港に住居地を移すことが流行しましたが、その実態は年のうち183日以上日本に滞在して経営をしていたため香港居住とは認められず、従来通りの課税をされました。)。ここまでが租税条約が対象としている主要項目の概要です。次回は、筆者が個人的に経験した日比租税条約に係るエピソードを紹介したいと思います。

2019年1月16日 掲載
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