日本貿易関係手続簡易化協会(略称:ジャストプロ 英文略称:JASTPRO)のウェブサイト

原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第五十八話-ADB編(8)-

【個人生活と日比租税条約】

日比租税条約についてはその改定交渉が2006年に終了しましたが、発効は2年後の2008年でした。この改定条約は正式には、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とフィリピン共和国との間の条約を改正する議定書」と呼ばれています。因みに、日比租税条約改定交渉において日本側を代表して交渉に当たった主税局所属の首席交渉官は、父親がADBの幹部職員であったため、小学校をマニラの日本人学校で過ごされた由です。

ADB退職後フィリピンに滞在してコンサルタントを短期間していた時の話です。日本のあるコンサルタント会社がマニラ在住の筆者を雇用する形態の契約でした。業務の中に日本において必要資料の収集や文献の購入などがありました。これで終わればここに書く価値は何も無いのですが、問題は、このコンサルタント会社に予期せぬ税務調査が入ったことから始まりました。この調査で日本における非居住者である筆者が日本で働き所得を得ていた事実が明らかとなり優に60インチを超える最新のTVを購入できるくらいの所得税の納入を、調査を実施した税務署から求められたのでした。実際にはこの会社が立て替え払いをして筆者がこの会社に支払うアレンジとなりました。

筆者はこの経験を筆者が在籍していたADBのポストの二代後任の国税庁からの出向者に愚痴りました。彼は即座に日比租税条約第15条に基づく事前の届出をしなかったために発生したものであるとし、非居住者である筆者は前述の183日ルールで日本が主たる居住地には該当せず納税義務はそもそも発生しないのであるが、事後の場合には、還付請求が行えるので請求した方が良いとのアドバイスを受け(この還付請求は税の支払いの日から3年以内に行うべきとのこと。)、彼から届出の様式までコピーして頂きました。持つべきものは友ですね。その後、日本に一時帰国をした際に所轄税務署に赴いて筆者の届出の記載内容をチェックして頂き、次にこのコンサルタント会社から届出に必要となる確認印を頂き、再度、税務署に戻って所要の届出を提出しました。二か月程経過した辺りにこの税務署から還付事務が終了した通知が筆者の住んでいるマニラのコンドミニアムまで郵送されてきました。偶然にもそれまで見ていたTVが壊れてしまったので60インチまではいきませんでしたがこの還付金で購入することが出来ました。

これも広い意味での所得税に該当するエピソードで、国連の勤務時代のものです。実は毎月のサラリーから3割位staff assessmentと言う名目で徴収されていました。給与担当者や米国人の上司の説明を総合すると、「米国人は世界中のどこに住んでいようがunitary taxの個人版のように毎年米国の税務当局に納税申告をしなくてはならない。米国人の国連職員も例外ではなく、また、国連で働こうが所得の免税規定は米国籍職員には働かない。このため国連では職員間における公平を期するためstaff assessmentとして一種の税金のように職員から徴収し、所得税徴収分について米国人国連職員に還付するための原資としている。」ということでした。ADB勤務の米国人も毎年納税申告していましたが、ADBには国連のようなstaff assessment制度はありませんでした。蛇足ながら、米国は、国内法により国連が自国のGNPなどの指標によって弾き出される分担金額について最大22%を限度に支払うことになっています(外務省のホームページによれば、2017年米国の比率は最大の22%となっていました。なお、日本は第二位で9.68%。なお、最近の報道によれば2019−2020年の2年間に適用される負担率が発表されましたが、中国が米国に次いで第二位の負担国になり、日本は第三位になるということです。)。これは軽口にすぎませんが、米国の外務省に当たる機関は「国務省」(Department of State)と呼ばれますので、あたかも、世界のすべての地域が米国の勢力範囲内のような観念なのかもしれません。

参考までに国連の分担比率の算定方法の概要に触れます。各加盟国の経済力(国民総所得(GNI: Gross National Income)の世界総計に占める各加盟国の比率)を基礎としながら,合意された調整項目を適用して2年分の分担比率を決定しています。調整項目の主なものは、①分担率の上限は22%、②後発開発途上国か先進国かの如何を問わず各加盟国にまず0.001%振り分ける、③対外債務額の12.5%をGNIから控除する、④一人あたり所得(per capita income)が世界平均を下回る国に対して最大80%割引する、とされています。しかし、残念ながら国連広報センターのホームページを検索しても各加盟国の対外債務額などの詳細な数字は見当たりませんでした。

補足ですが、ADBI勤務中、国税庁からの要望を受けて税の実務(例えば、効率の良い徴税体制(Large Tax Payers Unit/Officeの設立など)、徴税コスト低減方策、ベストプラクティス探求のための主要税項目に関する徴税の経験紹介、税法の国内における統一的な執行の方策などなど)に関するTax Administration Seminarが開催されていましたが、このセミナー案件も引き継ぎました。それぞれの組織の得意分野を生かし、主税局とは税の政策面に関するアクティビティを、他方、国税庁とは税の実務・執行面の分野をカバーしていたことになります。その後、国税庁の提供する技術協力の拡充に伴い重複の恐れが出てきましたので、このセミナー活動は廃止されたと聞きました。

【黒田総裁の思い出】

最初に在籍したERDでは、内外の著名人を招いて「Eminent Persons' Program」(著名人セミナー)を開催してきました。当時の黒田財務官もそのセミナーに招聘された一人でした。チーフエコノミストの指示で筆者が日本理事室との事前調整を仰せつかりましたが、できるだけ多くの人に聴いてもらいたいということで、ERDの補助職員に内々協力を要請し、状況によっては「出動」して頂くことにしていました。蓋を開けてみますとすべてが杞憂に終わり、講演会場に全員が入りきらず会場の通路に座る人や最後列では立見席まで現れる状況でした。黒田財務官はADBの更なる改革のための10の提言を中心に講演されていました。講演中、財務省からの出張者の一人から打ち合わせにはなかった講演の写真撮影要請が出されました。ADBのオフィシャルのフォトグラファーは、中庭でのタバコのみ友達ではありましたが、腕はいいのでしょうがむらっ気のあるとの評判の人で、何か気の利いたことを言わないとすぐには動いて貰えないと思い一計を案じました。彼の部屋に入り、いきなり「次期ADB総裁の写真を撮りたくはないか」と切り出したところ、二つ返事で駆け付け撮って貰いました。口から出まかせではありましたが、嘘から出た実のようになって財務官はその後ADB総裁に就任されました。他方、フォトグラファーの方は杞憂に終わらず、その後暫くしてADBを去りました。

畏れ多い方なのでこちらも書く内容にも自ずと慎重にならざるを得ません。これは当時の日本理事から直接伺った話なので信憑性は抜群にあると思います。黒田総裁が就任されて初めての理事会で、某有力国の理事が初代総裁のADBホームドクター論について彼なりの解釈をぶったというのです。総裁少しも慌てず「私も初代総裁の回顧録を読んでその件を承知しています。しかし、彼の言わんとしたかった真意は貴理事が言われるような意味ではなく、これこれです。」と切り返し、以後、この理事はその後の理事会で無用な議論を仕掛けてはこなくなったということです。流石ですね。

フィリピンにおける日本国大使館の慣例としてマニラを代表するForbes Parkと呼ばれる一等の住宅地には大使、これに隣接するMagallanes Villageには公使が住んでいました。もちろんADB総裁はForbes Parkです。黒田総裁は総裁に就任されて同じ地区内で引っ越しをされました。MBAのクラスメートの一人が総裁室勤務だったので総裁の俸給・家賃の情報など業務以外の事柄についてあれこれ教えて頂きましたが、これらにはここでは言及しない方が得策と思われます。まったく補助職員の有する各ISに関する「周辺」情報量は半端ではありません。何かの機会に某ISについて聞いたところ、勤務態度、家族構成、これまでのゴシップなど立て板に水のように出てきました。脇を甘くしてはいけないと自戒に努めた次第です。補助職員を敵に回すわけにはいきません。このためもあってか、月に一回程度ERD同課の補助職員5-6人を連れてランチに行ったものです。アルコール抜きのランチですから全部支払ったところで大した額にはなりませんが、以後得られる情報を考えますと「有効な投資」となりました(時の理事からのアドバイスはランチに誘ってもいいが、絶対一対一となることは避けるべし、でした。)。

寄り道になりますが、財務省からADBの出向者は通常3年で、長くて4年を経過しますと本省等に帰朝されます。一般職の国家公務員職員が国際機関等に派遣される場合には、国家公務員法の特別法である「国際機関等に派遣される一般職の国家公務員の処遇等に関する法律」(「派遣法」と通称されます。)が適用されます(例えば、国内で勤務する職員には「職務専念義務」が課せられていますが、国際機関に派遣されますとこの派遣職員である国家公務員は日本国政府のために働いていませんので、調整規定がなければ職務専念義務違反となってしまいます。また、派遣期間中においても国家公務員としての地位を保有しますので「公用旅券」(official passport)が発給されます。)。全12条と短い特別法ですので、詳細は人事院規則に委ねられますが、国連時代人事院から出向されていた人にお伺いしたところ、一般職職員の国際機関派遣については人事院の承認を要するとのことで、一回の承認で5年間が最長で、5年以降の延長については、1年毎の個別承認を要するとのことでした。因みに、WCO勤務は通常5年間と聞いています。筆者、51歳で一般職の職員ではなくなりましたが、それでも大蔵省・財務省関係者とされるのであれば、筆者、ADBの50年の歴史で大蔵省・財務省最初の定年退職者であったことになります。尤も、筆者を除く出向者は東京に戻られますと皆栄転されていましたのでADBに留まる必要性はなかっただけの話ですが。何を書きたかったと言えば、ある種の自慢話です。定年退職に当たり、黒田総裁主催の財務省関係者が参加する内輪の退職お祝い会を開催して頂きました。この紙面をお借りして再度お礼申し上げます。

2019年1月31日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

このページの先頭へ

注意)
日本輸出入者標準コードに関するお問合せは、ページ上部のメニューにある「コード関係お問合せ」をクリックして下さい。

一般財団法人 日本貿易関係手続簡易化協会
〒104-0032 東京都中央区八丁堀 2-29-11 八重洲第五長岡ビル4階
コード管理センター TEL.(03)3555-6034 / FAX.(03)3555-6036
代表(庶務室) TEL.(03)3555-6031 / FAX.(03)3555-6032
Copyright©2004 JASTPRO All Rights Reserved.