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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

連載 第六十二話国際機関で働けたこと及びその過程で感じたこと
(連載完結)

決してとっつきやすいトピックではありませんが原産地分野のうち特恵原産地規則に焦点を当て(後半部分は表題倒れの感が強くなったことをお詫びします。)、筆者のUNCTADとADBにおける国際機関での経験を通じて、柔らかいタッチで約2年半61回にわたり連載してきましたが、主要な項目には触れたものと考えられ、また、年度末ということで区切りもよいのではないかと思料し、誠に勝手ながら今回をもって連載を終えたいと思います。振り返りますと、このパブリックな誌面をお借りして、筆者の公私にわたる経歴の総括を行ったのではないかと恐縮している次第ですが、筆者のわがままな構成と時にはくだけた内容についても、寛大な気持ちで大目に見て頂いた貴協会に改めてお礼申し上げます。

人には後から振り返りますと、何度かそれぞれの約三万日の人生の大きな転機というか「幸運の女神」が生涯に二、三度必ず訪れて来るのではないかと信じています。この貴重な機会をみすみす見過ごすか又は積極的に取り込むかでその後の人生は大きく変わるのでしょう。筆者の場合、横浜税関勤務時に本省で勤務してみないかとの打診、本省からUNCTADで働けるよう応募してみないかとの打診、そして国連職員となることが叶わず本省に戻りましたがADBに応募する機会が訪れたこと、この三つの転機があったように思われます。宮城で生まれ3歳から北海道の片田舎で育った筆者にとって、英語を少しでも駆使できるよう努めたことが、後年の望外な国際機関勤務に結び付いたものと思っています。それにしても国際機関、それも二つで働けたことは本当に幸運なことでした。本連載を完結するにあたり、少々生意気ではありますが自己の経験から国際機関において働くということについて、私見を述べさせていただいて筆を置きたいと思います。これまでの筆者の拙文に対し寄せられた辛抱強い皆様の暖かいご支援まことにありがとうございました。心より重ねてお礼申し上げます。

国際場裏において欧米人に伍していけるような人材の育成の必要性は、これだけグローバル化が進展している現在においても、依然として強く求められているものと思います。これには公的な分野に限りましても、政府機関に従事して国際交渉に携わる職員、また、国際機関に派遣され日本の国益をも視野に入れた業務を担う職員の二形態に大きく区分できるのではないでしょうか。この場合、例えば、対外交渉を行う職員に限っても、そのランクには、具体的には主席交渉官、部課長、一般職員など多岐にわたると思われますが、ここでは以下、国際機関で働く職員を念頭に置いて書いてみたいと思います。

国際機関で通用する人材育成には時間がかかります。筆者の場合、特恵関税制度分野について一人前の専門家になるまでには多大な時間を要しました。これには、各供与国の特恵関税制度の実質面をマスターするという点に限らず、周囲から彼は専門家であると認められるまで「顔を売る」努力も含めなければなりません。この点、マニラの地方勤務からスタートしてジュネーブ本部勤務に移行するという順を踏んで経験を積み、同時に、セミナー活動等において顔を売る機会に恵まれたことはとても幸運なことでした。即ち、マニラでのAssociate Expert(上級係員)、以下ジュネーブではEconomic Affairs Officer and Expert(係長)、Deputy Coordinator(課長補佐ランク)、Acting Chief-cum-Coordinator(課長ランク)(国連職員の俸給表ではP2から5まで)と3年毎に順を踏んで昇格していきました。地方勤務(Manila Field Office)という助走期間があったことは、その後の本部勤務への「耐性」を得るための必要な期間でした。

これまでの国際機関勤務を通して何が必要になるかについて強く感じたことの幾つかを書きますと、①語学を好きになること(蛇足ですが、日本の国連への財政的な貢献に比して職員数が極めて少ない状況にあったため、これは冗談でしたが、一時期日本人かつ女性で英語が出来たら国連職員になれるでしょうとまで言われていました。)、②当然のことながら専門分野は最低一つ持っていること、③その専門分野の周辺を含めた情報の蓄積があること、及び、④途上国への理解度を上げること(いかなる国際機関においても、昨今は途上国抜きでは物事を語れない状況になっていると考えられます。)、などが挙げられるのではないでしょうか。

その他の要素について補足します。日本の文化や日本国政府の政策に批判的な意見を公言する日本人国連職員を見かけましたが、現実的には、本国の文化・伝統に敬意を払い、また、本国に信頼されるようでなければ国際機関においていい仕事は出来ないと感じました。国連を例にとってみても、出身国の利益を代弁しつつ国際機関を活用して出身国に資する施策を推進していく職員を何人か見てきました。これも国連で経験してきたことですが、各局に配分される予算について、ある程度権限を持って使用できるのは課長級以上のランクになってからです。当時、国連本体に働く日本人職員は100名足らずで、そのほとんどが一般職員でした。課長級以上の幹部職員の育成が望まれます。これは比較の問題ですが、日本の行政府の場合には職員の評価は国際機関に比べより公平に処理されると思っています。国際機関の場合は、評価において組織と言うよりは人間関係がより優先される嫌いがあるように映りました。上司である局長やトップとの人間関係がより重要と言うことでした。

英語力、これは国際機関勤務等に必要な条件ですが、時には考えさせられる場面がありました。これはUNCTAD時代、上司から伺った話です。英語が母国語ではない某専門家がある国際会議でひどいブロークン・イングリッシュで発言していました。本人もブロークンであることを非常に気にしていて、発言は差し控えたほうが良いと思っていたということです。ところが、彼を良く知る友人から、「貴殿の発言はブロークンではあるものの、論理ははっきりしている。貴殿の見解に賛成できない国はあるだろうが、他方、期待している国もある。皮肉ではあるが、貴殿が流ちょうな英語で発言したとしたら、他の誰とも変わらないので聞こうとはしないであろう。今のままであれば、皆が理解しようとして必死で聞いてくれる。ここが重要だと思う。今後とも今のままで発言して欲しい。」と言われ、継続したそうです。生身の人間が働く以上、豊かな個性は「資産」と言えます。

英会話力について、人から英会話上達の近道は何ですかと問われた場合、筆者は躊躇なく、「日本の会話学校に1年間通うなら3ヵ月いや2ヵ月でも英語を母国語とする地に日本人一人で生活すること」、と答えるでしょう。現地で生き延びていかなければなりませんので、真剣味が違います。ここで強調したいことは、語学は自己と異なる文化圏の人たちを理解するための手段であって、目的ではありません。この意味で、語学は技術・技能の範疇に入ると思います。誤解を恐れずに言えば、語学は道具であるとも言えましょう。道具としての有効活用にためには、伝えるべき十分なメッセージを自己の母国語で蓄積することが求められます。

これに似たような関連性が、ある分野において専門家として遜色のない実力を有していることと、セミナ−におけるプレゼンテーション力とにおいて存在すると考えられます。数えたことはありませんが、これまでセミナーなどで数百人のプレゼンテーションに接してきました。中には有する知識と実力が十分ありながら、いざセミナーとなるとその実力が発揮できない専門家を垣間見てきました。つまり、プレゼンテーション力は語学・会話力と同じように技術・技能の範疇に入るのではないかと言うのが筆者の結論です。言い換えるなら、有する知識獲得の度合いとそれを発表する能力は別個ではないかということです。プレゼンテーション力向上のためには、繰り返しの練習が肝要と思われます。また、仮に1時間のプレゼンテーション時間が配分された場合、皆さまも経験があると思いますが、準備に要する時間は比較的短くて済みます。ところが、時間配分が少なくなるにつれて要する準備時間が長くならざるを得ません。10分間で一つのトピックを説明する場合には、1時間のプレゼンテーション内容を分析し、重要なポイントのみに絞り込み、効果的な説明となるようそれらの順番を吟味し、理解しやすいよう使用する語彙を選択するというように綿密な準備作業が必要となります。

外国に長期にわたり勤務した場合のネガティブな面もあるものと考えられます。これは余談になりますが、ジュネーブでは同じ日本人でもいろいろな人に巡り合いました。外国に長く生活していますと顔のつくりは日本人ですが日本語で書かれた小説を読めない人がいました。また、英語に慣れ親しんだため両親と大事な話をするときには日本語が駆使できず、英語でなければ意思の疎通ができなくなった家庭などがありました。外国生活が中途半端なものになりますと、子供の将来への影響が大きくなります。このあたりも長期の海外勤務には十分考慮する必要があるように思います。

最後に、国際会議の現実と言うか実態についての私見を述べて、この連載の完結としたいと思います。どんな国際会議にも、それが継続されているものなら必ず「常連」が数名存在します。その国際会議のこれまでの経緯を承知しているので、常連が発言しますと他の参加者は一様に耳を傾けます。自然と、常連の人たちは事前に事務局に非公式にアプローチされ、会議を成功裏に導くため会議の取り進め方について相談されることとなります(このような慣行が出来上がりますと、コアとなる人たちは「マフィア」と呼ばれるようになります。)。UNCTADの特恵特別委員会もこの例に漏れませんでした(このため、本来はあってはならないことですが、新参者がある国際会議で正論を述べても、必ずしもその通りに議論が進む保証はないことになります。)。日本の人事システムから見ますと、同じ人が数年にわたり同一のポストに留まることは極めて稀なケースです。国益を勘案し日本が重視する分野を扱うというのであれば、当該国際機関の事務局に職員を派遣することも一案かもしれません。
(了)

2019年3月29日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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