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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第四十六話EU英国FTA原産地規則の展望

今回は大変良いニュースと少し心配なニュースを同時にお知らせすることになります。まず、大変良いニュースですが、9月11日夕刻に、日英包括的経済連携協定(日英EPA)が大筋合意に至ったとの待望のニュースに接しました。後の新聞報道では、10月中に署名が行われる見込みである由。外務省ホームページに掲載された大筋合意に関する資料の「主な内容:ルール分野」によると、原産地規則関連では、

EU原産材料・生産を本協定上の原産材料・生産とみなすことを規定

とあります。協定条文の詳細が公表されるのは署名後になるでしょうから、少なくともあと1ヵ月ほど待たねばなりません。これまでの経緯を勘案して推測するに、「拡張累積」が規定され、日EU・EPA又は日英EPAで原産資格が得られる産品であれば、我が国でそれを材料として使用する場合に原産品として取り扱われ、またEU域内での生産行為も日本国の生産行為とみなして日英EPA原産地規則を適用することができるという意味であると思います。しかしながら、EUの材料を英国で使用する場合に、EUの原産品と判断する根拠がEU英国FTA原産地規則になるのか、或いは日EU・EPA又は日英EPAの原産地規則になるのかについては明らかではありません。

少し補足しますと、日EU・EPA原産地規則の付録3-B-1(特定の車両及び車両の部品に関する規定)第5節(第三国との関係)においても、すでに「拡張累積」規定は盛り込まれておりますが、適用されうる産品が限定的(第87.03項の乗用車の生産に使用される第84.07項のガソリンエンジン、第85.44項の絶縁ケーブル等、第87.08項の部分品・附属品)であり、次の3つの条件をすべて満たさなければなりません。

(a)各締約国が、当該第三国との間において1994年のガット第24条に規定する自由貿易地域を構成する貿易協定(効力を有するもの)を締結していること。
(b)一方の締約国と当該第三国との間においてこの節の規定の完全な実施を確保する十分な行政上の協力に関する取極が効力を有していること及び一方の締約国が他方の締約国に対し当該取極について通報すること。
(c)両締約国が他の全ての適用可能な条件に合意すること。

次に少し不安なニュースをお伝えすると、EUと英国との離脱協定交渉が不調に終わるかもしれないとのことです。英国庶民院(House of Commons、「下院」とも呼ばれる)ライブラリーのウェブサイトから関連記事を仮訳すると、概要は以下のとおりとなります。

《9月1日付、「英国-EUの将来における関係:合意は期限までにまとまるか?」》

英国-EU離脱協定の移行期間の延長期限は7月1日に到来した。これは12月31日に移行期間が終了することを意味する。この時点で英国はEUの単一市場及び関税同盟から離脱する。新たな連携が構築されなければ、英国-EU貿易関係はWTOルールに戻り、その他の分野の協力関係は終了する。下記の図表は英国とEUの交渉がいかに始まり、本年末までに何が期待されているかを示している。

【1月31日:英国のEUからの離脱】
【6月15日:英国-EUハイレベル会合】
【7月1日:移行期間を延長するための期限を徒過】
【10月31日:離脱協定のEU側合意期限】
【12月31日:移行期間終了】

もう一つ、英国庶民院(下院)ライブラリーの「ブリーフィング・ノート」として掲載された記事の原産地規則に関連する部分の仮訳を以下にご紹介します。

《5月27日付第8923号、「英国EUの将来における関係:2020年3月EUの協定案及び交渉のアップデート」》

物品貿易に関する第4部第2章は原産地規則が規定され、輸入される産品が無税となる資格を有するかを決定する。交渉方針で述べられたように、EUは原産地規則に対して標準的な対応を求めている。一方、英国側はオーダーメイド方式を求めている。

可能性がある既製品モデルとして、EUは汎ユーロ地中海条約原産地規則を使用するかもしれない。協定案テキストには汎ユーロ地中海条約原産地規則に言及していないものの、関税法令の専門家は品目別規則(協定案テキストでは具体的な提案なし)の詳細な議論に繰り入れられるであろうことを予期している。

原産地規則におけるいわゆる「累積」規定のための条件は、特恵貿易の資格を有するための外国コンテンツの割合を定める。ボーダーレックス(Borderlex)が説明するように、EU提案は現在のところ英国EU二国間累積規定を含み、「FTA適用のためにEUで調達された材料はUKコンテンツとして取り扱われ、またその逆もある」。これは、EUと英国の二国間サプライチェーンの維持に貢献するだろう。しかしながら、他の貿易パートナーを含んだより広範囲をカバーする対角累積(diagonal cumulation)は、EU提案から削除されている。対角累積は、例えば、汎ユーロ地中海条約の締結国間で適用される。一方、英国政府は更に野心的でテイラーメイドな対角累積の方式を求めている。すなわち、汎ユーロ地中海条約締結国の枠を超えて、「EUと英国が共にFTAを締結している国からの自由な部材、素材を調達できるようにする」ことである。

これらの記事から見えてくる状況は、EUとしては関税同盟又は単一市場のメリットをEUから離脱する英国に与えたくないのに対し、英国は最大限のメリット受けるべく交渉するとの姿勢です。端的に表れているのが、英国が「拡張累積」を容認すべく共通のFTA締約国(例えば、日本国)の原産品を英国とEUとで相互に原産品扱いすべきとの提案をしている(であろう)ことに対し、EUは全く関心を示していないようです。実際にEUの3月18日付、EU英国FTAの条文案を精査してみると、第2部(経済及び貿易)第4編(物品の貿易)第2章(原産地規則)第1節(原産地規則)第4条(累積原産地)に以下の規定が提案されています。

1.一方の締約国の原産品は、他方の締約国において別の産品の生産に使用される材料として使用される場合、当該他方の締約国の原産品とみなす。(モノの累積)
1.パラグラフ1は、他方の締約国において第7条に規定する作業(十分ではない作業又は加工)を超えない生産が行われた場合には適用されない。(微細加工品に対する累積排除)

上記条文案が意味するところは、EUと英国間のモノの累積は認めたとしても、第三国との「拡張累積」まで認める規定にはなっていません。したがって、英国産の産品をEU域内に輸入する場合には、日本国原産の材料が英国で産品の生産に使用されても非原産材料のままです。

したがって、もしEU英国FTAが締結されない場合、又は首尾よく締結されても「拡張累積」規定が盛りこまれない場合には、以下のようなことが起こる可能性があります。

すなわち、EU英国FTAに「拡張累積」規定が盛り込まれない場合、日英EPAの「拡張累積」規定の適用によってEU産の材料が我が国及び英国で生産される産品の原産材料として使用できる可能性が残るのに対して、EUで生産される産品に我が国及び英国の材料(原産品)が使用されたとしても、当該産品の輸出先がそれぞれ英国及び我が国である限り、「拡張累積」が使えないという結果になるかもしれません。すなわち、三角形の二辺である日英間は自由流通に加えてEU産の材料まで取り込めるのに対して、地理的に最も近いEU英国間の貿易はモノの累積のみを許容する二国間FTAで規律されることになり、英国を含んでいた過去の日EU・EPAで享受していたメリットは完全に失われ、英国の欧州全域における生産拠点としてしての位置付けが失われてしまうことを懸念します。

更に加えれば、こうした動きは交渉術に長けた英国がEUとの交渉を有利に進めるための手段としていることは想定されますが、もしEU英国FTAが締結されないことになれば、今後、米英FTA等が追加されない限り、日系企業にとって英国に英国市場のキャパシティを超えた生産能力を持つ工場を維持する理由がなくなってしまいます。

英国で期待したかもしれない厳密な意味での「対角累積」は、残念ながら、日EU・EPA原産地規則を汎ユーロ地中海条約原産地規則に入れ替えることが前提になりますので、実際には不可能な話となります。

報道によれば、事実上の交渉期限は10月15-16日に開催される欧州理事会のようです。この時までに合意案がテーブルに乗らなければ、ドーバー海峡にできてしまう壁はとてつもなく高いものになってしまいそうです。

なお、参考までに、EU英FTA原産地規則のEU提案(3月18日付)の骨子を以下に紹介しておきます。

3月18日付、EU英国FTA原産地規則案(EU提案)
第4部第2章 原産地規則

第1節:原産地規則

第1条目的
第2条定義
第3条一般的な要件
原産品の要件として①完全生産品、②原産材料のみから生産される産品、③品目別規則を置く。
第4条累積原産地
モノの累積のみを規定
第5条完全生産品定義
第6条許容限度
農産品:重量の10%、非繊維製品:工場渡し価額の10%、繊維製品:附属書で定める
第7条十分な変更とはみなされない作業又は加工。
第8条原産品としての資格の単位
第9条輸送用のこん包材料及びこん包容器
第10条小売用の包装材料及び包装容器
第11条附属品、予備部品及び工具
第12条セット
第13条中立的な要素
第14条代替性のある材料の会計の分離
第15条返送される産品
第16条変更の禁止
第17条関税のドローバックの禁止・免税
具体的な条文提案なし

第2節:原産地手続き

第18条関税上の特恵待遇の要求
輸出者・生産者による自己申告(SOO)、輸入者の知識による自己申告
第18条a関税上の特恵待遇の要求ができる時
輸入の日から3年を超えない期間内であれば事後的な特恵関税の適用要求ができる(ただし、域内各国の国内法の定めるところに従う。)。
第19条原産地に関する申告
①輸出者(生産者を含む)による自己申告、②輸入者の知識
第20条誤字脱漏
第21条輸入者の知識
第22条記録の保管義務
第23条小型貨物
第24条原産品であるかどうかについての確認
第25条運用上の協力
第26条関税上の特恵待遇の否認
第27条秘密の取扱い
第28条行政上の措置及び制裁

第3節:その他の規定

第29条セウタ及びメリリャ
第30条輸送中の産品又は蔵置されている産品についての経過規定
第31条本章及び附属書の改正
2020年9月16日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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