日本貿易関係手続簡易化協会(略称:ジャストプロ 英文略称:JASTPRO)のウェブサイト

原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第四十七話EUの『特恵原産地に係る合理的な疑い』

日英EPAが署名されてテキストが公開された場合には、原産地規則部分について書く予定でしたが、署名はもう少し先になりそうですね。そこで、今回はおそらく読者の方々にとって最も関心が高い案件の一つであると推察する「事後確認」に対する税関当局の対応振りについて書いてみようと思います。通常、具体的な手法等については、税関当局は情報を公開しておりません。そのような状況下にあって、欧州委員会が発出した事務連絡文書に「特恵原産地に係る合理的な疑い」に係る内容がウェブサイト上で公開されていましたので、この文書を翻訳(筆者による仮訳)し、解説してみたいと思います。

この文書は2012年10月30日に発出されたもので、欧州税関当局による基本的な対応が記載されていますので、事後確認手続きに入るきっかけとなる事象が大筋のところで理解できることと思います。パラグラフ2において、税関当局が原産地に係る合理的な疑いを持つこととなる主要要因が列挙されていますので、まず、この部分を取り上げてみます。

【当局側に非がある場合】

運用上の協力の前提条件となる通知義務の不履行として、原産地証明(原産地証明書、移動証明書及び輸出者によって作成される原産地を証明する書類)の発給又は管理を担当する税関又は他の政府機関の名称と住所の提供を怠るか、又は証明書の証明印の見本の提供を怠ること。
本事例は、第三者証明の最大の欠点ともいえます。すなわち、輸出者、輸入者がやるべきことをすべてやったにもかかわらず、管理当局である輸出国発給当局の不作為によって本来得られたはずの特恵利益を逸失してしまう典型例です。本件は特恵制度受益のために受益国が当初に行うべき行為に関してのものですが、いったん登録された印影の更新の際も同じことが起こり得ます。

原産性を証明する証拠の検証における運用上の協力の欠如または不十分な内容。
この事例における典型例は、相手国の発給当局への照会に対する回答がなかったり、極端に遅くなるような場合です。

特恵受益国又はFTA締約国における特恵制度の管理のための機構又は慣行が不適切であることが判明。
例えば、日本国と同じ国土面積を持つ国において輸出入を担う空港・海港が10ヵ所程度存在する状況で、原産地証明書発給のための事務所が1ヵ所のみで、専担職員も数名しかいないにもかかわらず、1ヵ月に1万件近い原産地証明書をマニュアル処理で発給しているとすれば、原産性審査の質を疑わざるを得ません。

【客観的な事実に基づく疑義】

特定の産品又は特定の国が原産性基準を満たすことができるかどうか(例えば、大量の衣類を輸出する国における製織・布編み産業の欠如、又は漁業製品の大量輸出がある地での漁船の不足等。ただし、累積規定の適用が可能な場合、養殖産業が盛んである場合を除く。) について疑問が生じる一般的な経済的又は科学的情報。
日本国から原油が輸出されたとすれば誰もが疑問に思うことでしょう。このように、特定国における資源採掘、産業構造を精査してみれば、何故この国からこの産品が輸出されるのかという素朴な疑問がわくことと思います。すなわち、非原産品の迂回輸入への対応となるわけです。

特恵受益国・締約国に対して特恵待遇を得られない国から組織的に輸入され、更なる加工を行うことなく再輸出されている産品(貿易統計から確認できる限りにおいて)。
迂回輸入への対応を相手国の貿易統計を用いて行います。例えば、衣類の特恵原産地規則の定番は「糸からの2段階加工」ですが、その場合、非原産の糸から国内での製織・布編みを経て衣類まで仕上げることが求められ、輸入した糸に対応する衣類の輸出が計上されていれば疑義はありません。ところが、大量の布が輸入され、輸出数量と同じ数量の衣類が輸入されているとすれば、原産地規則を満たさない布から衣類への生産が行われたか、輸入された衣類が国内消費を差し引いたとしても相当数再輸出されているとの疑義が生じます。

【輸入国税関の警戒網にかかった情報】

関税犯則のリスク指標に表れている産品又は同時期に行われた関税法上の非違(例えば、靴の輸出においてダンピング防止税が課されている国の隣接国が、自由貿易を享受し、又は特恵を受益しているとして、当該隣接国から靴が輸出されている)の対象となるセンシティブ産品の輸入の急増(満足のいく説明なく実施)。
輸入国税関は、当然のこととしてリスク評価を行い、ハイリスクの輸入により多くの資源を費やして不正防止に努めます。例えば、特定国の産品がダンピング防止税を賦課されたことで正規輸出ができなくなった場合、第三国迂回が行われるであろうことは容易に想像できます。

【事後確認を含む税関の調査に基づくもの】

関税犯則又は不正の発覚、特に特恵受益国又はFTA締約国での調査の結果
確認手続きに入った後のことなので、税関としてはその権限をフルに使って対応することになります。

EUの特恵制度において適用されている規定に抵触するような国内法令上又は管理上の規定が特恵受益国又はFTA締約国で採用され又は潜在的に適用されている事実が認められた場合。
このような事案に直接接したことはありませんが、輸出振興に熱心なあまり原産地規則を無視してもよいような指導、規定をおいている公的な機関が存在するならば、輸入国税関としては警告を発したいところでしょう。

以上、EUにおける原産地に係る合理的な疑いについて紹介しました。ここに記載されたことが税関当局が行っている確認手法のすべてと思わない方がよいと思いますが、筆者としては、公開可能な範囲でかなり詳細に踏み込んだ記載をしていると感じています。

ご参考までに、2012年10月30日付EU事務連絡文書の全訳(仮訳)を掲載しておきます。

2012年10月30日付、EU事務連絡文書

欧州連合組織、団体、事務所及び機関からの情報
欧州委員会

欧州委員会からの事務連絡-特恵関税制度に関連し、事業者及びEU加盟国当局に対し(EEA)産品の原産地に係る合理的な疑いのある事例を伝えるための条件設定

(2012/C 332/01)

1.事案の概要

1997年7月23日付の事務連絡COM (97) 402において、欧州委員会は特恵関税制度の管理方法を変更することを目的とした行動計画を策定した。

提案された措置(第9.3.2項の第2項)には、特恵関税の対象となる産品の原産地に関する合理的な疑いがある場合にはいつでも、輸入者のための早期警告システムのより体系的な使用が含まれていた。これに基づいて、欧州委員会は、必要であると判断した場合には、欧州連合(EU)官報(Cシリーズ)に掲載された輸入者への通知によってより体系的に事業者に情報を提供することを決定した。委員会はまた、2000年12月5日付の事務連絡2000/C 348/03を公開し、当該情報の提供のための条件を定めた。

欧州委員会は、2005年3月16日付の事務連絡COM(2005)100においてこれらの方向性を確認し、輸入者への通知は、輸出国の権限ある当局による管理が不十分な場合や運用上の協力を怠った場合に使用される予防措置の一つであることを想起させた。この事務連絡はまた、特恵輸入に対する管理がリスク分析を通じて正当な貿易フローを妨げないように改善され、ターゲットされるべきであることを強調した。これらの方向性と2000年から獲得されてきた経験に照らして、欧州委員会は、2000年12月5日付の事務連絡の改訂版を発出することが適切であると考慮した。これが本事務連絡の目的であり、以前の事務連絡に差し変わるものです。

本情報は、事業者や加盟国の税関当局が、前者については自らの経済的利益を守るため、後者については欧州連合の財政的利益を守るために必要な行動を取ることができるように、今後も公開される。

情報を公開するに当たっては、欧州委員会は、特恵制度との関連で、国内又は欧州連合レベルのいずれであっても、現在進行中の調査を妨げてはならないことを念頭に置く。

特定の国や製品に関する合理的な疑いの通知がなかったからといって、必ずしも問題がないことを意味しない。特に、これは輸入保証などの特定の措置にとらわれずに、個々のケースで時に必要となる場合がある。したがって、事業者は、特に特恵原産地の証明に関しては、特恵制度を実施するに当たっては常に高度な警戒をし続ける必要がある。

2.欧州委員会からの情報が必要とされる場合

原産地に関して合理的な疑問が生じることの主要な要因とされる状況は、以下のとおり(悉皆的リストではない)

運用上の協力の前提条件となる通知義務の不履行として、原産地証明(原産地証明書、移動証明書及び輸出者によって作成される原産地を証明する書類)の発給又は管理を担当する税関又は他の政府機関の名称と住所の提供を怠り、又は証明書の印影の見本提供を怠ること。

原産性を証明する証拠の検証における運用上の協力の欠如または不十分な内容。

特定の製品や国が原産性基準を満たすことができるかどうか(例えば、大量の衣類を輸出する国における製織・布編み産業の欠如、又は漁業製品の大量輸出があるところでの漁船の不足等。ただし、累積規定の適用が可能な場合、養殖産業が盛んである場合を除く。) について疑問が生じる一般的な経済的又は科学的情報。

特恵受益国又はFTA締約国における特恵制度の管理のための機構又は慣行が不適切であることが判明。

特恵受益国・締約国に対して特恵待遇を得られない国から組織的に輸入され、更なる加工を行うことなく再輸出されている産品(貿易統計から確認できる限りにおいて)。

関税犯則のリスク指標に表れている産品又は同時期に行われた関税法上の非違(例えば、靴の輸出においてダンピング防止税が課されている国の隣接国が、自由貿易を享受し、又は特恵を受益しているとして、当該隣接国から靴が輸出されている)の対象となるセンシティブ産品の輸入の急増(満足のいく説明なく実施)。

関税犯則又は不正の発覚、特に特恵受益国又はFTA締約国での調査の結果

EUの特恵制度において適用されている規定に抵触するような国内法令上又は管理上の規定が特恵受益国又はFTA締約国で採用され又は潜在的に適用されている事実が認められた場合。

3.情報の形式及び内容

3.1 このような状況において、欧州委員会は、特恵関税制度の特定の受益国で原産品であるとされる産品のすべて又は一部の輸入に際しての原産資格について合理的な疑いが存在する旨を説明する告知を輸入者に対してEU官報(Cシリーズ)に掲載することになる。

適切な手続きに並行し、かつ、従って、欧州委員会は、EU加盟国の権限ある当局及び特恵受益国又はFTA締約国の当局に対して関連する情報を提供する。

3.2 本事務連絡に別添された情報は、産品の原産地に関して合理的な疑いがあったとして過去に発出され、本事務連絡の発出日においても有効である輸入者への告知リストである。本リストは、情報のためだけに、欧州委員会のテーマ別ウェブサイト(関税同盟)に参考情報としてアップロードされ、その後、同ウェブサイトでのみ更新される。これらの情報が参考情報として認識されるべき理由として、欧州連合官報(Cシリーズ)において事業者及びEU加盟国当局に対して産品の原産地に係る合理的な疑いのある事例を知らしめる輸入者への告知の発出が、欧州関税法典第220条第2項(b)に規定される結果を生じさせることになるからである。

4.公開後の動き

4.1 輸入者への告知が発出された後、EU加盟国の税関当局は、告知に関係する貿易フローのリスク分析を行わなければならない。これに基づいて、税関当局は、当該産品の原産性を示す証拠書類のうちどの書類を特恵受益国の権限ある当局への事後確認のために送付するかを決定する。その際に、事後確認を求める理由書も同時に送付される。事後確認の結果を待つ間、関税の支払いを担保すべく、EU加盟国の税関当局によって必要と判断されるすべての予防措置が取られる。これらの措置は、協定又は自律的な特恵制度に定められた所定の手続きに従うことになる。

4.2 適当なEUレベルのフォーラム(理事会グループ、関税法典委員会、又はその他の委員会)は、事後確認の結果又はその他の関連情報を勘案し、輸入者への告知が発出された事例に基づいて状況を検証する。検証結果に従って、欧州委員会は、合理的な疑いについて以下のとおり決定する。

合理的な疑いは、もはや存在しない。その場合、欧州委員会は、その旨をEU官報(Cシリーズ)に掲載し、輸入者に対して告知を発出し、以前の告知を撤回又は修正する。

又は、

合理的な疑いは、存続する。この場合、自律的な性格又はFTAである当該特恵制度が一次的な特恵待遇の撤回又は中断もあり得ることから、欧州委員会は、当該関税上の特恵待遇の全て又は一部について中断又は一時的な撤回を勧告し、又は適当な場合には決定することができる。その他のFTAの場合、当該協定によって設立された合同税関関係委員会又はその他の適当な機関に本件を付託することとなる。

別添
本事務連絡発出時において有効な原産地に係る合理的な疑いのある事例に関して発出された輸入者への告知

告知の対象 告知番号 官報番号
西バルカン諸国から共同体への砂糖の輸入 2002/C 152/05 OJ C 152, 26.6.2002, p.14
共同体へのにんにくの輸入 2005/C 197/05 OJ C 197, 12.8.2005, p.8
砂糖を多く含む産品の輸入 2007/C 265/07 OJ C 265, 7.11.2007, p.6
バングラデシュから共同体への繊維製品の輸入 2008/C 41/06 OJ C 41, 15.2.2008, p.8
コロンビア、エルサルバドルからEUへのまぐろの輸入 EU 2010/C 132/05 OJ C 132, 21.5.2010, p.15
イスラエルからEUへの輸入 EU 2012/C 232/03 OJ C 232, 3.8.2012, p.5

追加告知
欧州委員会事務連絡(2012/C 332/01)の発出時において有効な原産地に係る合理的な疑いのある事例に関して発出された輸入者への告知リスト

告知の対象 告知番号 官報番号
共同体へのにんにくの輸入 2005/C 197/05 OJ C 197, 12.8.2005, p.8
バングラデシュから共同体への繊維製品の輸入 2008/C 41/06 OJ C 41, 15.2.2008, p.8
イスラエルからEUへの輸入 2012/C 232/03 OJ C 232, 3.8.2012, p.5
地域累積グループI及びIIに属するGSP受益諸国からEUへのガラス繊維製オープンメッシュ生地の輸入 2015/C 314/06 OJ C 314, 23.9.2015. p.11
2020年10月16日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

このページの先頭へ

注意)
日本輸出入者標準コードに関するお問合せは、ページ上部のメニューにある「コード関係お問合せ」をクリックして下さい。

一般財団法人 日本貿易関係手続簡易化協会
Copyright©2004 JASTPRO All Rights Reserved.