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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第四十八話【速報】RCEP原産地規則

11月15日、中国、韓国、豪州、NZ、ASEAN10ヵ国に我が国を加えた15ヵ国から構成されるメガEPAとなるRCEPが8年越しの交渉の末についに署名されるに至りました。本稿では速報として特徴的な事項をお知らせし、もう少し詳しく解説した「RCEP原産地規則の概要」を11月末にJASTPROのウェブサイト「お知らせ」コラム(https://www.jastpro.org/topics/index.html)で公開するJASTPROの広報誌11月号に掲載することにします。当然のことながら、実務上の取扱いは、実施に係る国内法令等の改正案が公開されるのを待つ必要があります。また、本稿は公開された協定条文の解釈としての筆者の個人的意見を述べるものですので、JASTPRO他の関係する団体・機関の公式見解ではありませんので、ご留意ください。

RCEPの発効要件は第20.6条(効力発生)第1項に規定され、本協定は、署名を行った少なくともASEANの6構成国と非ASEANの3構成国が批准書、受諾書又は承認書を寄託者(ASEAN事務局長)に寄託することが必要で、寄託した日の後60日で、これらの署名国について効力を生じます。インドは、残念ながら不参加のようですが、協定第20.9条(加入)第1項の注で、

この第一文の規定にかかわらず、この協定は、この協定が効力を生じた日から、原交渉国であるインドによる加入のために開放しておく。

との規定を盛り込み、他の国の加入が最速でも協定発効の日から18ヵ月後に認められるのに対し、原交渉国としての配慮がなされています。しかしながら、昨今のインドにおけるFTA輸入手続きの厳格化措置に鑑み、早期のRCEP加入は期待しない方がよさそうです。

【関税譲許】

全署名国ベースで見た関税撤廃率は、

対日関税撤廃率(品目数ベース): 86%〜100%(ASEAN・豪・NZ), 86%(中), 83%(韓)

日本の関税撤廃率(品目数ベース): 88%(対ASEAN・豪・NZ), 86%(対中), 81%(対韓)

とされています(外務省ウェブサイト
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j-eacepia/index.html)。

他の協定と同様に、関税譲許は即時撤廃の品目ばかりではなく、毎年段階的に引き下げられるステージング方式が採用されます。このステージングの1年目は協定発効の日から始まり、①日本国、インドネシア、フィリピンの3ヵ国についてはその後の最初の3月31日までをいい、その後の各年については4月1日から始まる12ヵ月をいいます。一方、②その他の12ヶ国についてはその後の最初の12月31日までをいい、その後の各年については1月1日から始まる12ヵ月をいいます。

各国の関税譲許の方法は、RCEP締約国に一律に適用される共通譲許を採用する国ばかりではなく、譲許税率を締約国ごとに個別に設定する国も多数存在します。そのような個別譲許を採用する場合であっても、どのような表で表現するかについては統一されておらず、税率を異にする国ごとに譲許表を定める方法と、我が国のように単一の譲許表に譲許の対象となる国を(最右欄の「remarks」で)それぞれ指定する方法があります(下の表「RCEPにおける各国の関税譲許の方式」参照)。

RCEPにおける各国の関税譲許の方式

共通譲許(全締約国に同じ税率) 国別譲許(税率差あり)
個別譲許表で表示 単一譲許表で表示
豪州、NZ、ブルネイ、カンボジア、ラオス、
ミヤンマ―、シンガポール
*マレーシア(インドにのみ個別譲許)
中国、韓国、ベトナム、インドネシア、
フィリピン
日本国、タイ

したがって、同じ産品を輸出する場合であっても、高税率を課される締約国の産品が低税率の締約国を経由して輸出された場合には明らかにEPA域内での税率迂回行為となり、あえて国別に異なる税率を譲許した輸入国の立場としては本来適用されるべき税率を適用するためのルールが必要となります。このため、第2.6条(関税率の差異)が設けられ、RCEP特恵税率を適用すべき「RCEP原産国」と輸出締約国を区別し、「RCEP原産国」の特定が行われます。

この税率差ルールは輸出締約国の税率以外の税率を任意に選択する方式(第2.6条6)と輸出締約国の税率を適用するためのカスケード方式(第2.6条1から4)とに分かれます。税率差が生じる品目は限定的で、大半のRCEP輸出品目は輸出締約国の税率が適用されることになると推察します。しかしながら、税率差が生じる品目(輸入センシティブ品目)については、輸出締約国の税率よりも高くなったとしても税率決定のための証明事務の負担を最小限にするために前者を、証明のためのコストを負担しても輸出締約国の低税率を求める輸入者は後者を選択する自由が与えられたと理解します。簡単に説明すると以下のとおりです。

≪輸出締約国以外の税率を任意に選択(第2.6条6)≫

産品の生産に使用された原産材料の供給国に適用される税率のうち最も高い税率(ただし、輸入者は証明義務を負う。)、又は

輸入締約国の当該産品の譲許税率で最も高い税率

≪輸出締約国の税率を適用するために満たすべきルール(第2.6条1から4)≫

第1段階:輸出締約国がRCEP原産国であれば、
当該輸出締約国の税率を適用する。(第2.6条1)

RCEP原産国は、原産性基準を満たした締約国とする(ただし、原産性判断の第2基準(原産材料のみから生産)で原産品とされる場合は、輸出国での加工が軽微でないことが要件)。(第2.6条2)

譲許表の付録で指定された特定産品に対しては、追加要件(輸出締約国で付加価値20%以上)を満たした場合に限って輸出締約国をRCEP原産国とする。(第2.6条3、各付録パラグラフ1(a))

第2段階:第1段階のルールで輸出締約国の税率を適用できない場合、

輸出締約国における当該産品の生産に使用された原産材料のうち合計して最高価額のものを提供した締約国の税率(第2.6条4)

この時点で容易に想像できることと思いますが、税率差が生じる産品の輸出締約国がRCEP原産国であるかについては、関税分類変更等の本来の原産性判断に加えて、原産材料の徹底した把握、税率決定のための付加価値計算を恒常的に実施しなければならず、利用者の負担増となります。

【原産性基準】

≪原産性基準≫

RCEPの原産性判断基準は、オーソドックスなASEAN(アセアン物品協定:ATIGA)由来の諸規定が多く採用されています。以下に簡単にまとめてみます。

原産性判断基準(第3.2条)は、地域協定であっても「国原産」の概念(日ASEANと同じ)と、スタンダードな①完全生産品、②原産材料のみから生産される産品、③PSRを満たす産品、の3基準を採用しています。

累積規定(第3.4条)は、「モノの累積」(部分累積)を採用。「生産行為の累積」(完全累積)の採用については、RCEPがすべての署名国について効力が発生した後に検討(5年以内に見直しを終了)されます。

付加価値基準(域内原産割合:RVC)(第3.5条)の計算式は、控除方式と積上げ方式を採用しています。

軽微な工程及び加工(第3.6条)は、日EU第3.4条の「十分な変更とはみなされない作業又は加工」とほぼ同じ内容を部分的に採用しています。特に「単純な」の定義を置いたことで、途上国税関による恣意的な原産性否認に対抗する根拠となります。

デミニミス規定(第3.7条)は、関税分類変更基準にのみ適用され、第1類から第97類までのすべての産品について産品のFOB価額の10%以下、第50類から第63類までの繊維・繊維製品について産品の総重量の10%以下であれば関税分類変更を満たさない材料の使用が認められます。この規定からは、繊維・繊維製品には価額と重量の両面のデミニミス規定の適用が可能となりそうですが、実務上の取扱いは実施法令等の公開を待ちたいと思います。

≪積送基準≫

直接積送(Direct Consignment)規定(第3.15条)は、従来型に比較して若干、緩和されているものの、自己申告をベースとしたメガEPA(TPP11、日EU・EPA)に比較すると、貨物の積卸し、蔵置等を行う「中間締約国」で「連続する原産地証明(back-to-back Proof of Origin)」が必要となり(第3.19条)、実施上、手間となりそうです。実施上の細則は不明ですが、この規定振りでは自己申告にも適用されるので、中間締約国の仲介者が輸出者として「連続する原産地証明としての自己申告」を行うことになるかもしれません。加えて、輸入者自己申告においてもこれらの証明が要求されるか等についても、実施法令等の公開を待たねばなりません。

【原産地手続き】

≪原産地証明≫

原産地証明(Proof of Origin)に係る手続き(第3.16条から第3.21条)は、第三者証明及び認定輸出者自己証明をベースとしつつ、将来的に自己申告のすべてのオプションを取り入れることが可能なものとなっています。協定条文上、輸入申告に際して必要となる原産性の証明は、以下のいずれかとなります。

第三者証明(Certificate of Origin)(原則として輸出時に発給当局により原産地証明書を発給)(第3.17条)、

認定輸出者自己証明(Declaration of Origin by an approved exporter)(第3.21条)、

輸出者又は生産者による自己申告(Declaration of Origin by an exporter or producer)(カンボジア、ラオス、ミヤンマ―の3ヵ国はそれぞれの国の協定発効の日から20年以内に実施。その他の国は、それぞれの国の発効日から10年以内に実施。最長10年の実施に係る延長も可能)(第3.16条2、3)、又は

輸入者による自己申告(Declaration of Origin by an importer)の導入は、すべての署名国の協定発効の日から5年以内に検討され、見直される(日本国については例外として、日本国の協定発効の日から輸入者による自己申告を実施することができる。ただし、その場合には日本国税関による輸出国への事後確認は不可)(第3.16条4)。

したがって、協定上は、我が国に関する限り、我が国がこれまで実施してきたすべての証明方法の実施が可能となりますが、実施のための法令案が公開されないと正確なことは述べられません。

≪特恵待遇の要求≫

関税上の特恵待遇の要求(第3.22条)には、以下のことが求められます。

輸入申告において産品が原産品であることの申告、

申告の際に有効な原産地証明(Proof of Origin)を所持、

輸入国税関に要求された場合には、原産地証明の原本又は認証された真正な写しを提出

≪検認・事後確認≫

輸入国税関による検認・事後確認(第3.24条)は、以下のオーソドックスな4形式で行われます。

輸入者に対する書面による要請

輸出者・生産者に対する書面による要請

輸出国発給機関・当局に対する書面による要請

輸出者・生産者の施設への訪問調査(書面による要請が先行)

≪特恵待遇の否認≫

関税上の特恵待遇は、①産品が協定上の要件を満たさなかった場合、②輸出者等が十分な情報を提供しない場合、③輸出者等が書面による要請に回答しない場合、④輸出者等が訪問要請を拒否する場合に否認することができます(第3.25条)。

≪記録の保管義務≫

産品が原産品であることを証明するために必要な全ての記録の保管義務が課せられ、その期間は、輸出入ともに3年間又は自国法令によるそれよりも長い期間とされています(第3.27条)。

2020年11月17日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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