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原産地関係エッセイ・論文・講演資料

第四十九話RCEP原産地規則の先進性とこだわり

11月18日に公開した速報に続いて、今回もRCEP原産地規則を取り上げます。前回はRCEP協定条文が公開された数日後に「速報」として掲載したため、特徴的なポイントに絞っての簡単な紹介記事でしたが、今回は1ヵ月の期間を経て時間的余裕もできたところで、もう少し踏み込んだ内容の記事をお届けしたいと思います。前回の記述を繰り返すことになりますが、実務上の取扱いは、実施に係る国内法令等の改正案が公開されるのを待つ必要があります。また、本稿は筆者の個人的意見を述べるものですので、JASTPRO他の関係する団体・機関の公式見解ではありませんので、ご留意ください。

さて、今回は「RCEP原産地規則の先進性とこだわり」と題して、驚嘆するような先進性とやはりそうかと思ってしまう「制度の踏襲」について書き綴ってみます。原産地規則章を読み込んでいくと、アセアンの強固な殻を打ち破るためにおそらく我が国の交渉団がリードした結果と想定される、より使い勝手がよく、「官」の過剰な介入を廃した、現実的に原産品にしやすいルールが配置されています。TPPでは全体としての進歩的な内容が、米国の繊維分野での過剰な保護に代表されるように各国の懸念を忠実に品目別規則に反映したため、非常に複雑怪奇な規則に仕上がってしまいました。また、日EUでは特恵原産地規則分野で構造及び条文のモデルを提供してきた老舗として、随所にEU独特の文言、条文構成が維持されています。自己申告制度採用を契機として新たな発想で規則を書き換えることができればよかったのですが、PSRでの完全生産品概念の使用に代表されるEU方式の原産地概念を理解するには利用者への若干の解説が必要となります。しかしながら、これら2つのメガEPA原産地規則の特筆すべき先進性は、積送基準を緩和し、輸出者・生産者・輸入者による完全自己申告を採用したことにあり、これまでの硬直した「輸出時に当局による原産地証明書を発給」というくびきをとりはずし、特恵貿易を「線」の活動から「面」の活動に変換させる、グローバル・バリューチェーンを支える基盤を提供したものとして高く評価されてしかるべきと考えますので、あえて付言しておきます。

「使える」品目別規則

RCEPの品目別規則を検証してみると、その簡素さ、リベラルさに驚嘆させられます。まず、農産品について、付加価値基準を併存させ関税分類変更基準の補完を充実させています。工業品については、この簡素・リベラルな色彩が更に顕著になっており、通常、センシティブ分野として2工程(two-stage jump)が求められる繊維・繊維製品において1工程を基本ルールとしています。これは、衣類に3工程を要求するTPP11の「ヤーン・フォワード」の対極にあるものといえます。もう一つは、HS第84類から第90類までの機械類、エレクトロニクス、自動車等のルールです。自動車の完成車、車体については付加価値40%のみとなりますが、その他の品目は①製品ルールと②部品ルールに大別され、①の製品ルールでは専用部品からの組立てを全面的に容認しており、付加価値基準での補完も可能となっています。②の部品ルールは40%付加価値がメインルールで、CTHルールをデミニミス規定で補うこともできます。この方式は、1980年代後半のWTO調和非特恵原産地規則案として我が国が強く支持していたもので、特恵規則として復活することになるとは感慨深いものがあります。したがって、RCEP品目別規則は「使える」規則(原産資格を得やすい規則)として、世界モデルになり得るものと考えます。

「何でもあり」の原産地証明と検証

RCEPの原産地証明は、第三者証明、認定輸出者自己証明が即時実施、輸出者・生産者による自己申告が即時又は時間を置いて実施されます。特に、我が国においては輸入者自己申告を即時実施することが容認されています。これは、途上国を含む地域協定の原産地証明のモデルとなり得るもので、時代の趨勢として自己申告を求める先進国と官民の信頼関係が構築できていない途上国が固執する第三者証明を「足して2で割らない」ものとなっています。もっとも、アセアン諸国の中で発効当初から輸出者・生産者による自己申告を実施する国は少ないかもしれません。

輸入締約国税関による検証も、輸入者をはじめ、発給機関・関係当局、輸出者・生産者への書面照会が行われ、更には輸出締約国当局への書面照会後に輸出者・生産者の施設等への訪問検証が可能となっています。しかも、これらの検証手段は、第三者証明と自己申告によって場合分けされていないので、協定条文からは自己申告の検証をいきなり相手国当局に対して依頼することもできそうです。すなわち、我が国で実施している第三者証明の検証方法にTPP11、日EU・EPAの検証方法を併用し、しかも、あらかじめ順番を決めることなく、どのような形態でも検証が実施できるようになっているようです。訪問検証には輸出者・生産者及び発給機関・関係当局の書面による同意を得る必要があるので、いきなり乗り込まれるような事態にはなりません。

時代遅れの「連続する原産地証明」

せっかくの先進性に水を差すのが連続する原産地証明の存在です。メガ協定の最大のメリットである特恵貿易の「面」の展開が、任意規定とはいえ連続する原産地証明を残した結果、中間締約国での制度運用に悪影響が出ないことを祈る限りです。実務上の混乱が懸念されることとして、義務規定である積送要件と任意規定である連続する原産地証明の関係が挙げられます。第三者証明のみの地域特恵制度においては、連続する原産地証明は当初の原産地証明書の分割が困難な場合に、中継基地となっている中間締約国で原産地証明書の分割発給を可能とするもので、それなりの価値がある制度であると思います。しかしながら、完全自己申告制度の下においては、原産地自己申告の作成が可能な時間軸が輸出時から、第三国での輸出時、更には輸入国での輸入時にまで拡張されるため、当初の原産地証明を分割する必要もなく、必要になった都度、自己申告を行うことができます。また、中間締約国で積み替えられる原産品の取扱いについて、積送要件では「税関監督下」が絶対的に守られなければならない要件であるのに対し、連続する原産地証明では「税関監督下」が要件として入っておりません。したがって、中間締約国で原産品が輸入通関され、税関監督下でない倉庫に保管されたとすれば、たとえ連続する原産地証明が発給されたとしても当該産品は積送要件を満たさず、最終輸入国において原産資格を主張することはできないと理解せざるを得ません。積送要件と連続する原産地証明の関係を整理すると、以下のような推論が成り立つと考えます。

中間締約国において輸入通関され国内マーケットに入った原産品を使用して当該国で何らかの加工、生産が行われた結果、新たな産品が原産資格を得ることになれば、当該新たな産品を他の締約国に輸出する際には新たな原産地証明を取得する必要がある。⇒連続する原産地証明の発給不可

中間締約国において輸入通関され国内マーケットに入った原産品であって、産品の内装、外装の変更すらなく、何らの加工が行われずに、輸入された状態と全く変わらない状態で税関監督下にない倉庫に蔵置され、再輸出されたならば、当該産品は積送基準を満たさず原産資格を喪失する。⇒連続する原産地証明の発給可能

中間締約国において税関監督下において積送要件を満たす保管がされ、他の締約国に再輸出された場合、当該中間締約国における連続する原産地証明の発給の有無にかかわらず、当該原産品は原産資格を維持する。⇒連続する原産地証明の発給可能

最終輸入締約国は連続する原産地証明の不発給を理由として特恵待遇の否認をすることはできない。ただし、最終輸入締約国と直近の中間締約国が共にアセアン構成国である場合、事実上のルールとして当該最終輸入締約国税関は輸入者に対して連続する原産地証明の提出を求めるかもしれない。

最終的な輸入締約国税関が連続する原産地証明をベースとする原産品の確認手続を行う場合、最終輸入締約国の輸入者又は中間締約国の発給機関・関係当局若しくは(認定)輸出者に対して照会することになります。連続する原産地証明が発給・作成される中間締約国では加工が行われないことが前提であるので、中間締約国で当初輸出締約国における当該産品の生産工程等の詳細を完全に把握していることは稀でしょう。この場合、中間締約国の税関が発給当局として連続する原産地証明を発給したのであれば、当初の輸出締約国の発給機関・関係当局・輸出者・生産者に対して輸入締約国税関としての立場を利用して確認手続に入ることは理論上は可能となります。しかしながら、現実的な問題として、中間締約国の輸出者が発給した連続する原産地証明書の疎明のために同国の税関が当該輸出者が輸入した産品に係る確認を当初の輸出締約国に実施することがあるでしょうか。こうした疑問が生じるのも、単なるトランジットであるにもかかわらず連続する原産地証明の発給・作成によって輸入締約国と当初の輸出締約国との直接のリンクが途切れてしまうからです。これらの質問への回答は、各国の実施法令の公開に加え、現時点での連続する原産地証明の確認に関する実態調査を行わなければ到底得ることはできないものと考えます。

以上、RCEP原産地規則の先進性とこだわりについて論じてみました。さらに詳細を論じた小論文として、JASTPROウェブサイト(「お知らせ」欄)に11月30日付で 『月間JASTPRO 11月号』 の記事1:「RCEP原産地規則・手続に関する協定条文の概要(前編)」(10ページ)を掲載しています。前編では、RCEPのマーケットアクセスの概要、RCEP譲許税率の個別譲許と税率差ルール、原産地規則の原産性判断基準(第3.1条〜第3.14条)を協定条文に基づいて解説しています。(『月間JASTPRO12月号』には「RCEP原産地規則・手続に関する協定条文の概要(後編)」(16ページ)を掲載します。原産地手続き及び積送基準・連続する原産地証明に加え、附属書3A(品目別規則)の「附属書に関する頭注」で新たに規定された品目別規則における完全生産品要件の取扱いについての分析記事となっていますので、こちらもお読みいただければ幸いです。

(筆者注)
前回の【速報】及び上述の小論文の前編(6ページ後段)において、税率差ルールを説明した部分で≪輸出締約国の税率を適用するために満たすべきルール(第2.6条1から4)≫の「第1段階」の下に述べられた2つ目のポツで、「追加要件(輸出締約国で付加価値20%以上)を満たした場合」とあるのは、「追加要件(輸出締約国で原産材料の価額の20%以上を提供)を満たした場合」と修文します。「付加価値」であることには間違いないのですが、通常、付加価値には労賃、輸送費等も含めていますので、本要件を特定する用語としては不適切と判断したためです。
2020年12月18日 掲載
文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。

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