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八丁堀梁山泊 第7話

タイの原産地オタク達の日常

2017-05-02


 今振り返ってみると、最初、原産地規則にはパズルを組み立てていくような、また、クイズのような面白さがあると思った記憶があります。そんな直感的な印象から興味を持ち、また契機を得て、ここ数年原産地規則に関連する仕事に携わってきた筆者ですが、現在は、JICA専門家として、タイ税関の原産地規則課の職員とともに、タイ税関全体の原産地規則の能力向上に取り組む活動に携わっています。このたび、原産地オタクのためのサイトに寄稿させていただくこととなりましたので、タイで原産地規則に携わる者-彼らもまた「原産地オタク達」です-の日常をご紹介したいと思います。

 まずは、「タイの原産地オタク」が所属するタイ原産地規則課について簡単に紹介します。タイ税関における原産地規則課は2005年12月に公式に立ち上げられました。ASEANの代表的FTAであるATIGAの前身CEPTがASEAN域内のFTAとして先駆け的に発効したのは1993年、その後2000年代に入り、タイはASEANのメンバーとして、また独自にもFTAの交渉・締結を推し進めてきました。その流れの中で、貿易に係る知識を有している税関は原産地規則の実施について重要な役割を担うべきとして、政府がタイ税関に原産地規則に係る部門を設置することを指示したそうです。現在は15名ほどの職員が所属しており、FTA交渉から国内通達の制定/改正、研修/セミナーの実施に至るまで原産地規則に係る様々な業務を行っています。中には、原産地歴10年を誇る職員も在籍しており、日々彼らのオタクぶりを垣間見ることができます。

 タイ税関の職員とともに出張に出かけたときのことです。筆者は、様々な思惑を隠し持ちつつ、出張中はここぞと食事に一緒に出掛けるようにしています。そんな時、特に現地特有のめずらしい料理に触れた際などは、必ずその材料なり料理なりに対し、原産かどうかという話題で盛り上がります。中でも農産品なんかは恰好の題材で、その地に特有の食材などが提供された際には「これはWholly Obtainか」とか、「この場合関税分類変更基準を満たしているはず」とか、メニューに原産地規則を適用しようとします。冗談半分な会話ですが発想豊かな話題もあり、個人的には交渉や日常業務にももっとその機転を利かせたら面白いのでは、と感じることもしばしばです。

 そういえば、日本で原産地の仕事をしていたときも、やはり出張中の食事のタイミングで原産地規則を面白おかしくお話される方がいらっしゃいました。きっと日本の原産地オタクの皆様も似たようなご経験があるのではないでしょうか。

 次は、空港で機内預け荷物の手続きを行っている時のことです。筆者は、機内預け荷物の重量制限を超えて困った経験もないので気に留めることはないのですが、タイ原産地規則課の職員は、スーツケース重量を念入りにチェックします。さらに、その好奇心は自分の荷物におさまらず、同僚や筆者にも何キロだったかと聞きにきます。この日も、重量が重い人を見つけては「何が入っているのか」と質問をしていました(大概30キロを超えると好奇心の対象となります)。Aさんは持ち前の記憶力で、
 「往路は15キロしかなかったのに、復路は30キロになった。」
 と答えました。これを聞いて驚いたBさんは、一言こう言うのでした。
 「原産資格割合50%か!」
 (注:原産地規則に詳しい方からは様々なご指摘があるかと思いますが、何卒ご容赦ください。)

 とりあえずどのようなことでも原産地規則に関連づけようとするのは、原産地規則に携わる者の性なのでしょうか。
 とりとめのないことばかりですが、国を超えたタイにおいても、「原産地規則」というものは何か人を夢中にさせる性質があり、一旦その魅力にとりつかれてしまっては、日常生活に原産地規則を関連付けることが楽しみにさえなってしまう不思議な分野だということを感じます。この思いを勝手ながら原産地オタクの皆様と共感しつつ、皆様が引き続き原産地規則をこよなく愛されることを祈念して、筆を置かせていただきたいと思います。

 (後記)

 機会がありましたら、タイの原産地オタクの様子を以下タイ税関原産地プロジェクトサイトからもご覧ください。


JICA専門家(タイ税関) 濵田未央


文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。