本文へ移動

八丁堀梁山泊 第20話

TPP11における税率差ルール(前半)

2018-06-08


【序章:「オタク道」に関するウンチク】

 直近の掲載が2回続けて日EU・EPA関連でしたので、今回はTPP11で題材を見つけることにしました。TPP11の実施期日が迫ってきましたら、日常的に使用する諸規定に着目して、既存のバイ協定と異なる点などを書いてみようと思いますが、原産地オタクを相手に「梁山泊」を名乗る以上、最もオタクが好む素材から切り込むのが「オタク道」といえます。そこで選んでみたのが、栄誉ある窮極のオタク規定である「税率差ルール」です。

 この規定の策定に至る考え方及びその背景を理解するために必読と思われるものは、『貿易と関税』の2017年10月号で財務省関税局の岸本浩審議官が書かれた『TPP協定における国別譲許の場合の適用税率決定ルールについての覚書・「最終加工国ルール」、「主要加工国ルール」及び「国原産ルール」』(以下、「岸本論文」とします。)です。一方、この岸本論文はかなり難解な内容となっており、「税率差ルール」の逐条解釈を目的としたものではないので、チャレンジ精神旺盛な「オタク」としては、先ず「税率差ルール」の解釈について一言申し上げることを優先し、個人としての考え方を述べてみます。

【第1章:多国間EPAであるTPPで適用税率がバラけていたら・・・】

 まず、既存協定との比較において、何故税率差ルールが必要になるのかについて述べてみます。日アセアンCEP協定は、「アセアン+1」の11ヶ国で締結され、適用される税率はどの締約国からの原産品に対しても共通の、一本化された税率(共通譲許)になっているのに対し、TPPでは、ごく少数の品目に関して、譲許税率(TPP税率)が相手国によって異なる場合があります。岸本論文によると、TPP12ヶ国のうち、我が国、メキシコ、チリ、カナダ及び米国の5ヶ国で国別譲許があり、我が国については、約9,000品目のうち60品目について国別譲許になっているとの説明があります。

 さらに考慮しなければいけないこととして、日アセアンCEP協定は、域内で輸出入される産品の原産性判断を締約国毎に行なう(原産資格は、例えばタイ原産品、マレーシア原産品であり、日アセアン原産品ではありません。)のに対し、TPPでは域内原産(生産国の如何にかかわらずTPP原産品)の考え方を採用しています。通常の原産地規則実務においては、FTA税率は原産品の輸出国(≒最終生産国)に譲許した税率を適用することで問題ありませんが、地域原産の概念を採用するTPPにおいて税率差が発生する場合においては、輸出国の税率適用に固執すると、一旦他の締約国で原産品となった産品を、譲許税率の低い国に意図的に移送し、その国を最終輸出国とすることで、我が国に合法的な「迂回」輸出ができてしまうことになります。そこで、公平性の観点から、TPP税率が最終輸出国に拘泥せずに、「本来適用すべきであった税率」を適用できるようなルールの策定を試みたように思えます。

 税率差が発生してしまうのは、市場アクセスの交渉者にとっても決して本意ではなかったと推察いたしますが、交渉相手国にとっての最重点品目が、我が国の国内産業の中でも機微な品目である場合には、交渉妥結のためには仕方のない譲歩であったのでしょう。しかしながら、将来的に遅れて加盟してくる国が出現した場合、それらの国に適用される税率が、税率ステージングの1年目からの適用になると、先行締約国への税率(例えば、3年目の税率)との間にギャップが生じます。したがって、共通譲許を採用し、かつ、遅れて参加した国に先行国と同じ(例えば、3年目であれば、初年度、次年度のステージングを飛ばして一挙に3年目の)税率を初年度から適用しなければ、税率差ルールは必ず必要になる性格のものであるとも言えましょう。これは、タイ、韓国がTPP11加盟に意欲を示していること、更には、米国が将来的にTPPに戻ってきた時のことを想定すれば、実務家にとっては大きな関心事であるはずです。

【第2章:税率差ルールが適用される品目は?】

 TPP協定附属書2-D(日本国の関税率表)の付録C(関税率の差異)には、一連の税率差ルールが規定され、さらに表C-1として26品目がリストアップされています。一見、日本国の税率差ルールはこれら26品目にしか適用されないように読めてしまします。しかしながら、岸本論文では、我が国では約9,000品目のうち60品目について税率差が生じる旨が述べられており、残された34品目の所在及びそれらの品目に適用される税率差ルールを明らかにしなければなりません。そこで、「百聞は一見に如かず」と、我が国の譲許表(附属書2-D)に当たってみることにしましょう。

附属書2‐D(日本国の関税率表)の付録C(関税率の差異)表C-1(抜粋)

関税品目品名期間
441231.111(1)側面にさねはぎ加工、溝付けその他これらに類する加工をしたもの1年目、2年目及び
9年目から15年目まで
441231.191(2)その他のもの1年目、2年目及び
9年目から15年目まで
441231.911-厚さが3ミリメートル未満のもの1年目、2年目及び
9年目から15年目まで
441231.921-厚さが3ミリメートル以上6ミリメートル未満のもの1年目、2年目及び
9年目から15年目まで
441231.931-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの1年目及び10年目から
15年目まで
441231.941-厚さが12ミリメートル以上24ミリメートル未満のもの1年目及び10年目から
15年目まで
441231.951-厚さが24ミリメートル以上のもの1年目及び10年目から
15年目まで


日本国の関税率(譲許)表(附属書2‐D)(抜粋) 【その1】

関税品目品名基準税率実施区分備考1年目2年目3年目4年目
 (2)その他のもの 
 (1)厚さが6ミリメートル未満のもの 
441231.911-厚さが3ミリメートル未満のもの10.0%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)5.0%5.0%5.0%5.0%
441231.911-厚さが3ミリメートル未満のもの10.0%B11他の締約国に対する待遇9.0%8.1%7.2%6.3%
441231.921-厚さが3ミリメートル以上6ミリメートル未満のもの10.0%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)5.0%5.0%5.0%5.0%
441231.921-厚さが3ミリメートル以上6ミリメートル未満のもの10.0%B11他の締約国に対する待遇9.0%8.1%7.2%6.3%
 (2)その他のもの 
441231.931-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの8.5%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)4.2%4.2%4.2%4.2%
441231.931-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの8.5%B11他の締約国に対する待遇7.7%6.9%6.1%5.4%
441231.941-厚さが12ミリメートル以上24ミリメートル未満のもの8.5%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)4.2%4.2%4.2%4.2%
441231.941-厚さが12ミリメートル以上24ミリメートル未満のもの8.5%B11他の締約国に対する待遇7.7%6.9%6.1%5.4%
441231.951-厚さが24ミリメートル以上のもの8.5%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)4.2%4.2%4.2%4.2%


日本国の関税率(譲許)表(附属書2‐D)(抜粋) 【その2】

関税品目品名基準税率実施区分備考1年目2年目3年目4年目
 (2)その他のもの 
441231.939-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの6.0%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)3.0%3.0%3.0%3.0%
441231.939-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの6.0%B16ベトナムに対する待遇(付録B-2のSG16参照)5.6%5.2%4.8%4.5%
441231.939-厚さが6ミリメートル以上12ミリメートル未満のもの6.0%B11他の締約国に対する待遇5.4%4.9%4.3%3.8%
441231.949-厚さが12ミリメートル以上24ミリメートル未満のもの6.0%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)3.0%3.0%3.0%3.0%
441231.949-厚さが12ミリメートル以上24ミリメートル未満のもの6.0%B11他の締約国に対する待遇5.4%4.9%4.3%3.8%
441231.959-厚さが24ミリメートル以上のもの6.0%JPB16
 ****
マレーシアに対する待遇(付録B-2のSG14参照)3.0%3.0%3.0%3.0%
441231.959-厚さが24ミリメートル以上のもの6.0%B11他の締約国に対する待遇5.4%4.9%4.3%3.8%

 譲許表【その1】として抜粋した部分から判明することは、統計品目番号441231.911、同921、同931、同941及び同951においては、マレーシアとその他の国との2本立ての税率設定となっており、マレーシアとその他の国との税率差が、例えば、統計品目番号441231.911の品目では4%(1年目)、3.1%(2年目)、2.2%(3年目)、1.3%(4年目)となっています。

 一方、譲許表【その2】として抜粋した部分においては、例えば第441231.939号の品目には、マレーシア、ベトナム及びその他の国に対する税率が3本立てで定められていることが分かります。同品目におけるマレーシア、ベトナムとその他の国との税率差は、それぞれ2.6%、2.4%(1年目)、2.2%、1.9%(2年目)、1.8%、1.3%(3年目)、1.5%、0.8%(4年目)となります。

 26品目が記載される付録Cの表C-1の抜粋部分に戻りますと、統計品目番号第441231.911号、同921号、同931号、同941号及び同951号の品目のみが記載され、3%超の税率差が生じるステージングの期間が明示されていることが分かります。逆の言い方をいたしますと、譲許表に税率差が生じるとして記載のある品目には、税率差が3%を超えることがある26品目に加え、税率差が3%以下又は従価税以外の関税が設定されている34品目が含まれることが分かります。

 上記の説明を是認するものとして、表C-1の末尾の注釈に、以下の記載があります。

注釈 この表は、次の品目のみを含む。
(1)3パーセントを超える関税率の差異がある品目
(2)関税率の差異がある品目であってその関税が従価税でないもの

 この注は、本ルールの明確化のために設けられたのでしょう。(1)は上述の内容を確認していますが、(2)はどの項目に適用されるのでしょうか。26品目の譲許税率を確認すると、2品目(統計品目番号750120.100の「焼結した酸化ニッケル」及び同750210.000の「ニッケル(合金を除く。)」)において従価・従量選択税が課されていることが分かります。両品目とも従価税部分の税率差が8年目まで3%超(10.6%から3.1%まで)になりますが、従価・従量選択税であるため、従量税率を適用した方が安くなる場合には従量税率が適用されます。このような場合にも付録Cの税率差ルールが適用されることを確保するために、注釈の(2)が挿入されているのでしょう。9年目、10年目の従価税率は、それぞれ2.1%、1%であるため、従量、従価のどちらの税率が適用されても3%以下となります。この注釈の二つの要件は、従価税で3%超の税率差が生じる場合には、たとえ従価税以外の関税が設定されていても適用されるべき税率ルールは付録Cのルールであることを明確にすべく、定められたものと考えます。

 以上のことから結論付けられることは、

  • ① 付録Cのルールは、表C-1に列挙される26品目に対して指定された期限に限定して我が国の輸入に際して適用される。
  • ② 税率差が生じる品目で表C-1に列挙されない品目(34品目)に対しては、別の税率差ルールが適用される。

ということです。

 次回は、第3章として我が国の税率差ルール本体の解説に進みます。ご期待下さい。



文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。