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八丁堀梁山泊 第58話

改正京都規約個別附属書Kの改正について

はじめに

原産地手続きを規律対象とする国際協定には、古くは国際連盟時の「1923 年 11 月 3 日にジュネーブで署名された税関手続の簡易化に関する国際条約の適用について」がありました。一方、原産地規則の本体分野を規律対象とする国際協定は、今日までWTO原産地規則協定(1995年発効)と改正京都規約(2006年発効)の二つしかありません。しかも、WTO原産地規則協定が非特恵調和規則の策定・実施を前提とした諸規定を置いているにもかかわらず調和作業が頓挫した現状においては、WTO原産地規則協定の存在意義が薄れ、半永久的に第2条(経過期間における規律)が適用されることになります。WCOの改正京都規約個別附属書K(以下「附属書K」)は調和規則の策定を待って改正する予定であったので、未だ旧規約の附属書をほぼ維持した内容となっており、本格的な改正への期待が高まっていたところです。このような状況において、世界税関機構(World Customs Organization: WCO)の広報誌「WCOニュース」で附属書Kの改正に関する記事が掲載されたので、その要旨(原文は英語)を引用しつつ筆者の意見を述べてみます。引用元となる記事は、以下のとおりです。

WCOニュース第95巻(2021年6月号)フォーカス

題名 「改正京都規約附属書K – 提案及び目的の重要な側面」

著者 ロマン・ブリュワイラー(スイス連邦税関FTA・税関協定課シニア・アドバイザー)

https://mag.wcoomd.org/magazine/wco-news-95-june-2021/revising-rkc-specific-annex-k/

【要旨】

 『1974年に発効した「税関手続の簡易化及び調和に関する国際規約(京都規約)」は改正規約が2006年2月3日に発効し、近代的・効率的な税関手続きの将来像を描いた。しかしながら、国際貿易及び税関機能の双方の急激な進化の中で、新たな現実を反映させるべく2009年に改正京都規約の再度の改正が示唆され、WCO政策委員会及び総会は、2018年6月、改正京都規約の包括的なレビューを行う作業グループ(WG)の設置を承認した。

附属書Kが改訂されるべき理由

附属書Kは、原産地規則及び原産地手続き(証明書類及び管理)を対象としたが、他の重要な諸点が含まれない。例えば、原産地規則でも非特恵と特恵が区別されない。沿革をたどると、附属書Kは1990年代の旧京都規約全面改正の対象ではなかった。これは、WTO原産地規則協定に基づく非特恵原産地規則の調和作業と時期が重なっていたことが大きな理由で、附属書Kの改正は調和作業の終了を待つこととした。調和作業は、1995年の開始後3年以内に終了する予定であったが、予想を超える困難に直面し、未だ完結していない。

附属書Kは、詳細規定が置かれておらず、批准国も少数で、限定的な側面でのガイダンス程度のものである。調和規則の策定がままならない現状で、非特恵原産地規則は未だに各国の固有の措置に委ねられ、WTO原産地規則協定第2条(経過期間における規律)の一般規定に従うのみである。一方、特恵原産地規則については、近年のFTAの増大が効率的な特恵制度活用を妨げるほど複雑化している。事業者と税関当局は最新の貿易実務を反映しない諸々の規則と手続きに対応しなければならず、各国での異なる解釈・適用が散見される。

附属書Kのレビューは不必要なコストに対応する機会を提供し、結果として、FTA交渉者、税関当局及び事業者に対して原産地規則及び同手続きに係る理解の共有、アップデートされた一連のツールの提供が望まれる。

本附属書のレビューへの共同提案起案者及び達成すべきこと

当初から税関当局及び外部のステークホルダーの間では附属書Kに高い関心が寄せられた。最初の提案では、積送規定の改善、自己申告の導入、ITの活用促進を意図していた。EUは、附属書Kの修正よりも完全な書き直しを提案し、提案者及び関係団体から幅広い支持を得て、諸提案を統合した共同提案の策定につながった。共同提案国には、中国、EU、日本、NZ、ノルウェー、スイス、国連貿易開発会議(UNCTAD)、ユーラシア経済連合(Eurasian Economic Commission:EEC)、民間協議グループ(Private Sector Consultative Group:PSCG)の一員であるルノー・日産及びフォンテラを含む。

提案内容及び構造の主要な側面(共同提案からの抜粋)

附属書Kは特恵と非特恵の区別をしないが、両者は類似した概念に基づくように見えても、内容面、手続き面ともに、同じ扱いをすることはできない。附属書Kのレビューは、この区別を確保する機会を与える。

原産地規則及び同手続きの条文策定が、自律的なものであれ交渉の結果によるものであれ、多種多様な目的及び制約によって着想された政策的選択によって実施されており、その多くは税関とは無関係である。そのため、共通アプローチの確立が可能かもしれないが(これが達成されるほど、良くなる)、それらの範囲は当該政策上の選択によって限定されるかもしれない。

附属書Kの全面改正提案は、次の五つの原則に基づいている。

  1. WTO原産地規則協定と同様、特恵及び非特恵の明確な区別を附属書Kの構造及び内容において確立する。現行附属書Kはこれらを分離させていないため、この手法の採用は附属書の完全な書き直しを意味する。
  2. 新たな附属書KをWCO原産地概説書(Origin Compendium)及びその他の関連参考図書・調査報告書の上に構築される「ツールボックス」として活用し、締約国(及び締約国でないWCO加盟国)に対して明確な概念を提供し、共通の言語及び共通の意味を共有する原産地規則及び同手続きを確立する。それによって、税関、他の関係当局及びステークホルダーの理解・適用を一層容易にする。
  3. 特恵制度で一般的に使用される内容面での共通アプローチ、及び/又は、ベストプラクティスへの収束がみられる分野を識別し、附属書Kに取り込むこととし、それに満たないものは潜在的な推奨されるプラクティスまでに留める。ただし、品目別規則の調和を意図しない。
  4. 過去から踏襲している異なる長い伝統と慣例を調和させ、それぞれのベストである部分をバランスさせるような特恵原産地手続きの共通アプローチを検討する。
  5. 1974年の旧京都規約附属書D1の注釈及びWCO原産地概説書に含まれる技術的ガイドラインを勘案し、附属書Kのガイドラインを準備する。

次の段階

共同提案は改正京都規約のレビュープロセスに乗り、附属書Kの条文素案審査が2021年9月から開始される。これは、全プロセスの中でも最も困難な部分になりそうだが、産品が加工され、生産され、世界中に販売され、FTAの数が増え続けている世の中にあって、原産地規則及び同手続きの共通理解がもたらす明確性と予見可能性への期待は附属書Kの改正に要する努力が十分に価値あるものであることを意味している。』

【筆者意見】

改正京都規約の個別附属書の中で、旧京都規約附属書Dの規定をほぼそのまま引き継いでいた附属書Kが、ついに国際協定の本来の姿としての基準設定に向けて動いています。WCO広報誌に寄稿したブリュワイラー氏はWCOにおける附属書Kの改正手続きに深く関与し、現時点で公開できる情報を共有してくれたようですが、筆者が注目したのは以下の2点です。


  • EUによる完全な書き直しを提案が幅広い支持を得て、共同提案(中国、EU、日本、NZ、ノルウェー、スイス)の策定につながった。
  • 原産地規則及び同手続きは政策的選択によって実施され、共通アプローチの確立が可能かもしれないが、それらの範囲は当該政策上の選択によって限定されるかもしれない。


一点目は事実を述べただけですが、共同提案国に北米諸国が含まれていないため、共同提案をベースとして新附属書が策定されるのであれば、自然な流れとして欧州色が滲み出てくると想定されます。二点目は、規則・手続きの策定に当たって政策的な選択を是認する現状認識に基づいた将来予測なので、WTO原産地規則協定で試みられた関税分類変更の排他的使用といった革新的な提案は期待できそうもないことを示唆しています。

また、共同提案の策定に係る5原則を整理すると、次のように理解することが可能かもしれません。

  1. 今次改正は、特恵・非特恵を区別して構成するなど、附属書Kを全面改訂する。附属書KをWTO原産地規則協定に整合的に調整する。
  2. 「ツールボックス」として活用できる、共通規則・共通手続きに立脚した用語・概念の統一を行う。
  3. 既存規則・手続きの「良いとこ取りによる調和」を目指しつつ、品目別規則は各国に委ねる。
  4. 新旧特恵原産地手続きのバランスされた継続、すなわち、第三者証明と自己申告の両制度を共存させる。
  5. (HSの関税率表解説のように)事実上締約国の共通実施通達として使用されるガイドラインを策定する。


以上、現時点における筆者の推論を述べましたが、EPA原産地規則の一般規定(例えば、付加価値基準の複数の計算式、閾値部分を除くデミニミス規定、品目別規則を適用する際に考慮しない諸要素)がほぼ類型化している現在、これらの一般規定の概念部分の統一的解釈はそれほど困難ではないように思います。一方、特恵原産地規則で選択肢の提示にはなり得ても統一概念として共通項になり難いのは、(i) 国原産と地域原産の選択、(ii) 累積規定の適用対象(モノと生産行為の選択・組合せ)、(iii) 品目別規則の調和、(iv) 電子証明と自己申告への誘導、(v) 輸入国税関による検証相手の選択・組合せ(輸出国当局、輸出者・生産者、輸入者)などが考えられます。

最後に、新附属書が今後の原産地規則の適用指針として使用されるのであれば、特恵・非特恵にかかわらず原産地規則のメンテナンス上必須となる5年毎のHS改変における関税分類変更基準の調整に係る具体的かつ合理的な方策を提案していただけると、実務者のみならず規則の策定・実施に関与する政府関係者にも裨益することになると思います。私案としては、約3年前に八丁堀梁山泊 第24話 「原産地規則の将来をHSに見る」で詳しく論じており詳細には立ち入りませんが、HS改変の都度、品目別規則の悉皆的な技術的調整を行うことは差し控え、新たな品目表にそのまま「項変更」、「号変更」ルールを適用するとの慣行を定着させるべきというものです。そもそも実施が不可能に近い施策を附属書に規定しても官民の負担が増えるだけで、貿易の円滑化に逆行することになるので、新附属書の策定をこれまでの非公式に行われてきた慣行を正式に認知する機会としても活用していただきたいと考えます。

(注)エッセイコラム「八丁堀梁山泊」第24話https://www.jastpro.org/pages/38/detail=1/b_id=375/r_id=60#block375-60

 


文中、意見に及ぶところは筆者の個人的な意見であり、JASTPRO又は関係諸機関の見解ではないことを予めお断りしておきます。