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エッセイ「八丁堀梁山泊」

第五十一話 英国EU貿易・協力協定を実施するための英国での通関手続き
2021-02-16

  これまで約半世紀にもわたってほぼ国内と同様な自由なヒト、モノ、サービスの流通を謳歌してきた英国の生産、貿易従事者は、EUからの離脱によって(予告はあったにせよ)慣れない通関手続きにご苦労されていることと思います。英国議会下院(庶民院)ライブラリーによると、英国にとってEUは最大の貿易パートナーです。2019年の統計によりますと、英国のEUへの輸出は約2940億ポンド (対世界輸出の43%)で、EUからの輸入は約3740億ポンド (対世界輸入の52%)を占めます。このような密接な貿易パートナーの関係にありながら、英国はEUからの離脱を選択したわけです。英国時間の2020年1月31日午後11時(ブリュッセル時間の2月1日午前0時)に正式にEUから離脱した英国は、我が国とのEPAを早々と合意し、それぞれの議会において批准を済ませながらも、漁業問題等の解決に手間取り最重要貿易パートナーであるEUとのFTA締結が遅れていました。そして、英国時間の2020年12月31日午後11時に移行期間も終了するという、まさに崖っぷちに追い込まれた状況にあった12月24日のクリスマスイブの日に、英国EU貿易・協力協定 (以下「英EU協定」という。)が合意されたことはご承知のとおりです。その結果、英EU協定は、1週間というとんでもなく短い準備期間を経て、2021年1月1日に暫定適用が開始されています。EUを離脱した英国に生産拠点を置く企業にとって、良いクリスマス・プレゼントになったことと思います。欧州大陸から英国に部品供給を行う都度、MFN関税が適用されるということは悪夢にほかなりません。そこで、今回は、2021年1月1日に始まった英国の対EU通関措置の骨格を英国政府のウェブサイトから追ってみます(法令上の例外等については触れません。)。

 英国のEU離脱によって英国として通関手続きを実施すると、不慣れなことも手伝って官民とも事務量としては前年比倍増以上の負担になると思います。EU時に使用した通関システム自体は、調整の後に継続使用できると思われますが、EU加盟時に使用していた通関システムの符号等をすべてそのまま使用することはできないはずです。なぜならば、これまで国内輸送扱いであったEUとのモノの動きを対外貿易として通関手続きを通さなければならない点にあります。そのため、事業者が新制度に慣れてくるまで何らかの緩和措置を採用しないと、円滑な物流が止まってしまい、国民生活に重大な支障が生じることになります。それでは、以下に英国が採用した緩和措置の概要を説明します。

簡易申告制度
 英国において対EU貿易に係る通関手続きには、以下の2種類の簡易申告制度を採用しています。この制度を簡単に説明すると、英国税関からコンプライアンス上問題がないと認められた者であって、EUから麻薬、ワシントン条約該当物品、毒性のある化学品等の「管理物資」以外の産品を大ブリテン島(イングランド、ウェールズ、スコットランド)に輸入する場合、2021年6月30日まで自らが記録を保存するか、簡素化された電子申告を行うことで正式な輸入申告に代えることができるというものです。なぜ、北アイルランドが含まれないかというと、英EU協定合意の基本方針として、北アイルランドとアイルランド共和国(EU加盟国)との貿易は、北アイルランドがEUの単一市場に留まるため、通関手続きを要せず、他のEU加盟国との貿易にも同様な措置が採られるからです。なお、税関の許可を受ければ暫定措置が失効した2021年7月1日以降についても継続できるようです(この情報は数行しか記載がないため、現時点では詳細が不明です。)。


申告者の記録保存による方法:輸入者は輸入申告に係る産品を記録に残し、補足申告において詳細情報を税関に提供するもの。
(資格要件として、①提出後にすべての申告に係る記録を4年以上保持すること、②輸入管理物資を輸入する場合にはライセンスを取得しその他の管理上の要件を満たしていること、③税関がコンプライアンス上のチェックをしやすいような管理体制を組んでいること、例えば、監査記録が保持されていること、商業上の記録が保持され厳重に保存されること、物流に関連する不適切事案の発見と対処ができることが挙げられています。)

簡易申告手続きによる方法:輸入される産品についての概要を簡素化された電子的な国境申告を行い、補足申告において詳細情報を税関に提供するもの。
(資格要件として、より厳格な要件の充足を求められます。例示すると、①英国に事業拠点を有すること、②税関関連での優良コンプライアンス事業者であること、③最終的な補助申告を行った後に見つかった誤謬等への対応方針が確保されていること、④申請者、事業者の管理職に簡易手続の承認を阻害する事由としての関税犯則の記録がないこと、⑤禁制品の輸入を事業者として阻止するための手続が整備されていること、⑥輸入管理物品を輸入する場合にはそのライセンスを保有していること、⑦適正な申告を確保するための手続が整備されていること等が求められます。)


 英国税関はこれらの方法の実施のための許可を与えますが、その際に、事業者が守るべき条件をも提示します。また、簡易申告の許可申請は、少なくとも最初の補足申告(電子申告)を行う日の120日前までに行われなければならず、当該補足申告は産品の輸入の日から175日以内に行う必要があります。すなわち、1月冒頭にEUから輸入された産品については、2月後半までに簡易申告の許可申請を行わねばならず、6月後半までには補足申告を行う必要があるということです。さらに、補足申告を行う前に、関税の延納用の口座の開設が必要となり、支払うべき関税額が確定した場合には本口座から引き落とされます。

補助申告
 補助申告は、「輸出入貨物通関システム(Customs Handling of Import and Export Freight system (略してCHIEF))」を通じて行われるため、輸出入者はCHIEFへのアクセスを申請しなければなりません。また、電子申告を可能とするためのソフトウェア(30数社から発売されています。)を購入しなければなりません。これらがそろうと、補助申告の実施になります。補助申告の際に必要となるのは、以下の情報です。


税関手続コード(Customs Procedure Code)(Box37)
(税関手続コードは、税関及び消費税制度における物品への適用を識別するためのもので、輸出及び輸入の双方で実施されます。7桁の数字から成り、初めの2桁は税関手続き(例えば、保税倉庫からの引き取り、フリーゾーンへの搬入等)を識別し、次の2桁は直近の手続き(直近の手続きがない場合は00を記入)を識別します。これらの4桁はEUと共通のもので、残りの3桁が国別に定められた詳細を表します。)

HS細分(10桁)

積送照合用番号(例えば、インボイス番号、在庫記録番号、ジョブ番号)

荷送人・荷受人の名称

産品の型、数量、包装

輸送方法及び金額

通貨及び関税評価方式

証明書及びライセンス


 補助申告が許可されると、CHIEFシステムは税関からのメッセージとして支払うべき関税額及び輸入付加価値税(import VAT)額を通知します。輸入申告者がVAT登録されていない場合、付加価値税額は延納口座から翌月15日に引き落とされます。

最終補助申告
 輸入者は、補助申告を行った月の月末までに最終補助申告を税関に提出する必要があります。補助申告がコードの枝番を使用し、その枝番毎に申告される場合は、承認されたEORI番号毎に統合された申告を報告期限後の(当該月の)4就業日までに提出することになります。また、酒類、たばこ又は燃料を輸入した場合は、月末から数えて4就業日までに最終補助申告を提出します。

 最終補助申告を提出する際には、当該申告に固有なレファレンス番号及び以下の情報を含まなければなりません。


荷受人

申告者又はその代理人の名称・氏名

どちらの簡易申告方法を選択したか

書類又はライセンスの詳細


 最終補助申告がカバーする個々の補助申告の番号を、最終版、報告期限が到来したもの、前回の報告期限から遅れているものとして記載する必要があります。また、特段報告すべき内容がない場合であっても、期限までに最終補助申告を提出しなければなりません。さらに、最終補助申告において、申告遅延事案を報告することもできます。また、申告に以下のコード番号が含まれる必要があります。

税関対象物品:CPCコード 06 19 090

内国消費税対象物品:06 49 090

 これらの簡易申告に係る申告が遅延した場合には、民事上の罰金及び簡易申告許可の停止又は取消しがあり得ます。

英EU協定の完全累積規定適用上の猶予
 さらに、EUから非原産品を輸入して英国での最終産品の生産に際して材料として使用する場合に、当該非原産品の相手国原産部分又は相手国での生産行為そのものを考慮できる「生産行為の累積(完全累積)」を適用するのであれば、その事実を疎明するサプライヤー宣誓が必要になります。しかしながら、相手方が制度をよく理解していないとそのような追加要件を満たすことは容易でないと想定されることから、生産行為の累積に係るサプライヤー宣誓の「保持」(通関の都度提出を求めるわけではありません。)を2021年12月末まで猶予することとしました。EU側もこれと同様な措置を講じており、EUの対英国輸出者は、(英国の材料サプライヤーが作成すべき)サプライヤー宣誓を保持しなくても2021年12月末まで原産地に関する申告(SOO)を作成することを許容します。ただし、2022年1月末までに宣誓書を英国のサプライヤーから入手しなければなりませんが、もし入手することができなかった場合には、英国の輸入者に通知しなければならないとしています。

おわりに
 今回は、大ブリテン島とEUとの間の通関手続きに係る猶予策について簡単に説明してきましたが、本稿は、日々更新される英国政府のブレグジット関連サイトを仮訳したもので、あくまでも2021年2月11日現在での情報をお伝えするものなので、その旨をご留意いただければ幸いです。また、北アイルランドが置かれた特殊な事情に基づく通関手続き、EU以外の国との貿易に係る措置についても触れておりません。これらは、別の機会にお伝えすることができればと考えています。

 最後になりますが、英国はこれまでEUの一加盟国としてEUが展開してきたFTA、地域特恵等による便益を享受してきました。したがって、英国がEUのFTA・地域協定等をそのまま引き継ぐような措置を採れば、主体をEUから英国に切り替えることでほぼ似たような手続きを踏襲できるはずです。ただし、「そのまま引き継ぐ」ことも容易なことではありません。それらの詳細については、このサイトで続報する予定ですが、関税協会発行の「貿易と関税」2021年3月号に寄稿する予定ですので、ご興味のある方はご一読くださると幸いです。

《参照したウェブサイト一覧》(最終検索日:2021年2月11日)



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